「地下鉄延伸」かなり大変!? 「工事の段取り」果てしなく…でも掘り始めてから開通までは短かった

東京メトロ有楽町線と南北線の延伸工事が始まりました。2022年3月の鉄道事業認可から2年半が経過していますが、今回の着工にこぎ着けるまでは、さらに長い時間がかかっています。地下鉄を造るにはどのような準備が必要なのでしょうか。

有楽町線と南北線が延伸着工

 東京メトロ有楽町線豊洲~住吉間、南北線白金高輪~品川間の延伸工事が、2024年11月5日に着手されました。2022年3月28日に鉄道事業法第3条に基づく第一種鉄道事業許可を受けてから2年半がたっています。地下鉄工事の着手までにどのような準備が必要だったのでしょうか。

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東京メトロ有楽町線(画像:写真AC)。

 まず、計画から事業許可までの流れを確認しておきましょう。大都市の鉄道整備は事業者間の計画を調整し、ネットワーク全体の整備効果を確保するため、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会の答申に従って進められます。ただし審議会が勝手に計画を作るのではなく、各事業者や自治体から新線の要望をヒアリングし、それを取りまとめたのが答申です。

 答申から着工まで長い時間がかかることも珍しくありません。副都心線(13号線)の場合は、1972(昭和47)年の答申で初登場し、帝都高速度交通営団は1975(昭和50)年に13号線の免許を申請しましたが、大蔵省は財政的理由により新規路線の免許を認めませんでした。

 13号線はその後しばらく忘れ去られた存在でしたが、1998(平成10)年に小渕内閣が緊急経済対策として地下鉄13号線の建設促進を掲げたことで「復活」します。同年12月に路線計画や運行計画を見直して追加申請し、1999(平成11)年1月に免許の交付を受けました。なお13号線は免許後に北参道駅の追加、西早稲田駅の位置変更を行ったため、同年5月に「事業基本計画の変更認可申請」を行っています。

 前述のとおり現在、鉄道事業は事業許可を得て進みますが、2000(平成12)年の鉄道事業法改正まで鉄道事業は、事業者の共倒れを防ぐための需給調整、地域独占を前提とした免許制でした。改正以前に申請された13号線は「免許」ですが、現在は免許制度はありません。

 事業許可(免許)を得たら、いよいよ着工に向けた各種申請です。地下鉄ならではの手続きが、「道路に鉄道線路を敷設する許可申請」です。鉄道事業法は第61条に「鉄道線路は、道路法(昭和二十七年法律第百八十号)による道路に敷設してはならない」「やむを得ない理由がある場合において、国土交通大臣の許可を受けたときは、この限りでない」と定めています。

 これは、いわゆる路面電車を所管する軌道法の第2条が「軌道ハ特別ノ事由アル場合ヲ除クノ外之ヲ道路ニ敷設スヘシ」としているのと対をなす規定ですが、道路下を走る地下鉄についても適用されるため認可が必要になるのです。

 また、道路下を利用するにあたり道路法32条に基づく道路占用の許可を道路管理者に、河川の下にトンネルを設置するにあたり河川法第24条・第26条に基づく河川占用の許可を河川管理者に申請します。このほかにも様々な法令に基づく許可が必要です。

山ほどある申請と認可 工事までにやることとは

 事業の前提となる許可を受けたあとは、設計と工事計画について鉄道事業法第8条に定められた「工事施行認可」を申請します。この時、やむを得ない事情から特別な設計を行う場合は、特別設計認可(特認)も必要です。

 例えば13号線では、新宿三丁目~東新宿間(和光市方面)の線路勾配を都営新宿線、都営大江戸線のトンネルを避けて建設する制約から、省令で定められた35‰を超えた40‰としています。

 もうひとつあわせて進めなければならないのが、都市計画の改定です。地下鉄、都市モノレール、新交通システムは都市計画法が定める「都市高速鉄道」であり、これらの新設や高架化による連続立体交差は、都市計画決定を経て事業化します。

 事業者が知事に都市計画決定を依頼し、知事が都市計画案を作成。これを公告(一般の住民に知らせること)・縦覧(一般の人が閲覧できるようにすること)し、説明会などで意見を集めたうえで、必要に応じて修正します。その後、都市計画審議会の審議を経て国土交通大臣に申請し、大臣の認可を受けると都市計画が決定します。

 同時に大規模な開発事業を実施する際に、あらかじめ事業が環境に与える影響を予測、評価することで、適正な環境配慮がなされるようにするための環境影響評価(環境アセスメント)を行い、都市計画案と同時に環境影響評価準備書を公告・縦覧します。

 13号線は、2001(平成13)年に池袋~渋谷間の工事が始まり、2007年に路線名が「副都心線」に決定。そして2008年に全線が開業しています。

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延伸事業計画の経緯(画像:東京メトロ)。

 有楽町線延伸は、2022年3月に鉄道事業許可を得たのち、同年8月に都市計画素案の説明会、環境影響評価調査計画書が作成され、2023年6月に「都市計画案及び環境影響評価書案説明会」を実施。2024年6月に都市計画決定、環境影響評価書の縦覧が行われています。

 事業許可から2年半をかけて、このような様々な手続きを進めて、ようやく工事に取り掛かれます。

 しかし着工しても、すぐにトンネル掘削を始められるわけではありません。道路施設物や埋設物の移設など準備工事や、路面から掘り下げるためのくい打ち(連続壁の設置)など、本格的な建設工事を行うための準備が長い時間をかけて進められます。

 有楽町線と南北線の延伸の開業目標はいずれも2030年代半ば、つまり工期は約10年です。地下鉄建設には長い時間がかかる印象ですが、実は駅部やシールドトンネルの建設に2~3年、レール、電気関係、建築工事に1年くらいしかかかりません。つまり、それまでの準備工事が工期の多くを占めているのです。

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