ローカル線が延伸で「こんなに変わるのを見せたい」ひたちなか海浜鉄道の社長へ延伸計画の詳細を聞いた! 2029年めざす

ひたちなか海浜鉄道には、終点の阿字ヶ浦駅から国営ひたち海浜公園方面へ延伸する計画があります。全国的に鉄道網が衰退する現状で、第三セクター鉄道が大きな投資をしてまで延伸に踏み切った理由を、同社の吉田千秋社長へ伺いました。

人気スポット「国営ひたち海浜公園」へのアクセス路線

 ひたちなか海浜鉄道(茨城県ひたちなか市)は、茨城交通の鉄道部門を受け継いで2008(平成20)年に発足した第三セクター鉄道です。路線は勝田~阿字ヶ浦間14.3kmの湊線で、2011(平成23)年の東日本大震災で被災したものの全線復旧を果たしました。

 線路は全線非電化の単線で、途中の金上駅、本社と車両基地のある那珂湊駅に交換設備があり、2014(平成26)年に高田の鉄橋駅、2021年に美乃浜学園駅を新設し、合計11駅となっています。
 
 終点の阿字ヶ浦駅は海蝕崖の高台にあり、太平洋に面した阿字ヶ浦海水浴場の最寄りです。海水浴がブームの頃は、上野駅から国鉄の臨時列車「急行あじがうら」号が直通運転しましたが、今は直通列車の賑わいも昔話です。

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阿字ヶ浦駅は島式ホームだが右側のホームは使用停止となって久しく、廃車となったキハ222形が「ひたちなか開運鉄道神社」の御神体として“安置”されている。交換駅として復活の際、この御神体はどうなるのだろうか(2024年9月、吉永陽一撮影)。

 阿字ヶ浦駅から約1km北側には、米軍射爆場跡地などを活用した国営ひたち海浜公園があり、近年ではネモフィラやコキアが“映える”と有名になり、国内外の観光客に大変人気なスポットとなっています。満開の季節となると湊線も観光輸送の書き入れ時で、気動車を増結して対応します。

 利用者数データを見ると、同鉄道開業の平成19年度が705,439人でしたが、新駅の開業による通勤通学利用の増加と、国営ひたち海浜公園や那珂湊おさかな市場への観光利用で増加傾向にあり、2023年度の年間利用者数は116万8244人でした。その前年は111万6350人で、1年で約5万人、開業年と比較すると約46万人増加しており、コロナ禍での一時的な減少を除くと、利用者数は年々増加しています。

 湊線は第三セクター鉄道となってから更なる発展と経済的効果を狙おうと、沿線の商工会が中心となって2013(平成25)年に「第1回ひたちなか海浜鉄道湊線の延伸懇談会(仮称)」が開催され、この運動が「ひたちなか海浜鉄道湊線の延伸を実現する会」へと発展しました。

延伸ルートはどうなる?

 会の趣旨は、終点の阿字ヶ浦駅から国営ひたち海浜公園方面へ延伸して、新駅を複数新設するもので、ひたちなか海浜鉄道や沿線自治体の長も交えて会合を重ねつつ、5年以上に渡って延伸計画が具体化していきました。

 ルートは阿字ヶ浦駅の行き止まり部分から北へと延伸したのち、国営ひたち海浜公園の南側にあたる県道247号(常陸海浜公園線)に沿って西へと進みます。自動車安全運転センターの脇を通り、ひたちなか道路ひたち海浜公園ICをクロスしながら、大型商業施設付近で終点となるもので、営業キロは約3.1km、2つの新駅が計画されました。

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阿字ヶ浦駅へ停車中の車内から行き止まり部分を見る。車止め手前には右側へ分岐するポイントがあったもののすでに撤去済み。延伸時には背後の木々も含めて、車止め周辺は激変するだろう(2024年9月、吉永陽一撮影)。

 延伸計画は順調に進み、事業許可申請は2020年に行ったとのこと。事業費は約78億円、開業時期は2024年度の予定でしたが、コロナ禍による観光需要低迷や建設費の増加を受け、ひたちなか海浜鉄道では国への工事許可申請を延期しながら、計画の見直しを図ってきました。

 その結果、工事区間を2期に分け、まずは阿字ヶ浦駅から国営ひたち海浜公園南側の南口ゲート付近までの1.4kmを第一期線、大型商業施設付近までの残り1.7kmを第二期線として、工事は2段階で進めます。

 ひたちなか海浜鉄道は2023年に再度、延伸工事許可申請を国へ提出し、工事許可が下りれば着工となり、早ければ5年後の第一期線開業を目指します。延伸事業許可申請の開業予定時期からかなりずれ込みましたが、いよいよ延伸が具体的に進むことになります。

なぜ延伸? 社長に聞いた

 昨今の鉄道網は全国的に縮小傾向にあり、路線廃止や区間縮小のニュースが絶えません。そのような状況でひたちなか海浜鉄道が延伸に踏み切ったのには、具体的な計画と増収の目論みがあったからです。吉田千秋社長は話します。

「延伸区間は公有地がほとんどで、市が区画整理を行って宅地化するほか、新たな工業団地も造成されます。観光だけでなく、日常の通勤通学輸送も見込めるのです」

 第一期線は1.4kmですが、阿字ヶ浦駅の高台の先端から高架橋となって、左へカーブしつつ、国営ひたち海浜公園南口ゲート付近に「新駅1」を建設します。「新駅1」と道路を隔てて南口ゲートと工業団地があり、「阿字ヶ浦土地区画整理事業区域」により宅地造成も行われ、第一期線の延伸開業は通勤通学と観光輸送の効果が表れやすいとのことです。

 すでに工業団地には企業の進出が決定され、第一期線の開業だけでも、増収の効果が期待できます。

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阿字ヶ浦駅を北西方向から空撮。駅は高台にあり、構内の外れは海蝕崖となってストンと落ち、この高低差を活用して高架橋が延伸される予定。用地買収はこれからである(2021年2月、吉永陽一撮影)。

「延伸とともに阿字ヶ浦駅の交換設備を復活させ、合計3駅の交換駅と20分間隔の運行を予定しています。列車は3両編成を4本用意した12両体制が、湊線の規模としてちょうど良いのです」(吉田社長)

 湊線は性能差が顕著な新旧車両が混在していますが、新たにJR東日本からキハ100形を3両購入し、車両を整理することで同一形式の3両編成化が可能となります。通常は単行ないし2両編成による輸送量ですが、多客時は最大3両編成で運行し、阿字ヶ浦駅を含めた3か所の交換駅で対応できるとシミュレーションしました。

ローカル鉄道、経営は厳しいのでは…

 気になる新線の構造ですが、近隣の鹿島臨海鉄道のような単線非電化の高架橋となります。平成13年国土交通省令第151号の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」第三十九条に「鉄道は、道路と平面交差してはならない」と規定があり、やむを得ない例外や国土交通省などが許可を得た場合を除き、新規路線は原則的に踏切を設置できません。

 そのため、建設費は嵩みますが延伸区間全体で高架橋と橋梁区間が1.6km、盛土と擁壁区間が0.9kmとなり、地平区間はわずか新駅部分の0.6kmとなります。

「湊線だけでなく日本のローカル線は赤字をなんとか縮小しながら経営していますが、第一期線1.4kmの延伸によって、会社がこんなに変わるんだ、ということを見せたいです」

 吉田社長はそう結びます。宅地化や企業誘致、季節によって増減する観光客の存在は、近隣の鉄道としては見逃せない増収チャンスです。最初は絵に描いた餅と思われたかもしれないローカル線の延伸計画も、計画段階から将来を見据えてしっかりと投資することで、投資以上のものが還元される。吉田社長は、この延伸が試金石になるはずだとにらんでいます。

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延伸計画の第二工区は国営ひたち海浜公園西口ゲートの目の前に「新駅2」を建設予定。道路を隔てて大型商業施設が控えている立地となる。空撮写真に加筆(2021年2月、吉永陽一撮影)。

 第二期線の「新駅2」はまだ仮の場所です。自動車安全運転センターの一部移動など、大掛かりな工事が控えているため、具体化はこれからとなります。延伸はまず第一期線の開業が始まりであり、この成功がその後の延伸と全国の鉄道の盛衰にかかっています。延伸工事が始まれば、全国の鉄道会社から湊線に注目が集まることでしょう。

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