ツーリングを安全&快適にしてくれるボッシュのバイク向け先進技術が凄かった
最近、バイクの世界でも前走車を追従するACC(アダプティブクルーズコントロール)を搭載したモデルが増えてきていますが、そのACC機構などを開発しているのがボッシュです。そのボッシュがARAS(Advanced rider assitance system)と呼ぶ先進運転支援システムに6つの新機能を追加。実際に体験してきましたが、実際のツーリングで役立ちそうな機能ばかりでした。
これらの機能は前後のレーダーセンサーと、ECU、IMU、ABSユニットによって提供されます。シンプルなシステムとすることで導入のコストを抑えているのもポイントです。
ボッシュの調査によると、ドイツ国内での2輪車事故の6件に1件はこのARAS機能によって防止できる可能性があるとのこと。この6つの新機能のうちの4つは、2025年に発売される予定のKTM製の新型バイクに搭載される見込みです。この新型バイクのプロトタイプにも少しですが試乗することができました。
■渋滞走行を飛躍的に楽にする「ACC S&G」
4輪車では一般的になってきているACCですが、2輪車ではツーリングモデルのフラッグシップ的な車種に搭載されるようになってきたばかり。それも、現行のシステムでは前走車に追従はしても、停止や再発進はサポートしていませんでした。その停止・再発進までを可能にしたのが「アダプティブ クルーズ コントロール - ストップ&ゴー(ACC S&G)」です。
マニュアルミッションのバイクの場合、停止の際にブレーキだけでなくクラッチも操作し、足をつかなければならないのでクルマに比べて難しさがあります。今回用意されていたテスト車両はKTMの新型モデルのプロトタイプで、AMTと呼ばれる自動変速機構が搭載されているためクラッチ操作は不要となっていました。
先導するクルマについて走り出すとACCによって追従してくれるので、アクセルを操作する必要がありません。変速も自動化されているため、車体のバランスさえ取っていれば何も操作することなく前走車に付いて行くことができます。
そして先導車が停止すると、ブレーキも自動でかかって停車します。ブレーキのかかり方も自然で、急停止する感覚ではないので、違和感は感じませんでした。
再発進はアクセルを少し捻るか、「RES」ボタンを押すことで可能。渋滞にハマったとしても、クラッチを切ってまた半クラッチを使って発進という操作をしなくて済むので疲労やストレスは飛躍的に低減します。
■グループライドに役立つ「GRA」
「グループ ライド アシスト(GRA)」はその名の通り、グループでのツーリングに役立つ機能。グループツーリングでは千鳥走行といってバイクが互い違いになるように走行するので、そのままではACCがうまく機能しないことがありますが、GRAはACCの機能を拡張し、斜め前を走るバイクにも追従できるようにするものです。
実際にテストコースで千鳥走行を試してみました。通常のACCでは、コーナリング中などに追従する対象が斜め前のバイクと正面にいるバイク(1台前のバイク)で切り替わってしまうことがありましたが、GRAを使うと斜め前のバイクに追従できます。ちょっとした違いではありますが、グループでツーリングをする機会が多いライダーには、快適性と安全性を高めてくれるはずです。
■操る楽しさと安全性を両立する「RDA」
ACCがアクセルを操作しなくても前走車を追従するのに対して、「ライディング ディスタンス アシスト(RDA)」という新機能はライダーがマシンを操りながらも、前のクルマへの接近しすぎるのを防止してくれるもの。ACCが高速道路で便利なのに対して、RDAは出先のワインディングなどで前のクルマに追いついてしまったときなどに役立つ機能です。
ワインディングでは、4輪車と2輪車では加減速するポイントが違うので、ACCで前走車に付いて行くとコーナーの手前で減速しないまま進入することになったり、コーナー出口ではアクセルが開けられずに不安定になったりします。その点、RDAはアクセルで車速のコントロールができるので、そうした不安やストレスがありません。
それでいて、前のクルマとの間に透明なボールがあるかのように、ある程度以上は近づくことができないので、クルマがバイクとは違うポイントでブレーキをかけたとしても、追突を防ぐことができます。
■緊急ブレーキをアシストしてくれる「EBA」
危険回避のためのブレーキをかける際、ライダーのブレーキングが十分でなかった場合にアシストしてくれるのが「エマージェンシー ブレーキ アシスト(EBA)」。4輪と違い、2輪ではライダーが意図していないのにブレーキがかかると、バランスを崩して転倒にもつながるため、あくまでも“アシスト”でありライダーが操作しない限りは作動しないのがポイントです。
衝突が予測されると、まずディスプレイに警告が表示され、それでもライダーがブレーキをかけない場合はリアブレーキを使って車体を振動させて警告。ライダーがブレーキを握ったら、足りない分をアシストするという念の入れようです。
実際の体験では、クルマの横に吊り下げられたボールに接近する形でテストをしましたが、軽くレバーを握るだけでも制動力がアシストされるので、安全に止まれました。それも、パニックブレーキ的な効き方ではないので、車体が不安定になることもありません。長距離を走って疲れたツーリングの帰り道など、注意力が落ちてきた場面での安心感につながりそうです。
■後方からの車両接近を知らせる「RDW」
後ろからの車両接近をレーダーで感知し、接近し過ぎた場合にはディスプレイに表示してくれるのが「リア ディスタンス ワーニング(RDW)」。バイクは4輪車に比べて後方確認がしにくい乗り物なので、それをカバーしてくれる機能です。
体験走行の際には、後方から接近するバイクが、ちょうどミラーの死角に入っていてもディスプレイにはきちんと表示されていました。あくまで安全のための機能なので、作動するのは後方車両が接近し過ぎたときのみです。
■後方車両に警告を発する「RCW」
「リア コリジョン ワーニング(RCW)」は、逆に後方から急接近してきた車両に対して、ハザードランプを連続で点滅させ、バイクの存在を知らせる機能。渋滞の最後尾などに付いた場合、2輪車は見落とされることもあるので、それを防止するものです。
この機能は、停止させた車両に後方からクルマで急接近する形でデモンストレーションが行われましたが、ハザードランプが高速で点滅するためかなり目立ちそう。バイクで渋滞の最後尾に付いて後方からクルマが来ると、視認してもらえているのか不安になることもありますが、そうした不安を低減してくれそうです。
* * *
これらの機能についてボッシュのモーターサイクル&パワースポーツ事業部長のジェフ・リアッシュ氏に話を聞きましたが、「技術的にこういうことができるというアピールではなく、あくまでもライダーに必要とされている機能を開発している」という言葉が印象に残っています。
今回体験した6つの新機能は、どれも2輪車ならではのニーズに合わせたもの。ちょっとしたことではありますが、日常やツーリングなどでの小さな不安を低減してくれると感じました。2輪車はちょっとした接触や転倒でもダメージが大きい乗り物なので、こうした機能で少しでもその不安を取り除くことができれば、よりライディングを楽しむこともことにつながるはずです。
>> ボッシュ
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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