傑作アニメが大いに影響「超絶オシャレなキッチンカー」の代名詞的存在とは? 所有者“ならでは”の苦労も

オシャレなキッチンカーとして使われることの多いシトロエン「Hトラック」。そのイメージを確立したと言われているのが、1980年代の人気アニメ『魔法の天使クリィミーマミ』だとか。しかもクレープの全国的な普及にも貢献したそうです。

少女アニメが「Hトラック=キッチンカー」のイメージを確立

 昨今、街中でよく見かけるようになった移動販売車(キッチンカー)。自動車ベースの移動店舗とひと口に言っても、トラックベースのものから、「ハイエース」に代表される商用バン、宅配便会社が使用するイメージの強い「ウォークスルーバン」、さらには軽バンや軽トラックまで様々な車種が使われています。

 ただ、その中でも見た目がオシャレということで、外観重視で選ばれる車種のひとつにシトロエン製の「H(アッシュ)タイプ」、通称「Hトラック」があるでしょう。

「Hタイプ」は、そのクラシカルかつファニーな見た目から、アフターパーツメーカーから軽ワンボックスのフェイスキットが出たり、はたまた輸入代理店がボディキットを取り付けた普通車バンを販売したりするなど、生産が終了してから40年以上経った今でも根強い人気があります。実際、車種名やメーカー名は知らなくとも、その外観は誰しも1回は見たことがあるはずです。

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東京都町田市の「Caffe la Macchina」が所有するキッチンカー。「H(アッシュ)バン」とも呼ばれるシトロエン「Hタイプ」をベースに所要の架装を施している(画像:Caffe la Macchina)。

 ただ、そもそもなぜシトロエン「Hタイプ」は移動販売車のイメージが強いのでしょうか。実は、「Hタイプ=キッチンカー」というイメージを日本に根付かせたのは、1980年代に放送された人気アニメ『魔法の天使クリィミーマミ』(以下クリィミーマミ)だと言われています。

『クリィミーマミ』は、1983年7月1日に放送を開始した女子向けTVアニメで、その後の中断期間を挟んで1990年代後半まで製作された「ぴえろ魔法少女シリーズ」の第1作となった作品です。この作品はのちのアニメに大きな影響を与えただけでなく、シトロエンの移動販売車とともに東京の繁華街で若者に人気だったクレープを全国へと広めた作品にもなりました。

 この作品が従来の「魔法少女もの」と違っていたのは、現代の日本を舞台に芸能界という女の子がリアリティを持って憧れる世界を描いたところにありました。主人公の「優」が魔法を使うのは基本的に自分のためで、その魔法もマミに変身する以外ほとんど使っていません。そして、男女恋愛や魔法少女という存在を隠して芸能活動と日常生活を両立させるなど、ヒロインの体験にスポットを当てたところが画期的だったといえるでしょう。

「クレープ」の全国普及にも貢献

 このように、『クリィミーマミ』はリアル志向が極めて強く、「優」の住む「くりみヶ丘」は国立市がモチーフとされ、ほかにも新宿や中野など80年代の東京の街並みが丁寧に描かれています。

 そのため、劇中に登場するクルマやバイクは、メルセデス・ベンツW123型やBMW「3シリーズ(E21型)」をはじめ、ヤマハ「ボビィ80」、フォルクスワーゲン「ゴルフI」、ロールスロイス「ファントムVI」など、やはり80年代に日本で見られた車種が登場します。

 じつは、『クリィミーマミ』でチーフディレクターを務めた小林 治さんは、アニメに実証主義を初めて取り入れたとされる『ルパン三世(Part1)』(1972年放送)に原画マンとして参加しています。おそらく、このときに演出を手掛けた大隅正秋(現おおすみ正秋)さんや作画監督の故・大塚康生さんから作品にリアリティを与える手法として実証主義を学んだのでしょう。

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街中で営業するキッチンカー。シトロエン「Hタイプ」のデザインを模したフェイスキットを軽自動車に取り付けている(画像:PIXTA)。

 小林さんは、『クリィミーマミ』では仲間とともに設立したスタジオ「亜細亜堂」として参加(グロス請け)しており、チーフディレクターの立場から全編にわたって実証主義に基づいた絵作りを貫いていました。

 そのような『クリィミーマミ』に登場するリアルなクルマの中でも、劇中でもっとも存在感を放っていたのが、「優」の両親が営むクレープ店のキッチンカーです。

 モチーフとなったのは冒頭に記したようにシトロエン「Hタイプ」です。このクルマは1948年に販売を開始しましたが、当時としては画期的な前輪駆動方式であったことから、荷室の床は低く天井は高く、広大な荷室を誇る商用バンに仕上がっていました。

 こうした先進的なプラットフォームを持っていたため、1981年まで33年にわたって製造され続け、その生産数は47万台あまりにも達します。なお、日本には1960年代後半と1970年代半ばの2回、正規輸入されているものの、車体サイズの割に割高だったからか、その販売数は最大でも200台程度にとどまるようです。

シトロエン「Hタイプ」その使い勝手は?

 こうして『クリィミーマミ』の放送時期には、正規輸入されていなかったシトロエン「Hタイプ」ですが、その愛らしく外車然とした外観ゆえにアニメやマンガ、映画などで多用されるようになっていきました。

 とはいえ、「Hタイプ」はキッチンカーとしての使い勝手はどうなのでしょうか。そこで、その中のひとつである東京都町田市の『Caffe la Macchina(カフェ・ラ・マッキナ)』を営む草薙紀明さんに話を伺ってみました。

 草薙さんにまず『クリィミーマミ』のことを知っているか聞いてみると、「子供の頃に『クリィミーマミ』を見た記憶があります。2011年にクレープ店を始めたときに『クレープ店と言えばこのクルマ』というイメージを持つお客様が多いことから「Hタイプ」で開業しました」との答え。

 そこで、肝心のシトロエン「Hタイプ」の使い勝手について質問したところ「デザインに一目惚れしてこのクルマを手に入れたのですが、普段走らせるには左ハンドル&3速MTで視界も狭く、ステアリングも重いうえ、古いクルマなのでスピードが出ないこともあって運転は疲れます。ただ、荷室が広いので営業するのに重宝しています」とのことでした。

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マルイシティ横浜で2024年11月17日(日)まで開催中の『クリィミーマミ40周年記念展』。全国巡回のこのイベントも横浜で最後だ(山崎 龍撮影)。

 なお、一説によると、昨今の日本国内におけるキッチンカーの隆盛に伴い、並行輸入された中古の「Hタイプ」は増えているとか。こういう動きを見ても『クリィミーマミ』が作り上げたイメージは偉大だったと言えるのかもしれません。

 ちなみに、「Hタイプ」とともに日本にクレープを普及させた『クリィミーマミ』は、2023年に放送40周年という節目を迎えました。現在、マルイシティ横浜では「魔法の天使クリィミーマミ 40周年記念展」を開催中です(11月17日まで)。興味のある方はこの機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

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