鈴木宣弘×森永卓郎 危険水域にある日本の<真の食料自給率>。森永「勝ち組と言わんばかりにキラキラした暮らしを謳歌している都会人はこの先…」

(左)鈴木宣弘 (右)森永卓郎

(写真提供:講談社)
農林水産省の発表によると、2022年度の日本の食料自給率(カロリーベース)は38%だったそう。そのようななか、「いざ食料危機が起きたとき、大都市の住民は真っ先に飢えることになる」と訴えるのは、経済アナリストの森永卓郎さん。そこで今回は、東京大学特任教授・鈴木宣弘先生と森永さんの著書『国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係』から一部を、お二人の対談形式でお送りします。

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【写真】鈴木宣弘さん、森永卓郎さん

日本の真の自給率

鈴木 日本はもともと、飼料穀物の輸入が非常に多いので、それが37パーセントという低い自給率に反映されている。ただ、化学肥料についてもほぼ100パーセントが輸入だということは考慮されていない。

もし肥料の輸入が止まれば、「まっすぐなキュウリ」の生産は止まってしまうでしょう。ほか、野菜の種の9割は海外の畑で種取りしたもの、要するに輸入しているんです。

また、米の種は現状輸入していませんが、将来的に輸入に切り替えられる可能性はある。もし米の種まで止まってしまうと仮定すると、日本の真の自給率はカロリーベースで9.2パーセントに下がる。37パーセントどころの騒ぎじゃないんですよ。

有事には食料輸入だけではなく、肥料など生産資材の輸入も止まる。その対策が必要なのは明白なんですよ。

マイクロ農業(自分で食べる分の野菜を自分で作る「自産自消」)のように、自然の摂理にあった、持続可能な農業の仕組みを模索しなければならない。

「キラキラした都会人」が真っ先に飢え死にする

森永 有事で農薬や化学肥料の輸入が止まった場合、ふだん使っている農家でも、無農薬でやれないことはないんです。農地さえあればね。

ただ、効率はドンと落ちてしまう。そうすると生産量ががくっと落ちるから、やっぱり都会の人に食料は回らない。

『国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係』(著:鈴木宣弘・森永卓郎/講談社)

いま、「勝ち組」と言わんばかりにキラキラした暮らしを謳歌している都会人は、みな飢え死にするんですよ。一方、農民は生き残る。

鈴木 そのことを理解していませんよね、いま。

森永 そうですね。ただ、そのときになれば社会はきっと大転換をはじめるでしょう。やっぱりこれまでの資本主義のあり方、都会の金持ちの暮らしや考え方は間違いだったんだと。

絶対に「FIRE」を目指してはいけない

森永 いま「FIRE(ファイア)」という、早期引退して、投資のリターンで左うちわで暮らすのを目指す若者が増えているんですが、私はずっと呆れているんですよ。お前らいい加減にせえよと。

だってこれからエブリシング・バブルが崩壊するんですよ。投資のリターンで左うちわどころか、資産が10分の1になるかもしれないのに、よくFIREなんて目指すよなと。

それこそ暴落で焼かれて丸焦げになってしまう。そういう意味のFIREならまだわかりますが(笑)。

鈴木 いまはバブル経済が崩壊する寸前ということですよね。その後は森永先生が実践されているような、より農業を重視する社会に変わってくるでしょう。

持続可能で豊かな生き方をしていかないと、地球環境も資本主義ももう持たない。

農地を買う

森永 田舎に行くと、家と畑と山がセットで1000万円以下くらいで買えるんですよ。山なしだと、100坪ぐらいの家が500万円しない価格で売りに出ている。だから住宅ローンを組む必要さえないんですよ。

真面目に貯金すれば、500万ぐらいは貯められるでしょう。

経済評論家の三橋貴明さんの言う「農地を買え」という投資法(投資商品を買うより、農地を持っているほうが飢え死にしないので安全)も、それなりに正しいんじゃないかと思います。

うちは農地を持っておらず、借りています。一応買おうとしたんですが、本物の農地は農業委員会の壁があって買えなかったんです。

ただこの前、長崎在住の女性から、「やる気になれば買えるのよ」と教えてもらいましたけど。「農業委員会にダメって言われても、乗り込みなさい」と(笑)。その人はそうやって農地を買ったそうなんです。

「マイクロ農業」に広い畑はいらない。日当たりが良ければ30坪もあれば十分。だからわざわざ農地を買う必要もない。しかもうちの近所だと1500万円もあれば住宅地を買えるんです。

鈴木 三橋さんは、「鈴木さんのお話を聞いて、自分でもやろうと思った」とおっしゃってました。

森永 じゃあ、三橋さんに指南したのは鈴木先生だったんですね(笑)。

※本稿は、『国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係』(講談社)の一部を再編集したものです。

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