「夜行列車」ブーム!? 相次ぐ“復活”に鉄道ファン歓喜…それ以外の「価値」は今あるのか?

夜行列車の臨時運行や、旅行商品としての運行がにわかに増えています。しかし定期列車としてはひとつだけ。世界では“ブーム”といえるほど夜行列車が見直されるなか、日本でも再興するのでしょうか。

夜行列車ちょっとブーム? かつては「結果的に夜行」

 2024年はJRが臨時で夜行列車を運行したり、旅行会社が夜行列車のツアーを仕立てたりするケースが増えています。定期の夜行列車はひとつだけですが、世界では夜行列車が見直され“ブーム”ともいえる状況も。往年のブルートレインや、夜行の急行・快速が復活する可能性はあるのか……それには課題も大きいと筆者はいいます。

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2024年夏に続き秋も、中央本線に白馬行き夜行特急「アルプス」が設定される。使用車両のE257系(画像:写真AC)。

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 かつて飛行機や高速鉄道が発達していなかった頃、長距離移動は船か鉄道が主役でした。例えば日本からヨーロッパに行くには、シベリア鉄道で1週間以上も移動するため、陸を行く船旅のようなものでした。昼も夜も走り続けるので、結果的に“夜行列車”となったのでした。

 当時は鉄道が最速の移動手段だったので、忙しいビジネス客が移動時間をリッチに楽しむ需要を掴み、長距離列車や長距離フェリーには豪華な客室も提供されました。

 飛行機が発達し、ビジネスリッチの長距離移動はファーストクラスやプライベートジェットに移り、鉄道や船の豪華客室の大半は消えました。日本では寝台特急列車と、夜行座席急行列車が各地域で運行されていましたが、航空網の発達、新幹線や高速道路の延伸と共に減り続け、東京-高松・出雲市間の「サンライズ」を除き消滅しました。

それでも「時間の有効活用」のメリットは大きい!

 夜行列車のもう一つの役割は、寝ている間に移動できる時間の有効活用(時間シフト)です。この時間シフトは物流の需要が大きいのです。

 工場が稼働しない夜の間に運べば中間在庫が減らせるので、貨物は夜行列車が主流です。トラックを運ぶカーフェリーも同様で大阪-九州間などで夜間発・早朝着の便が設定されています。一方で、大阪-別府間のカーフェリー「さんふらわあ くれない/むらさき」のように豪華な客室を持つ船も投入され、旅客需要も取り込んでいます。

 夜行で旅客がメリットを感じるには快適な睡眠が鍵となります。旅先で眠くて活動ができなければ時間短縮効果は失われてしまいます。夜行列車はフェリーに比べて空間に制限があり、揺れや騒音でも不利な面もあります。また、フェリーは高速化し列車との時間差は縮小しています。

夜行列車と「相性がいい」趣味がある

 日本においては、スピードでは飛行機や新幹線、安眠ではフェリー、コストではLCCや夜行バスがあります。夜行列車が優位となる領域は狭まっており、今後も夜行列車の主役は貨物列車になりそうです。

 2010年代以降にJRで相次ぎ登場した超豪華列車、いわゆるクルーズトレインも夜行列車といえばそうですが、これらは地域や鉄道会社をブランド化する「看板」としての役割の方が大きいと考えられます。

 他方、昔から夜行列車が支持されてきたレジャーの一つが「登山」です。

 東武鉄道はいまも、登山シーズンなどに夜行列車を運行しています。2024年にはJRも新宿-長野方面の夜行「アルプス」を特急として復活させました。

 早朝から山に入るため、夜行列車は移動時間と前泊を節約できます。登山者は体力もあり、普段と異なる環境でも眠れるので相性が良いのでしょう。

 冬のスキーも同じで、バブル前後のスキーブームの際は、スキーバスに触発された夜行スキー列車「シュプール号」が各方面に運行されていました。

 近年では夜行イベント列車も人気を呼んでいます。いすみ鉄道やえちごトキめき鉄道、西武鉄道などで実績があります。これは移動ではなく「乗ること」が目的ですが、鉄道ファンが夜行列車という非日常の鉄道を楽しむ趣向なので、安眠とは真逆の“ほぼ眠らない”異色の夜行列車と言えるでしょう。

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夜行フェリー「さんふらわあ くれない」のスイートルーム。設備面ではフェリーが列車を圧倒する(乗りものニュース編集部撮影)。

本格的な夜行列車の復活には「壁」

 夜行列車を運行する際には、どうしても課題になることがあります。それが「保線」です。

 全国新幹線計画が作られたとき、「夜行新幹線」も構想され寝台車も試作されました。しかし、新幹線が高速運行されている間は危険なので線路に立ち入れず、夜間に集中して保守を行うようになり、新幹線で夜行列車は運転できませんでした

 近年では在来線も、今までのように短い保守間合いで作業を終わらせる人員が確保しづらくなっています。このため新幹線と同様、夜間に集中して保守をしたいのですが、夜行貨物列車の運行と競合するため、この折り合いが課題とされています。

世界はどうなの? 夜行列車が活きる“条件”がある

 欧州では高速鉄道が発達して、一時夜行列車が減りましたが、環境意識の高まりから「フライトシェイム(飛び恥)」運動に触発され、飛行機利用を敬遠する層の夜行列車利用が伸びています。

 オーストリアのナイトジェットは路線を延ばし最高速度230km/hの車両も登場しています。中国は、鉄道で国を発展させる“鉄路先行”で高速鉄道が猛烈な勢いで建設され3万kmものネットワークとなりましたが、広い国土なので高速鉄道にも寝台車やファーストクラスに相当する商務車が投入されています。

 ロシアのシベリア鉄道は、日本人には現在利用が難しい状況ですが、手ごろな価格で7泊8日走り続ける列車を、地域の人も多く利用している様子でした。

 米国・カナダ・オーストラリアの長距離移動は飛行機が主流ですが、2泊以上の長距離列車も設定され、寝台車もあります。ただ料金は高めです。

 米国Amtrakでは長距離列車を手ごろな価格の座席(Coach)と高額な寝台(Sleeper)とに階級分けし、料金やサービスに差をつけていますが、高速バスやLCCとの競合が厳しい模様です。Sleeperは筆者が乗った列車でも全区間乗り通す人は数組に限られ、一晩のみの利用が大半でした。利用者に聞くと、医師やITなど高収入の職業の人が多く、「自動車を長距離運転するには時間がもったいないし、飛行機で行くには近すぎる」移動に使われていて、高速鉄道が少ない米国ならではの夜行需要でした。

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米国Amtrakの食堂車(筆者提供)。

 人口の多いインドやタイでは、中間駅の需要もあるようで、やはり夜行列車が使われています。趣味的には、お手軽な料金で食堂車などの付帯サービスも含めて夜行列車の旅を快適に楽しむなら、中国が狙い目のようです。

 こうしてみると夜行列車が活用されるシーンは、広大な国土、環境意識、人口、高速道路や高速鉄道との棲み分けや連携が影響するようです。日本では企業の排出ガス管理が製造・物流分野に留まることが多いですが、今後、社員の移動も管理対象となってくると、欧州と同様に、飛行機から列車への移転が起きるかもしれません。

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