高知に突如現れた「日本一遅い新幹線」 JRすら「知らなかった」 一体何なのか、“仕掛け人”を直撃!

高知の路面電車「とさでん交通」で、0系新幹線を模した電車が走っています。そっくりなJR四国の「0系もどき」とのツーショットも果たしましたが、JR側も当日まで路面電車の存在は知らなかったとか。ナゾの「0系」を追いました。

JRの「新幹線」と路面電車の「新幹線」奇跡のツーショット でもJR「たまたま」

「警察機動隊のバスをラッピングした電車がトデンを走っています!」
 
 2024年8月中旬に友人から突然連絡があった内容です。その友人は高知県在住なので東京の「都電」ではなく、とさでん交通の路面電車「とでん」なのは分かりましたが、その情報は日を追うごとに変化し、「JR四国の鉄道ホビートレインを模した電車」、もっといえば「新幹線0系を模した路面電車」が走っていると、鉄道ファンの間で話題となっていました。

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引退間近となった高知の新幹線風電車。継続を求む(坪内政美撮影)。

 鉄道ホビートレインとは、2014年からJR四国が予土線で走らせている観光列車のひとつで、キハ32形3号車を新幹線0系に模して予土線の普通列車として運用している車両です。予土線全通40周年と前身である宇和島鉄道100周年を記念して、第四代国鉄総裁を務め東海道新幹線の生みの親ともいわれる十河信二氏のゆかりの地が愛媛県出身であることにもちなんで運行されています。

 なぜこの時期に「とさでん」で“0系もどき”が?と思っていると、今度は高知駅に普段いることのない予土線の鉄道ホビートレインと、この謎のラッピング路面電車が並んでいる写真がSNSで出回りました。

 確認すると確かに機動隊のバスではなく、まぎれもなく新幹線0系がデフォルメされたまさに“鉄道ホビートレイン”です。沿線自治体で組織している予土線利用促進対策協議会のアドバイザーを15年勤めている筆者にも情報がありません。まずその事務局に確認してみると「そんなのが走っているのですか?」と寝耳に水。協議会も知らなかったようです。

 次に鉄道ホビートレインを走らせているJR四国の広報室に問い合わせると、「高知駅前で開催される『四国に新幹線を!夏まつり』(8/18)のツアー列車として(鉄道ホビートレインが高知駅前まで)走りました。その担当部署にも聞いてみましたが、(とさでんの0系電車)は当日まで認知していなかったようです」とのこと。

 しかも、その夏祭りのチラシやポスターにも、路面電車のラッピングの事は触れられていません。これは見に行くしかありません。早速、車検上がりの筆者の愛車“100万キロセドリック”で高知へ急行しました。

フェイクではなかった!「時速15kmの日本一遅い新幹線」

 高知に到着した坪内セドリックですが、何も運用情報も持っていませんでした。はりまや橋を起点に後免・伊野・桟橋・駅前線の4路線、総延長25.3kmにも及ぶ長大な路面軌道をもつ、とさでん交通。まずは東の終着である後免町から沿線を走り、すれ違う電車を確認するローラー作戦を展開しました。

 走ること30分。伊野方向から雑踏のなか現れたのは、まさに新幹線ラッピングのとさでん600形617号車です。かつては1974年に廃止された専用軌道「安芸線」への乗り入れも2両連結で行っていた車で、その名残りに密着型連結器とジャンパ線、エアホースが装備されています(現在は緊急時用のために装備)。

 すぐさま追跡モードに入り後を追います。車体を追尾しながら確認しますが、どこのクライアントで実施したものかを示すラッピングも文言もなく、折り返し停車中に車内も覗いてみますが、それとわかるポスターやパネルもありません。

 あとで電車の運転手にも聞いてみると、「これ、どこの会社が仕掛けたものかね……さっきも自転車で必死に追う人がいたなぁ」と詳細は分からないとのこと。誰も知らない謎の新幹線が悠々と高知の町を走っているのです。

 これは、とさでん交通本社に聞いてみるしかありません。すると、このクライアントは「高知県交通運輸政策課」であることが判明しました。

 聞けば「四国新幹線」実現に向けて、その機運を盛り上げようと企画されたもので、夏まつりへのチラシには、JR西日本・JR東海のライセンス許諾に手間取ったため掲載が間に合わなかったという事情があったようです。それが却ってサプライズという形で話題を呼んだともいいます。ちなみにラッピング経費や広告契約料等を入れて約250万円かかっているそうです。

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やはり新幹線といえば0系。その姿は四国の鉄道に色々影響を及ぼした(坪内政美撮影)。

 そして気になるのは、いったいいつまで走るのか。担当者曰く、通常のラッピング広告という扱いなので、契約の関係上8月10日からの2か月契約で運行しているそうで、つまり今月9日で運行終了となり、元の塗装に戻るというのです。

 間もなく「幻」となる高知の新幹線。県の担当者は、来年度も何かしらのカタチで実施できればと思案しているとのこと。「できれば引退も決まってしまった黄色のアノ新幹線にしていただければ……」と、すかさずリクエストを伝える鉄道カメラマンでした。

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