41年間おなじ顔!? 古い車両も最新車両も「間違い探しレベルの差」なぜなのか 遠鉄に聞く“こだわり”

2024年に最新車両2000形2009号を導入した静岡県の遠州鉄道。しかし1999年製造の2001号や1983年の1000形と変わらないデザインです。なぜ似ているのか、むしろ違いは何なのか、遠州鉄道に聞きました。

前々代の30形も似ている?

 遠州鉄道は、静岡県浜松市を南北に結ぶ私鉄です。全線にわたり都市部を走るため、単線ながら12分間隔で運行され、地方鉄道としては高い利便性を持ちます。
 
 この鉄道、ほかではあまり見られない伝統があります。それは「車両のデザインが変わらない」ということです。遠州鉄道で最新鋭の2000形(「けい」と読む)電車2009号は2024年製ですが、2000形2001号は1999(平成11)年製造です。この両車を乗り比べても、「間違い探し」レベルで差がありません。

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1000形電車1004号(右)と最新型2000形電車2009号。製造年の差は35年(安藤昌季撮影)。

 そもそもこのデザインは1983(昭和58)年に登場した1000形電車を基本としています。その1000形は近代化改装されていることもあり、1000形と最新の2009号を乗り比べても、ほとんど違いがありません。

 さらに言うなら、1000形の前の車両である30形も、長いあいだ同じスタイルで増備され続けました。

 30形は1950年代に流行した「湘南形」と呼ばれる正面2枚窓の流線形スタイルで、1958(昭和33)年に登場。1978(昭和53)年に製造されたモハ25・クハ85まで湘南形でした。おそらく最後に製造された湘南形車両だと思われますし、旧型国電の代名詞である吊り掛け駆動車でもあったのです。

 なお30形の最終編成であるモハ51・クハ61については、前頭部形状が変更のうえカルダン駆動方式となり、冷房も搭載されましたが、別形式にはなりませんでした。30形は2017(平成29)年まで活躍しており、59年間も現役の形式だったことになります。

ではどこが違うのか

 そのような30形を、1983年に登場した1000形が置き換えました。1000形は遠州鉄道設立40周年を記念し、新時代へのニューモデルとするために、前頭部形状は曲線を廃し、上下を後方に傾斜させたデザインとし、当時としては斬新でした。

 車体の塗装はスパニッシュレッドを基調とし、白い帯と斜めのストライプを入れました。これは富士山と東海地方をイメージしたものです。車両のストライプ塗装は1981(昭和56)年登場の国鉄185系電車で採用され、流行したデザインでした。

 2扉ロングシートだった30形に対し、1000形は3扉ロングシートとなり、空気ばね台車で乗り心地も改善。車両間は扉を廃し、とても開放的な内装でした。

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30形電車のうち、最後に製造された吊り掛け車両であるクハ85。いわゆる「湘南形」(安藤昌季撮影)。

 現在では時代に合わせて、側扉上部に2画面の液晶式車内案内モニターが追加され、車椅子スペースが設けられています。なお貫通路やモニター、車椅子スペースも含めて、2024年製の2000形2009号とほぼ同じ配置となっています。

 そして2000形も、残りの30形を置き換えました。1000形と比べ、省エネルギーやメンテナンスの軽減を進めた「人に地球に優しい21世紀の電車」としてデザインされた車両でした。

 制御装置がVVVFインバーターとなったり、起動加速度が向上したりと性能はアップしていますが、外観デザインや接客設備は1000形とほぼ同じでした。では逆に「間違い探し」レベルの差とは何でしょうか。

 2002号からは運転席がワンハンドルマスコンとなって、ドアチャイムが設置されています。2004号からは、ロングシート9席を3分割するスタンションポールを採用。2005号からは、乗降扉付近の床が黄色の塗装となり、軸梁式台車を採用して乗り心地を改善しています。2006号からは多言語化に対応した2画面液晶モニターが設置されました。

 ただ、液晶モニターは1000形を含み、2021年までに全車両へ搭載されているので、現在では違いはありません。

どうしてデザインを踏襲するのか 遠鉄に聞いた

 2021年製の2008号からは、遠州鉄道初となるLED行先表示幕を採用しました。そして最新2009号で、前照灯が初めてLEDとなりました。

 筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年10月、1999年製の2001号と2024年製の2009号を乗り比べましたが、最新の2009号でも、下窓が固定され上窓だけ可動するユニット窓、やや硬さがあるバケットシート、30形以来となる車両中間の大型通路や、1000形以来の昭和感のあるデザインなど、逆に斬新な最新鋭車両と感じました。

 ではなぜ、ここまで旧型車両のデザインにこだわるのか遠州鉄道に聞いてみると、次のように話しました。

「1000形導入より40年以上となりますが、現在でもそこまで古さを感じないデザインと考えています。また、今のデザインで、長い間地域の皆様に愛着を持っていただいていると感じています」

 加えて、導入コストを抑えられる利点もあるのだそう。デザイン上のこだわりについては、次のように話します。

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2008号車からは行先表示がLEDに。見やすいフルカラーだ(安藤昌季撮影)。

「30形から大きく変化した直線的なデザインです。30形から継承された車両中間の“きのこ型”貫通路もこだわりです」

 1000形以降の41年間、「幸いにも新車導入が可能でしたので、他社からの車両譲受は考えませんでした」とのこと。朝・夕ラッシュ時に連結制御できることや、架線電圧が特殊な750Vであることも、他社車両を譲受する点での懸念点だといいます。

 最後に、今後も同じデザインの車両を新造するのか聞くと、「営業施策として様々な検討をしており、現時点では決まっておりません」とのことでした。

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