日本人の“京都離れ”が遂に始まった? 市内の宿泊客「外国人70%超」の現実、子連れ観光客は「神戸に変更しました」のホンネ

嵐山は行楽シーズン並みの訪日客

平安神宮近くを走る京都市の観光特急バス(画像:高田泰)

平安神宮近くを走る京都市の観光特急バス(画像:高田泰)

 京都市の主要ホテルに宿泊した外国人客の割合が4月、初めて7割を超したことが分かった。円安による訪日外国人観光客の増加と同時に、国内客の落ち込みも影響している。朝のうちは閑散としていた「長辻通」に続々と訪日客が集まってくる。

 ランチタイムになると、両側の歩道は人でいっぱいに。やがて歩道からあふれ、

・バス
・タクシー
・人力車

が通る車道を歩く人も出てきた。右京区と西京区にまたがる観光名所の嵯峨嵐山地区は、梅雨時になっても春や秋の行楽シーズンと同じ光景が続いている。

 長辻通は渡月橋から天龍寺方面へ通じる地区のメインストリート。土日祝日は事故防止のため、車道を北向きの一方通行にしているが、あまりの混雑から平日も規制するかどうか、京都市と地元住民が話し合っているほど。京都市歩くまち推進室は

「とにかく観光客が多くて」

と頭が痛そうな口ぶりだ。

 長辻通の両側には、飲食店や土産物店が並ぶ。周辺には竹林の道や嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車、保津川下りの船着き場など人気スポットが多いが、日本人観光客は行楽シーズンが終わってさすがに減ってきた感じ。これに代わって目立つのが、欧米やアジアからの訪日客だ。飲食店で聞くと

「店内が外国人ばかりになることも珍しくない」

という。この傾向は中京区の錦市場や東山区の清水坂でも見られた。ともに狭い通りいっぱいに訪日客の列が続き、足の踏み場がない。出張でやってきた岡山県の会社員(48歳)は錦市場の入り口で立ち止まり

「通り抜けようと思ったが、これは大変。遠回りする」

といって引き返した。

外国人宿泊客が急増「7割超え」

錦市場で京都の味を物色する訪日客(画像:高田泰)

錦市場で京都の味を物色する訪日客(画像:高田泰)

 京都市の人気観光地が訪日客ばかりになる兆候は春からあった。京都市観光協会などがまとめた4月の宿泊客調査では、市内主要ホテル110施設の客室稼働率が前年同月を6ポイント上回る86.0%に達している。

 総宿泊数は延べ約97万泊。このうち、日本人客が延べ約29万泊なのに対し、外国人客が延べ約68万泊。前月に比べ、

・日本人客:25.7%減
・外国人客:20.3%増

となり、外国人客が占める割合が70.1%と初めて7割を超えた。京都市観光協会は

「欧米のイースター休暇、イスラム圏の断食明けなどが重なり、外国人の宿泊客が増える一方、日本人は物価高で宿泊需要が減ったのではないか」

と見ている。しかし、宿泊・旅行業界では日本人観光客の京都離れを危惧する声もある。

訪日客がホテル占拠

清水寺に参拝し、清水坂を下りてきた訪日客(画像:高田泰)

清水寺に参拝し、清水坂を下りてきた訪日客(画像:高田泰)

 東京都の大手旅行代理店にはこの春も京都旅行の相談や予約が多かったが、ニュースで報じられる混雑ぶりを気にする声が目立ったという。担当者は

「ホテルが早い時期から訪日客に抑えられ、思うように確保できないなか、利用客の多くから混雑を回避しようとする意向を感じた」

と振り返る。高知県の地方公務員(33歳)は連休中、家族3人で1泊2日の関西旅行を計画していたが、行き先を京都市から神戸市に変えた。

「ベビーカーを押して混雑の中を歩くのは大変。神戸は訪日客が少ないようなので」

京都観光には満足も混雑に不満

訪日客で混雑が続く四条河原町バス停留所(画像:高田泰)

訪日客で混雑が続く四条河原町バス停留所(画像:高田泰)

 日本人の日帰り観光客は増えている。

 京都市観光協会などが携帯電話の位置情報を基にしたビッグデータからコロナ禍前の2019年平均値を100とする日本人来街者指数を市内39か所ではじき出したところ、4月は全体で

「116.8」

だった。2019年4月の113.3を3.5ポイント上回っていた。2019年の同月より高かったのは、これで5か月連続だ。

 大阪市など近隣都市に宿泊したり、近場の人が宿泊を日帰りに切り替えたりしたことが考えられる。京都市観光協会は

「物価高の影響が大きいと考えているが、日本人の京都離れがないとはいい切れない」

と説明した。京都市ではコロナ禍前も日本人観光客の減少が問題になっていた。京都市によると、2015年に5202万人を数えたが、その後は毎年少しずつ下がり、2019年は4466万人(14%減)まで落ちている。

 2018年の調査では日本人観光客の9割以上が「京都観光に満足した」と答える一方、4割超が「残念なことがあった」と答えている。多くが

・観光地の混雑
・道路の渋滞

だ。これを受けて当時、さまざまなメディアが

「日本人観光客の京都離れ」

と書き立てた。2022年の調査でも京都観光に満足した日本人観光客は9割以上に上った。しかし、「残念なことがあった」との回答も4割近い。観光地の混雑を上げる声が最も多かった点は、変わっていなかった。

求められる抜本的な混雑緩和策

長い列が絶えない京都駅烏丸口の観光特急バス乗り場(画像:高田泰)

長い列が絶えない京都駅烏丸口の観光特急バス乗り場(画像:高田泰)

 京都市は混雑緩和に向けてさまざまな手を打ってきた。観光地の混雑情報をインターネットなどで発信するほか、混雑していない時間帯や比較的観光客が少ない観光地を推奨している。JR西日本は通勤ラッシュ並みの混雑が問題になった嵯峨野線の車両を増結・増便した。しかし、訪日客の多くが

・嵐山や錦市場、東山区の清水寺や祇園など定番の人気スポット
・中京区と下京区にまたがる繁華街の四条河原町
・下京区のJR京都駅

に集中し、市民生活に深刻な影響を与えている。対策が十分な効果を上げているとはいいにくいのが現状だ。

 6月からは京都市バスの観光特急が土日祝日に清水寺や左京区の平安神宮や銀閣寺方面へ運行を始めた。人気観光地へ向かう通常の路線バスも便数が増え、JR京都駅前のバス待ち行列緩和にそれなりの成果を上げているように見る。ただ、バスが渋滞に巻き込まれ、思うように利便性が高まっていない面も見受けられる。

 これらの対策は“対症療法”にすぎない。抜本的な解決策を打ち出さなければ、日本人客の減少が加速し、

「京都離れ」

が加速する可能性がある。そうなれば市民にとっても大きな損失だ。京都市は松井孝治市長の就任後、観光公害対策のプロジェクトチームを立ち上げているが、これまで以上に危機感を持ち、対処することを迫られている。

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