まだまだ走る?「国鉄最後の特急気動車」のいま 主力の座はすぐ奪われたが…38年現役のワケ
国鉄分割民営化を目前とした1986年、国鉄最後の特急形気動車としてキハ183系500・1500番台とキハ185系が製造されました。キハ183系はすでに引退していますが、キハ185系は特急や観光列車で活躍中。38年間を振り返ってみます。
国鉄がJR四国・北海道のために投資
国鉄の分割民営化直前、経営が危ぶまれていたJR北海道・四国のために、国鉄が最後の予算で製造した特急形気動車がありました。キハ183系500・1500番台とキハ185系です。
うちJR北海道向けのキハ183系は引退していますが、JR四国向けとして製造されたキハ185系は特急列車や観光列車として現役です。当時の国鉄は、老朽化した急行形気動車であるキハ58系の置き換えも念頭に置いていました。
キハ185系以前の特急形気動車は、急行形気動車とは異なる設計思想でした。特急形が「食堂車も連結した長大編成」の時代に設計されたため、最短で2両編成が組める急行形気動車のような運用は難しかったのです。キハ185系は「先頭車両に機械室を設置し、発電用エンジンで編成に給電する」という特急形の考え方を改め、1両ごとに冷暖房を管理できるシステムとしました。
コストダウンのため、冷暖房装置やドアエンジンにはバス用部品が用いられ、座席上にはバスのような冷房吹き出し口が付いています。編成は最短2両となり、柔軟な運用を可能としました。
国鉄特急形としては唯一のステンレス車体を採用し、メンテナンス費用の削減と軽量化を実現。当時の急行形は普通列車運用にも入っていたことから、置き換え用であったキハ185系も普通列車運用への対応が求められ、側扉が特急形の1両1か所から2か所に増えています。
走行性能はキハ181系の最高120km/hに対して110km/hでした。当時の四国は主要幹線で最高95km/hのため、過剰性能と見なされたからです。
発達した高速道路網が脅威に
普通車の接客設備は、キハ181系の簡易リクライニングシート(座席間隔91cm)に対してフリーストップリクライニングシート(座席間隔94cm)が採用され、快適になりました。なお、普通車・グリーン車の合造車であるキロハ186形だけは座席が異なり、普通車は座席間隔102cmで、0系新幹線の転換式クロスシートが装備され、折り畳み式大型テーブルも備えました。
グリーン車は国鉄標準であるフットレスト付きリクライニングシート(座席間隔116cm)ですが、大型背面テーブルが付き、座面・背もたれ形状が改良され、居住性は向上しました。
こうして完成したキハ185系は、予讃線の特急「しおかぜ」など四国内の看板特急に投入され、最大9両の長大編成で運行されました。
しかし、看板特急としての活躍は短いものでした。四国内の高速道路延伸によりJR四国の特急列車は脅かされ、国鉄特急形を改良したキハ185系でも、性能・接客設備で力不足とされたのです。JR四国は世界初の振り子式気動車である2000系を開発し、キハ185系の最終ロットの翌年である1989(平成元)年には、試作車が製造されます。
2000系は振り子付きで最高120km/h、フットレスト付きリクライニングシートを備えた普通車、1+2列となったグリーン車と快適性で上回り、所要時間もキハ185系「しおかぜ」より最大で40分も短縮したのです。
このため、キハ185系は登場から6年の1992(平成4)年に早くも余剰となります。全52両のうち、20両がJR四国からJR九州に売却され、九州の特急「ゆふ」などで使用されました。
なお、1992年はJR九州の看板特急787系電車の登場年で、譲渡されたキハ185系は赤と銀の塗装に変更されます。内装はグレー、座席は黒と787系に似たデザインとなり、和式トイレは洋式化、キロハ186形のグリーン席は普通車に格下げされ「乗りトク」設備となりますが、走行用エンジンが追加されました。
四国のキハ185系はどうなった?
JR九州のキハ185系は2004(平成16)年より、特急「九州横断特急」「くまがわ」用として、木材を多用した内装にリニューアルされ、外装もフォグランプ追加や塗装変更を受けます。さらに、2008(平成20)年より機関換装も受けて低公害となり、加速性能も向上しました。
そして2011(平成23)年より、観光特急「A列車で行こう」用として2両が改造されます。カウンターバーやセミコンパートメントの設置が行われ、オリジナルカクテルが楽しめる観光列車として、今日まで人気です。
一方、JR四国のキハ185系はキロハ186形の普通席がリクライニングシートに換装され、特急「うずしお」で活躍。1996(平成8)年より、徳島線、牟岐線の特急用としても抜擢されました。
しかし「うずしお」にN2000系気動車が投入されたことから、1998(平成10)年より10両が普通列車用仕様への改装を受けます。塗装変更やリクライニングの固定化、背面テーブル、灰皿の撤去、座席カバーのビニール化が行われ、3000・3100番台となりました。
この中の2両は特急「むろと」増発時に、特急仕様へ戻されますが、8000系電車の座席と交換されたためにフットレストと中間ひじ掛けが付いたリクライニングシートとなり、ややグレードが高くなっています。1999(平成11)年には、キロハ186形2両がジョイフルトレイン「四国アイランドエクスプレスII」として、1+2列リクライニングシート(座席間隔128cm)10列、カラオケなどを備えた豪華仕様となりますが、後述する「ものがたり列車」の種車となり、2021年に運用を終えています。
3つの「ものがたり列車」に抜擢
なお、キハ185形は大馬力を生かし、トロッコ列車の牽引用としても使われました。こちらは現在でも「アンパンマントロッコ」「藍よしのがわトロッコ」として、内外装も変更されて活躍中です。
2002(平成14)年には、キロハ186形が「ゆうゆうアンパンマンカー」に改造されています。アニメ『それいけ! アンパンマン』のプレイルームが備わるほか、グリーン席が設備そのままで普通車指定席となったので、こちらも「乗りトク」車両といえます。
その後、キハ185系に訪れた最大の変化は、JR四国の看板観光列車「ものがたり列車」となったことです。
2017(平成29)年に「四国まんなか千年ものがたり」へ投入され、3両編成のレストラン列車として人気を博します。続いて、2020年に2両が「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」用として改造され、レトロと近未来が融合した斬新な内外装のレストラン列車になりました。
そして2022年、「伊予灘ものがたり」の2代目車両として3両が改造されました。車両1両が個室となった「フィオーレ・スイート」の連結など豪華な仕様であり、普通列車にも使える特急形気動車として登場した本系列としては、最大の変化を遂げた車両といえるでしょう。
国鉄特急形として、装いを新たに最後まで特急として使用されるキハ185系の、末永い活躍を願う次第です。
10/07 07:12
乗りものニュース