ノズルが動く「世界最強ステルス戦闘機」飛ばすのも難しいの? パイロット激白“操縦のキモ”とは

2024年9月、三沢基航空祭にアメリカ空軍にしかないステルス戦闘機F-22「ラプター」が参加する予定です。同機は、排気ノズルが動くなど高い機動性がウリですが、操縦も相応に難しいのでしょうか。パイロットに聞きました。

エンジンノズルが動くと何がイイ?

 2024年9月8日に開催される三沢基地航空祭に参加予定のアメリカ空軍のステルス戦闘機F-22「ラプター」。今回は機体の展示だけでなく、アメリカ本土よりデモチームが派遣されることで、日本国内では初のアクロバット飛行によるデモフライトも行われる予定です。

 今年の三沢基地航空祭に参加する予定なのは、アメリカ本土のバージニア州ラングリー・ユーティス統合基地に所属するF-22デモンストレーションチーム。彼らは、エアショー(航空祭)向けの特別な訓練を受けており、専任のパイロットが飛行を担当します。そのため、飛び方も、観客に見せることを意識した内容になっているのが特徴だといいます。

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デモフライトで急上昇を行うF-22(画像:アメリカ空軍)。

 その飛び方はF-22という第五世代戦闘機の持つ機動性を存分にアピールできるよう考えられており、F-16「ファイティング・ファルコン」やF-15「イーグル」といった第四世代戦闘機とは別次元のものと断言できます。

 F-22の優れた機動性は、高度なフライトコントロールシステムと大出力エンジンのお陰ですが、それだけでなくアメリカ空軍の実用機で唯一、推力偏向ノズルを装備している点も挙げられます。

 推力偏向ノズルとは、エンジンのジェット排気の吹き出し口(エンジンノズル)が動く機構のことで、通常の機体制御に使われるエルロンや水平尾翼などを動かす場合と比べて、より高い機動性を発揮することができます。

 F-22の推力偏向ノズルによる高機動性は素人目にもわかるほどで、デモフライトの1演目である「パワーループ」という飛行では、低速で機体後部をドリフトさせるようにして宙返りします。この動きだけでも、日本で見られるF-15やF-2、F-16などとは全然異なるため、F-22の高い機動性の一端を垣間見ることが可能です。

F-15やF-16と比べて操縦は難しいの?

 ノズルまで動いて、F-15やF-16などとは別次元の機動性を有するF-22ですが、では操縦も相応に難しいのかというと、そうでもないとか。2016年から2017年までF-22デモチームのパイロットだったダニエル・ディッキンソン元少佐(現在は空軍を退役)によると、意外にもF-22の操縦自体は、他の戦闘機と比較して簡単だと言います。

「私たちファイターパイロットにとって戦闘機の操縦は容易でなければなりません。なぜなら、任務中には敵と味方を常に認識・区別し、戦況を理解し、目標を捕捉して攻撃を加えるまでの様々なタスクをこなす必要があるからです。それらを同時並行で行わなければならないことを考慮すると、『操縦』についてはむしろ簡単である必要があるのです」(ディッキンソン元少佐)

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2016年から2017年までF-22デモチームのパイロットと指揮官を務めたダニエル・ディッキンソン少佐。写真は当時のもの(布留川 司撮影)。

 また、推力偏向ノズルについても、それ自体を操作する特別な装置はなく、操縦装置は通常の戦闘機と同じ操縦桿・スロットル・ラダーペダルの構成になっているそうです。

「推力偏向ノズルはフライトコントロールシステムに統合されており、パイロットの操縦と機体の状況に応じて可動します。これはF-22パイロットの間でよく知られるジョークですが、F-22の操縦は『操作』ではなく『リクエスト』だと言われています。機体を直接操作するのではなく、機体にこう動いてほしいと命令するといった感じです」(ディッキンソン元少佐)

 F-22の高性能なフライトコントロールシステムのお陰で、デモフライトの演技の多くは通常のF-22パイロットでも行えるそうです。しかし、実際にデモフライトを行うには安全に関する特別な注意点があるそうです。

デモフライト見てわかった気になるな

 F-22のデモフライトは、その優れた機動性をアピールする形で行われますが、だからといってそこで披露される飛行がF-22の能力のすべてとも限りません。

「F-22のデモフライトはすばらしいものですが、実際の戦闘中にはこのような飛び方はしません。一番の違いは低空でのアクロバット飛行をすることで、通常のF-22パイロットがこのような飛行をする機会はほとんどありません。デモパイロットに選ばれると低空での飛行になれるために多くの時間を割きます」(ディッキンソン元少佐)

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F-22デモチームの支援要員はアメリカ空軍の隊員から選ばれ、チームの名前が入ったツナギを着用していた(布留川 司撮影)。

 ディッキンソン元少佐だけでなく、歴代のF-22のデモパイロットは飛行経験が豊富な教官資格をもつ隊員の中から選ばれるそうですが、低高度でのアクロバット飛行を安全に行うために、改めてデモフライト向けの訓練も受けるそうです。さらに安全対策として、実際にフライトする際は、飛行資格を持つパイロットが安全監視員として地上から展示飛行を監視すると教えてくれました。

 こうして、色々聞いてみるとF-22のデモフライトは戦闘機らしい派手さこそ目につくものの、それを実現するまでには機体の性能だけでなく、それを操縦するパイロットの長いキャリアと地道な訓練の積み重ねが存在していることがわかりました。

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