世界初「バイク+クルマの同時開発」結果は惨敗! ノロくてオモチャっぽい“おまけバイク”モトコンポが、それでも世界を虜にしたワケ

「バイク+クルマの同時開発」という世界初のコンセプトでデビューしたホンダ「モトコンポ」。当時は売れなかったものの、じわじわと再評価を受け、40年以上も後に遠く米国でオマージュモデルまで作られる――その過程を振り返ります。

バイクとクルマ、どっちも“伝説” もとはセットでした

 1981年、ホンダから斬新なクルマとミニバイクが同時発売されました。クルマのほうは「シティ」、バイクのほうは「モトコンポ」という同時開発のモデルです。
 
 ホンダお得意の「モンキー」「ダックス」などの「車載できるバイク」の知見を生かしたもので、新開発の「シティ」のトランクに、「モトコンポ」のハンドルを折りたたんで載せられる仕様。その斬新なコンセプトは「世界初」と謳われ、「新しいデザイン」とも相まって大いに注目を浴びました。

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「モトコンポ」を「シティ」に車載したところ。専用のバンドで固定する仕組み(画像:ホンダ)。

 当時のプレスリリースにはこんな記載があります。

「四輪に二輪を搭載して行動することにより、バイクの機能とクルマの機能が掛け算的に広がり、アウトドアライフの新しい使い勝手を創りだすことを提唱するものである。これは二輪車、四輪車を持つホンダの強みをフルに発揮した世界で初めての試みでもある」

 確かに、この「モトコンポ」+「シティ」の登場以降、世界中のメーカーを見渡しても同様の試みは見当たらず、斬新かつ挑戦的な開発であったことがうかがえます。

 また、クルマの「シティ」も70年代までの日本車のイメージとは一線を画すオシャレなデザインで、まるでヨーロッパ車。この優れたデザインも「モトコンポ」+「シティ」がいまだ多くの人の記憶の中に残るゆえんでしょう。

 ところで、「シティ」(初代)の内装もまた実にオシャレなのですが、ここで目を疑うものを発見しました。それはハンドル周り。なんと1980年に発売された「フィアット・パンダ」(初代)を代表とするフィアット社のものと極似しているではありませんか。

「フィアット・パンダ」の登場時のコンセプトは、「クルマのシートを外して、キャンプ場などでのオフタイムのシートにも併用させる」という斬新なものでした。

 これは筆者個人の憶測でしかありませんが、もしかしたら「シティ」の開発にあたって「フィアット・パンダ」のような従来にはないアイデアの投入が叫ばれ、ハンドルにはついうっかりフィアット感が出てしまったのではないかともうかがえます。

実際売れたのはドッチ?

 話を元に戻すと、こんな斬新なコンセプトで登場した「モトコンポ」+「シティ」だったわけですが、当時の日本のミニバイクシーンは、それまでホンダが席巻していたレジャーバイクシーンからレーサーレプリカなどのスピード感あふれる高性能バイクに流行が傾き始めた時代でした。

 特にホンダとヤマハの間では「HY戦争」とも言われるほどの販売競争があり、市場はまさにカオスとなっていました。良く捉えれば、そんな中だからこそ斬新開発の「モトコンポ」の登場に至ったとも考えられますが、実際には「シティ」とセットとしたことで、当時のバイクファンからはそう支持を得ることができなかったようです。

 当時、「モトコンポ」の売れ残りが続出したせいか、大幅なダンピングで売られているケースがありました。同時期、高校生だった筆者の同級生に「親がダンピングを受けて『モトコンポ』を不必要に買ってきた」という友達がおり、試しに一度「モトコンポ」にまたがらせてもらったことがありました。

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鮮烈な登場だった「シティ」。テレビCMではイギリスのスカバンド「マッドネス」が採用され、彼らが踊る「ムカデダンス」は、クルマとは関係なく流行した(画像:ホンダ)。

 当時筆者は「スーパーカブ」を愛用していましたが、「モトコンポ」は比べ物にならないノロく、まるでオモチャのようなバイクだったことを記憶しています。しかし、そのオモチャ感が当時でもチャーミングに感じ、同級生の間で「全然走らないけど、かわいいバイクだね」と笑いながらまたがったのも良い思い出です。

 結果的に1982年に追加された「シティ」のターボ仕様以降、「車載できるモトコンポ」は謳われなくなり、結果的に1981年の鮮烈な登場からわずか4年後の1985年にはモトコンポの生産が終了しました。

じわじわ、じわじわ再評価!

 しかし、生産終了から10年後の、90年代中半以降にジワジワと起こった「カスタムバイク」ブーム以降、この独創的な「モトコンポ」が再評価。まさかの「モトコンポ」のアメリカンカスタムなどもあり、この人気は現在も続いています。

 また、2023年には「モトコンポ」のスピンオフ的モデルとしてホンダの電動スクーター「motocompacto」がアメリカで発売され、その斬新なコンセプトやデザインが大いに注目を浴びました。

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当時、若者たちの間で大ヒットしていたオーディオの「コンポ」からこの名に。ドットのロゴもオーディオの電子表示を意識してのものだと思われる(画像:ホンダ)。

 これらから言えば「シティ」とセットで発売された当初こそ、結果が振るわなかった「モトコンポ」ですが、この独創性とチャーミングなところは、ユーザーの心をくすぐるものがあり「愛され続けるバイク」としては他車と一線を画すようにも感じます。

 そして、バイクやクルマに限らず、多くの工業製品は独創的であればあるほど、後に再評価を受けたりプレミアムで高値となるケースは少なくありませんが、その代表の一つが「モトコンポ」のようにも思います。

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