アメリカ版新幹線「もしトラ」でまさかの“塩漬け”か?「トランプさん日本の鉄道を称賛したはずじゃ?」

次のアメリカ大統領選挙でトランプ前大統領(共和党)が勝った場合、目の敵にするバイデン大統領(民主党)が積極的に支援してきた高速鉄道建設への補助を打ち切るなどの“塩対応”に転換するとの見方が浮上しています。

SNSで明言「新幹線みたいな鉄道はわが国にはない」

「信じられないほど速く、信じられないほど快適で、何の問題も起きていない」。

 2024年11月5日のアメリカ大統領選挙で共和党候補として戦う予定のドナルド・トランプ氏(前大統領)は、今年(2024年)8月12日の短文投稿サイト「X」での対談で日本の新幹線を称賛し、「わが国にそんなものはない。それに近いものすらない」と肩を落としました。

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東海道新幹線を走るN700S(2024年5月、大塚圭一郎撮影)。

 アメリカにも高速列車はあり、代表的なのは全米鉄道旅客公社(アムトラック)が運行する、首都ワシントンとボストンを最高速度約240km/hで結ぶ「アセラ」です。ただ、ワシントン~ニューヨーク間、距離約330kmの所要時間が3時間弱と、高速性では新幹線と比べて見劣りします。これは線路を通勤電車や貨物列車と共有し、最高速で運行できる区間はごく一部に限られるのが要因です。

 トランプ氏は、新幹線に匹敵する高速鉄道がアメリカにないのは「筋が通らない」とも訴えました。一部からは高速鉄道の整備に意欲を示したとの期待感が出ましたが、否定的な見方の方が目立っています。

 バラク・オバマ大統領(民主党)時代の2009~13年に運輸長官を務めたレイモンド・ラフード氏は雑誌「ニューズウイーク」のインタビューで、トランプ氏が大統領に返り咲けば「高速鉄道の死刑宣告になりかねない」と警告しました。

米本土で相次ぐ高速鉄道計画

 アメリカでは現在、雨後のたけのこのように高速鉄道の建設計画が表面化しています。西海岸のカリフォルニア州南部と、カジノで有名な西部ネバダ州ラスベガスを最高速度約320km/hの列車で結ぶ「ブライトライン・ウエスト」が今年4月に着工しており、ロサンゼルス~サンフランシスコ間を将来結ぶことを目指した「カリフォルニア州高速鉄道事業」も一部区間が建設中です。

 また、JR東海が支援して南部テキサス州のダラス~ヒューストン間に専用軌道を建設し、東海道・山陽新幹線などで使われているN700Sをベースにした列車によって1時間半弱でつなぐ計画に対しては、アムトラックが2023年8月に支援を表明しました。なお、この計画には日本メーカーの日立製作所と三菱重工業、NEC、東芝インフラシステムズも支援を表明しています。

 このように、高速鉄道に対する機運が高まった背景には、連邦上院議員時代の36年間にわたってアムトラックで通勤し、「アムトラック・ジョー」の愛称を持つ現職の大統領、ジョー・バイデン氏の存在があります。

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2024年11月に行われるアメリカ大統領選挙で、共和党候補となっているドナルド・トランプ前大統領(画像:ホワイトハウス)。

 バイデン大統領は、高速鉄道ができればマイカーや航空機から利用者が移行して脱炭素化が進み、雇用創出にも一役買うと評価。2021年11月に成立した総額1兆ドル(現在のレートで約148兆円)規模のインフラ投資法に基づき、補助金の拠出も決めてきました。

意趣返しとの見方も

 これに対し、トランプ氏が大統領に復帰すれば意趣返しのように、バイデン政権が力を入れてきた高速鉄道への補助金交付などを見直しかねないと前出のラフード氏は訴えます。根拠の1つとして「共和党は一般的に高速鉄道への投資をあまり信用していない」と指摘しました。

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2024年10月現在、アメリカのジョー・バイデン大統領(左)とカマラ・ハリス副大統領。後者は2024年11月のアメリカ大統領選挙の民主党候補でもある(画像:米連邦議会事務局)。

 実際、トランプ氏は在任中の2019年、工事の遅れとコスト高騰に直面していたカリフォルニア州高速鉄道事業を「災難だ」と批判し、オバマ政権が割り当てた9億2900万ドルの補助金を撤回しています。また、トランプ氏はバイデン大統領のことを「アメリカ史上最低の大統領だ」とこき下ろし、政策を大きく転換する考えを明言しています。

 しかも、トランプ氏は地球温暖化に懐疑的なことで知られています。政権を奪取した場合には気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」から再び離脱すると唱えており、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)が取材した民主党支持者は、「トランプ氏に高速鉄道が脱炭素化に役立つことを説いても馬の耳に念仏だよ」と揶揄しました。

 一方、大統領選の民主党候補のカマラ・ハリス副大統領は脱炭素化の施策推進に前向きで、当選すれば「高速鉄道整備を含めた多くのバイデン政権の路線を引き継ぐのではないか」(アナリスト)とみられています。

 先に述べたように、アメリカの高速鉄道計画には、一部で日本企業も関わっています。接戦が続く大統領選は、アメリカの高速鉄道の行方を占う試金石にもなりそうで、そのような観点からも決して他人事ではないといえるでしょう。

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