EV普及に欠かせない「EV用タイヤ」 普通のタイヤとどう違うのか?

EV普及の課題

EV用タイヤのイメージ(画像:写真AC)

EV用タイヤのイメージ(画像:写真AC)

 近年、環境問題への対策としてエコカーの普及が進んでいる。そのなかでも電気自動車(EV)は、CO2排出量の削減やエネルギー効率の向上など、多くの利点を持つ。その一方で、特有の課題も存在する。詳細は後述するが、例えば「航続可能距離の短さ」や「初期費用の高さ」などが挙げられる。

 自動車関連業者による業界団体・日本自動車会議所のデータによると、2023年1~12月にかけて販売したEVおよびプラグインハイブリッド車(PHV)車両の国内販売台数は、普通車・軽自動車あわせて約14万台にのぼった。しかし、全体的な自動車売り上げの構成比としてみると、EVやPHVは

「約1.5%前後」

であり、ハイブリッド車の約47%に到底及ばない。

 このように、EVの普及がいまひとつ進んでいないなかで、EVの性能をさらに引き出す要素のひとつとして、近年注目され始めているのが

「タイヤ」

である。その証拠に、大手タイヤメーカーのブリヂストンが、2030年までに新たに販売する自動車用タイヤの9割をEV向けに切り替えるという発表もしているほどだ。

 ここでは、EV用タイヤがエコカー推進にどのように影響するのか、その特性と重要性について考察する。

EV用タイヤと普通タイヤの違い

EV専用ウルトラハイパフォーマンスサマータイヤ「ADVAN Sport EV」(画像:横浜ゴム)

EV専用ウルトラハイパフォーマンスサマータイヤ「ADVAN Sport EV」(画像:横浜ゴム)

 そもそもEV用タイヤは、「転がり抵抗」を最小限に抑える設計がされている。転がり抵抗とは、

「タイヤが地面と接触する際に生じる抵抗」

のことで、これが大きいと車はより多くのエネルギーを必要とする。

 一般的にEVは、ガソリン車よりも転がり抵抗が航続距離に及ぼす影響が大きいとされている。その原因は諸説考えられているが、なかでも

・トルク(タイヤを回転させる力)の大きさ
・重い車重

が関わっていることが多い。

 EVは特性上、電気モーターを駆動力として直接タイヤに伝えるため、ガソリン車よりも高いトルクを持つ傾向がある。これは、電気モーターが広い回転数範囲で高いトルクを発生し、特に低速域での加速性能が高いため、必然的にタイヤに転がり抵抗が高くなるのだ。したがって、転がり抵抗を低減することで、エネルギー効率が向上し、結果的にEVの航続距離が伸びる。

 2点目の「重い車重」だが、一般的にEVは充電バッテリーや各種快適装備を載せているため、ガソリン車よりも重い傾向がある。同じ車格で比較すると、日産のガソリンターボ車「デイズ」が940kgであるのに対し、EV「サクラ」は1080kgとなり、その差は150kgとなる。

 その結果、タイヤに大きな荷重がかかるため、EV用タイヤは高い耐荷重性を備える必要が出てくる。しかしEV用タイヤは、耐荷重性が高く、重い荷物を運んでもパンクするリスクが低く、安全性にも寄与するのだ。このように、

・転がり抵抗の抑制
・タイヤの耐荷重性の向上

は、EVが持続可能なモビリティの推進につながる重要な要素となっている。

EVに求められる「静粛性」

EV車の特性に合わせた静粛性と耐偏摩耗性を兼ね備えた専用タイヤ(画像:ブリヂストン)

EV車の特性に合わせた静粛性と耐偏摩耗性を兼ね備えた専用タイヤ(画像:ブリヂストン)

 さらに、「騒音低減」もEV用タイヤがエコカー推進に貢献する理由として挙げられる。EVはエンジン音がないため、タイヤから発生する騒音がより目立つ。このため、騒音を低減するタイヤが重要となる。

 例えば、タイヤメーカー・ミシュランから発売するEV用タイヤ「MICHELIN パイロット スポーツ イーブイ」は、静粛性の高いコンパウンドや内部に特殊フォームを組み込んでいるため、車内への騒音を約20%低減することが可能だ。EVの快適なドライビング環境をアシストしてくれるのだ。静かな走行音は乗員だけでなく、周囲の環境にも配慮する点で魅力的である。

 また、騒音の低減は都市部や住宅街などの静かな環境での走行に適しており、地域社会との調和を図る上でも重要な要素となる。このように、EV用タイヤが騒音低減に貢献することで、エコカーの普及と地球環境への配慮が促進されるのだ。

エコカー推進に必要な要素

2024年4月24日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

2024年4月24日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

 EV用タイヤはエコカー推進の一部として役割を果たしているが、それだけでは普及への道のりは遠い。

 EVの普及が難しい原因は複数存在する。まず第一に挙げられるのは、充電インフラの不足だ。現在の充電ステーションの設備はまだまだ整っておらず、特に長距離移動をする際には充電ポイントの不足が深刻な問題となる。

 そのため近年では、高速道路のサービスエリアや一部のコンビニなどで急速充電ステーションの設置が進められている。とはいえ、いまだに充電インフラの整備が進まない地域では、航続距離をなかなか伸ばしにくい課題が残っている。

 また、EVの価格も普及を阻む大きな要因となっている。現在のEVは、政府からの補助金や減税を利用しても、バッテリー技術の高コストや車両の製造費用の高さから、一般消費者にとって手の届きにくい価格帯に位置している。加えて、バッテリーの寿命や性能の低下に伴う交換費用、さらにEV用タイヤも比較的高価であることから、所有コストが高くつくというイメージが根強く残っている。

 そのほかにも、EVの走行性能や航続距離の向上が求められる。現行のモデルでは航続距離が限定されており、長距離ドライブや急な予定変更に対応しづらいという問題がある。近年ではバッテリーの高性能化や先述した充電スポットの増加、加えて政府の推進も相まって、少しずつ解決へ進んでいるが、時間はかかりそうだ。

 なかなか解決しにくい課題点が残されているなかで、EV用タイヤは普通のタイヤよりも

「ハイスペック」

であることが求められている。EVの能力をさらに引き出し、エコカーがより便利に使えるように、各タイヤメーカーでは今後EV用タイヤの開発が望まれる。

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