過酷な「スバルライン電車」実現するか 急坂&急カーブで片道52‐74分 道路を線路にする「富士山登山鉄道」の課題とは

有料道路の富士スバルラインを電車で登ります。

1人1万円で年間300万人が利用すると…

 山梨県は2024年10月28日、富士山登山鉄道構想の中間報告書を公表しました。運営の枠組みや線路の敷設、車両の開発などの課題検討を進めています。

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富士山登山鉄道のイメージ(画像:山梨県)。

 県が検討を進める富士山登山鉄道構想は、富士山の麓から五合目まで、LRT(次世代型路面電車)を走らせようというものです。既存の有料道路「富士スバルライン」の路面にレールを敷いて、電車で上り下りします。

 道路は1964年に開通。延長24.1km、幅員8.0mで、標高は起点の胎内交差点が1050m、終点の五合目が2305mです。このスバルライン上に線路を敷設します。25~28kmほどの区間に、山麓(起点)、一合目、樹海台、大沢、奥庭、五合目(終点)の6駅を設置します(いずれも仮称)。中間駅は、展望・登山・散策の拠点、緊急時の一時退避などの機能を持たせます。線路を整備した後、スバルラインはバス・タクシーを含む一般車両の通行は規制されます。

 中間報告書によると、鉄道の敷設・運営に関する枠組みは「上下分離」方式が適切だといいます。鉄道・駅舎は県が、車両・付帯設備は民間が整備所有し、民間が独立採算で運営する方式が、官民のリスク分担として最もバランスが取れているとしています。

 この方式だと、設備投資額1486億円、1人1万円で年間300万人が利用すると、県も民間も採算がとれるとのこと。利用者が半減したり、設備投資額が倍増したりしても黒字を維持できるとしています。経済波及効果は40年間運用で累計1兆5600億円、雇用効果は延べ12万人という試算結果です。

過酷な急勾配・急カーブはクリアできる?

 技術課題についても検討が行われました。

 富士スバルラインは、平均52‰(パーミル)、最大88‰の勾配や、6か所のヘアピンカーブ(最小曲線半径27.5m)を有します。勾配と急カーブが組み合わさった箇所も複数あり、車輪の空転や乗り上がり脱線のリスクがあります。

 ちなみに、レールと車輪の摩擦力だけで走る一般的な鉄道「粘着式鉄道」の国内最急勾配は、箱根登山鉄道の80‰です。富士山登山鉄道の計画は、この勾配を上回る可能性があります。

 報告書では、晴天時は安定走行が可能で、雨天時は勾配40‰以上での加速で車輪が空転する可能性があるものの、増粘着剤散布装置の導入によって解決できるとしています。脱線対策としては、脱線防止ガードと外軌ゲージコーナ潤滑で対応します。

 LRTへの給電は、ワイヤレス方式も検討されていましたが、報告書によると、線路脇に給電用レールを設置する第三軌条と、バッテリーの併用が適していることが分かりました。第三軌条は、早期実装を進める観点で実績があり優位性があることが理由です。また、バッテリーは途中駅周辺や人が線路を横切る区間、急カーブなどでの使用が想定されています。

 車両のブレーキは、回生ブレーキ、機械ブレーキなど複数のシステムを組み合わせて安全を確保します。車両は、途中駅での乗り降りが少ないと想定されることから、低床型ではなく、床下に各種機器を積載する「普通型」が適しているとしています。1編成は長さ30m、定員60人で、これを2編成つなげて運行します。

 山麓から五合目までの所要時間は、五合目行きが52分、山麓行きが74分です。

 採算が取れるとする年間利用者300万人は、年間営業280日、複線、2編成連結(定員120人)、6分間隔で1日100往復という前提で試算されています。

 報告書では今後、事業化に向けて、想定する入山者数や技術検討・地元協議を踏まえた交通システム、付帯事業などの決定、関係法制度への対応、予約システムや運賃設定などを検討内容として挙げています。

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