30年ぶり! 海保最新のマンモス練習船がデビュー「異例の2段船橋」その内部は? 運用は教育訓練のほかにも
広島県呉市にある海上保安大学校に30年ぶりとなる新型練習船「いつくしま」が配備され、このたび船内が公開されました。船橋(ブリッジ)が2つあるなど特徴的な構造を持つ同船、じつは教育訓練以外の使い方も想定されているようです。
斉藤大臣も駆け付けた就役披露式
海上保安大学校の新造練習船「いつくしま」の就役披露式が2024年8月26日、広島県呉市内で行われました。斉藤鉄夫国土交通大臣は「海上保安庁最大かつ最新鋭の練習船だ」と述べ、「学生・研修生の皆さんは、これまで以上に充実した実習環境で海上保安官としての素養をしっかりと身につけ、自信をもって現場に臨んでいただきたい」と激励しました。「いつくしま」での航海実習は9月から始まり、今後は一般公開も予定されています。
練習船「いつくしま」は、海上保安体制の強化に対応した人材育成を行うため、2020年度の補正予算に基づいて建造が決まりました。総事業費は約122億円。三菱重工業下関造船所で建造され、2024年7月1日に引き渡されました。
海上保安大学校ではこれまで、1993年に就役した練習船「こじま」を使用してきました。しかし同校は近年、幹部職員を増員するため本科学生、特修科研修生ともに定員を増やしています。さらに2021年度からは一般大学卒業者を対象とした「初任科課程」が新設され、幹部職員としての必要な学術・技能の教育を行っています。そうした背景から、既存の「こじま」では十分な教育ができなくなる恐れを抱えたため、より大型かつ最新設備を要した練習船の建造が求められていました。
こうした要望から誕生した新造練習船「いつくしま」は、船体寸法を全長134m、幅16.3mと大型化。排水量も既存の「こじま」が2950総トンなのに対して、5500総トンと倍近くになっています。これにより、増加する学生・研修生の乗船実習に対応した機能を備えています。
海上保安大学校の筒井直樹校長は「『いつくしま』は高い国際能力と多人数の乗船実習能力を持つ大型練習船であり、実習生の受け入れ人数は『こじま』の60人規模から100人規模に拡充された」と説明。「取り巻く情勢と環境の変化に柔軟に対応しながら、その能力を最大限に発揮して教育訓練に当たり、乗組員と大学校教職員が一丸となって業務に邁進していく」と式辞を述べました。
大規模災害時は救難船にも
「いつくしま」の高橋邦彰船長は、「航海計器や機関、通信機器は最新鋭のものを装備した。初代船長として乗り込むことは非常に気の引き締まる思いだ」と明言します。「9月から乗船実習が開始されるが、それぞれの寄港地で一般公開を予定している。多くの方に本船をご覧いただき、この船で実習してみたい、海上保安庁で働いてみたいという若い方がたくさん集まることを期待している」と話していました。
外観で特徴的なのは上下2段に分かれたブリッジで、上部は航海船橋、下部は航海実習などの教育で学生らが使用する実習船橋となっています。同じ航海計器が据え付けられており、両方の船橋で操船することが可能です。航海船橋には日本無線(JRC)の、実習船橋は古野電気のレーダーなどが置かれていますが、「いつくしま」乗組員は「舶用メーカーとして圧倒的なシェアを誇る両社の機器の特性を学ぶため」と説明しています。
実習船橋は短期間で効果的に乗船実習を実施するために航海科演習区画として設けられた設備です。通常の業務を行っている船橋と分けることで、航行中でも多数の学生・研修生が操船方法などを学べるようになります。さらにこれまで安全運航の都合上できなかった火災など緊急時の対応訓練にも、実習船橋は活用できます。
このほか練習船の設備として訓練業務統括区画や通信科演習室、機関科演習区画が設けられている上、船尾側には船内で授業を行うための学生教室や、外国の港を訪問した際にレセプションなどを行える多目的室が置かれており、通常の巡視船に比べて船室が多くなっています。
加えて災害発生時などは緊急的に海上保安業務に従事することを想定し、耐航性、動揺安定性、長期行動能力に優れた設計を取り入れました。武装として目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)を備える20mm機関砲1基と13mm機銃1基を装備。ブリッジ側面には停船命令等表示装置を置き、高速警備救難艇4隻や救命艇2隻を搭載します。速力は20ノット(約37km/h)以上。推進器はプロペラだけでなく、細かい操船が可能なバウスラスターも装備しました。PLHのような見た目をしていますが、ヘリコプターの発着には対応していません。
「いつくしま」に続く2隻目の新練習船も
ちなみに船名の「いつくしま」は、広島県廿日市市の沖合にある厳島に由来します。これは配備先が呉市にある海上保安大学校であるほか、世界一周の遠洋航海では日本を代表して各国を巡ることになるため、国際的にも有名な観光地、嚴島神社のある地にちなんでいます。
また、海上保安庁は「いつくしま」に続いてもう1隻、練習船を建造中です。これは、現場業務に従事する巡視船により近い実践的な設計コンセプトに基づいているのが特徴で、「ヘリコプター搭載型巡視船(国際業務対応・練習船)」と呼ばれています。
これにより、将来的に海保の練習船は「いつくしま」と新型練習船の2隻体制となり、これまでと比べて学生や研修生に対する教育と訓練の環境が向上することが大いに期待されます。
なお、式典で海上保安庁の瀬口良夫長官は「これまで練習船『こじま』が築き上げてきた良き伝統を受け継ぎ、船名の由来の通り国内外で愛される練習船として活躍を見せることを大いに期待している」と述べていました。
「いつくしま」は9月18日に仙台塩釜港仙台港区の高松ふ頭で一般公開が行われる予定です。
08/30 08:42
乗りものニュース