「今はこのありさま」 神戸市ポートアイランド、人口減少・住民高齢化で大ピンチ! 魅力あるまちづくり模索も“鉄道輸送力強化”は霧の中

マンモス団地は5000人の人口減

市民広場駅に到着したポートライナー(画像:高田泰)

市民広場駅に到着したポートライナー(画像:高田泰)

 街開きから40年余が過ぎた神戸市中央区のポートアイランドで、人口減少や住民の高齢化、商業施設の撤退が続いている。神戸市は街の再生に乗り出す方針だ。

 神戸市の中心・三宮から神戸新交通のポートライナーで約10分、ポートアイランド北部のみなとじま駅を出ると、周囲に大きな建物が現れる。駅の西には神戸学院大、神戸女子大など大学群、東は900戸を超すマンモス団地の「ポートアイランド住宅」。6月中旬の休日、大学方面へ学生の列が続くなか、団地は高齢者の姿が目についた。

「私が暮らす団地は年寄りの入居者が多く、空き部屋も増えた」

と70代の女性。神戸市によると、阪神淡路大震災の前に2万人を超えていたポートアイランドの人口は約1万5000人に減った(25%減)。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合は30.5%に達し、市全体の27.5%を上回っている。

 マンモス団地の南には、神戸市が鳴り物入りで整備した神戸ファッションタウンがある。アパレル関係の企業が集積し、震災前に1万人近くが働いていたが、今は5000人を切った。地域のシンボルだった10階建てのTASAKI(旧田崎真珠)旧本社などビルが次々に消えている。閉店した店舗も少なくない。工事をしていた作業員は

「この辺りは神戸ポートアイランド博覧会の跡地。ファッションタウンができたころはにぎわいがあったが、今はこのありさま」

と人通りの絶えた通りを指さす。著名な建築家の安藤忠雄氏が設計した店舗も閉店し、街路樹と雑草の緑に飲み込まれようとしていた。

老朽化進む第1期工事区域

従業員が大幅に減った神戸ファッションタウン(画像:高田泰)

従業員が大幅に減った神戸ファッションタウン(画像:高田泰)

 ポートアイランドは神戸港に建設された人工島。1981(昭和56)年に完工した北部の第1期工事、2010(平成22)年に工事を終えた南部の第2期工事で合計約830haが整備された。平地が少ない神戸市が、市街地拡大を目指して埋め立てた場所だ。六甲山系の土砂をベルトコンベヤーや船で運んで埋め立てる手法は「山、海へ行く」と呼ばれた。第1期工事区域には

・マンモス団地
・神戸ファッションタウン
・コンベンション施設
・大学
・港湾施設

など、第2期工事区域には神戸医療産業都市、その沖合に神戸空港がある。ポートライナーが三宮からポートアイランドを通って神戸空港まで運行している。

 神戸医療産業都市は医療関係企業や研究機関、病院などが360以上集まり、国内を代表する医療の集積地となった。神戸空港は2025年に国際線チャーター便、2030年に国際線定期便の運航が始まる予定。

 しかし、第1期工事区域は神戸市の産業構造転換や施設の老朽化で活気を失った場所が目立つ。

街の魅力向上へ今秋に実証実験

ポートアイランド南部に整備された神戸医療産業都市(画像:高田泰)

ポートアイランド南部に整備された神戸医療産業都市(画像:高田泰)

 神戸市は2022年度から「ポートアイランド・リボーンプロジェクト」をスタートさせ、街の将来ビジョンを検討している。アドバイザー役を務めるのは、建築家の藤村龍至東京芸術大准教授。2023年にポートアイランドの神戸国際会議場で開かれたシンポジウムでは、島内の緑化や歩行者空間の拡充を提唱した。

 神戸市は藤村准教授のほか、2023年度だけで地元の13団体、160人以上と意見交換を重ね、基本計画の策定に向けて準備を進めている。そのために今秋、計画しているのが、にぎわい創出を目指した実証実験だ。

 島内を南北に走る4車線道路のうち、2車線を歩行者空間とし、週末に生活雑貨を販売するイベントを開いたり、キッチンカーでランチを提供したりする予定。住民が歩きたくなる街に変え、街そのものの魅力を高めることを狙いとしている。

 神戸市未来都市推進課は

「1980年の街開きから40年余の間に生じた問題を解決する必要がある。実証実験の結果を見て再生の方向性を決めたい」

と説明した。再整備が本格化する時期は、神戸空港に国際線定期便が就航する2030年ごろを想定している。

鉄道輸送力増強も課題に

2030年に国際線定期便が運航を始める神戸空港(画像:高田泰)

2030年に国際線定期便が運航を始める神戸空港(画像:高田泰)

 ポートアイランドの活性化には、街の整備以外に解決しなければならない課題がある。ラッシュ時の混雑が問題になっている鉄道輸送力の増強だ。

 国土交通省によると、ポートライナーの最混雑区間は貿易センター~ポートターミナル間。朝のラッシュとなる午前8時台の混雑率は、コロナ禍前の2019年度で

「126%」

新交通システムでは東京都の日暮里・舎人ライナーに次ぐ全国2位だった。

 しかも、神戸空港の国際化で空港利用者が大きく伸びる可能性があるうえ、ポートアイランド2期工事区域や空港島の産業用地に多数の未利用地がある。

 コロナ禍後、ポートライナーの混雑はいくらか緩和されているものの、企業進出が進めばコロナ禍前以上の混雑となる可能性が高い。

混雑の原因

高齢者が目立つようになったマンモス団地(画像:高田泰)

高齢者が目立つようになったマンモス団地(画像:高田泰)

 混雑の原因にポートライナーの

「輸送力不足」

がある。阪急電鉄が神戸本線で運行する1000系車両だと1両当たりの定員が約130人なのに対し、ポートライナーの定員は1両当たり約50人(約39%)。通常の鉄道に比べて大きく見劣りする。神戸新交通は平日の午前8時台で三宮駅発の列車を28便運行するなど過密ダイヤを組むが、増便にも限界がある。

 現在の6両編成を8両に増やす構想もある。だが、実現には各駅のホームを拡張しなければならず、数百億円単位の投資が必要になる。費用対効果に懸念があり、ホームの混雑解消を目指した三宮駅の拡張だけが予算化された。神戸市営地下鉄のポートアイランド行き路線新設など、他の可能性も検討されているが、具体化していない。神戸市未来都市推進課は当面、

「バスの増便」

で対応する考え。だが、神戸市営バスは運転士不足などから、4月に一部路線の廃止や減便に踏み切った。運転士不足は全国的な問題で、大幅な賃金増がない限り、確保が困難とする見方も出ている。鉄道輸送力の抜本的な増強は避けられそうもない。

ジャンルで探す