自衛隊の手本になるか? 空母の甲板に空軍戦闘機が並んだワケ「カヴール」来日で見た不思議な光景

2024年8月22日、イタリア海軍の空母「カヴール」が横須賀に寄港しました。「ハリアーII」とともに乗っていたステルス戦闘機F-35。よく見るとイタリア海軍だけでなく空軍所属の機体もいました。

イタリア空母の来日は史上初!

 イタリア海軍の代表的存在といえる空母「カヴール」が、僚艦「アルピーノ」とともに2024年8月22日、海上自衛隊の横須賀基地に寄港しました。

 そもそも、昨年(2023年)6月、新鋭哨戒艦「モロシーニ」が、イタリア艦として戦後初めて横須賀基地に来航し、話題になったのは記憶に新しいところでしょう。

 筆者(吉川和篤:軍事ライター/イラストレーター)も次回はさらなる大物が来航することを期待しましたが、その思いが通じたのか、なんとイタリア海軍を象徴する空母「カヴール」の来日が決まったのです。それから1年後、同艦は2024年6月1日に母港であるイタリア南部の港町ターラントを出港、その知らせを聞いた筆者は、到着を心待ちにしました。

 そして、ついにその時が訪れます。インド太平洋地域へのイタリア側の関与強化を目的に来日した「カヴール」は、午前10時ころフリゲート艦「アルピーノ」と共に横須賀基地の埠頭に姿を見せ、報道陣が見守る前でその巨体を着岸させたのです。

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2024年8月22日の午前10時、横須賀基地の逸見岸壁に接岸しようとする空母「カヴール」。上部の球形レーダードームが特徴的な艦橋や船首のスキージャンプ台および76mm速射砲が見える(吉川和篤撮影)。

 イタリア空母の来日は今回、史上初となります。それもそのはず、第2次世界大戦の終結までイタリア海軍は空母を保有しておらず、大戦中に唯一建造された空母「アークィラ」も客船「ローマ」からの改造が大掛かり過ぎて工期が遅れてしまい、1943(昭和18)年9月のイタリア休戦には間に合わず、未完成で終わりました。

 今回来日した空母「カヴール」は、事実上イタリア初となった軽空母「ジュゼッペ・ガリバルディ」の次に計画されたもので、2008(平成20)年4月に就役しています。しかし、軽空母と言いながらも全長は236.5m、全幅は39.0mもあり、乗組員は合計で1200名以上(うち航空要員203名)も収容する堂々とした船体です。

 そのため横須賀基地の逸見岸壁には、ホストシップである護衛艦「いずも」と共に接岸できず、「いずも」は沖に停泊することとなりました。

「カヴール」はイタリア海軍の中心的存在

 では、改めて「カヴール」はどのような軍艦なのか見てみましょう。その艦名は、統一後のイタリア王国において初代首相を務めたカミッロ・カヴール伯爵に因んだもので、第1次と第2次の両大戦で運用された戦艦「コンテ・ディ・カヴール」と由来は同じです。

 そのような由緒ある名を受け継ぐかのように、空母「カヴール」は、2011(平成23)年からイタリア海軍の旗艦となっています。

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岸壁で開催された歓迎式典後に、ベネデッティ駐日イタリア大使を中心にして記念写真に収まる、「カヴール」と「アルピーノ」および「いずも」と「おおなみ」の艦長と乗組員(吉川和篤撮影)。

「カヴール」は、空母とはいってもアメリカや中国、フランスなどが保有するような正規空母ではなく、STOVL(短距離離陸および垂直着陸用航空機)専用の軽空母に分類され、当初はイギリスで開発されたSTOVL機「ハリアー」を米マクドネル・ダグラス社が発展させたAV-8B「ハリアーII」を搭載していました。なお、最近では米ロッキード・マーティン社が中心となって開発したステルス戦闘機F-35「ライトニングII」の導入が始まっており、徐々に「ハリアーII」との入れ替わりが行われています。

 陸上運用タイプであるF-35Aはイタリア空軍にも配備が進められており、昨年に引き続いて今年8月にも来日して、青森県の三沢基地において航空自衛隊のF-35Aと共同訓練を行いましたが、「カヴール」に搭載されたF-35は前出したようにSTOVL仕様のため、各部が異なっており、だからこそB型と呼ばれます。イタリア海軍は15機のF-35Bを発注しており、現在までに少なくとも6機以上が納入されている模様です。

なぜ海軍の空母に空軍の所属機が?

 来日した空母「カヴール」の飛行甲板には、7機の「ハリアーII」(1機は訓練用の複座タイプ)と共に8機のF-35Bがズラリと並べられていましたが、そのうちの2機、「32-14」および「32-18」号機の尾翼に描かれた部隊マークに筆者は注目しました。

 その2機の部隊マークは、つい先日、三沢基地に飛来していたイタリア空軍のF-35Aと同じものだったからです。それは「襲撃する鷲」のマークでお馴染みのイタリア空軍第32航空団所属機、残りは「狼達」マークの海軍第4航空隊に所属する機体です。どうして海軍所属の空母に空軍所属の戦闘機が積まれていたのでしょうか。

 それはF-35B戦闘機を海軍が導入した当初、先行運用していた空軍から機体やパイロット、整備員を借りる形で共同訓練していたからだといいます。ただ、これも次第に海軍の機体や人員に統一される予定だと思われます。

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右舷後方に搭載された連絡艇2隻の上側、飛行甲板には3機のF-35Bが見えるが、いちばん左の「32-18」号機の尾翼に描かれた部隊マークは海軍ではなく空軍のもの(吉川和篤撮影)。

 なお、こうした先行運用している側からのサポートは、日本におけるF-35Bの導入でも考慮されており、実際、母艦となる予定のいずも型護衛艦は海上自衛隊所属ですが、艦載機のF-35Bは航空自衛隊が一括運用する計画で、両自衛隊による統合的な運用になる模様です。

 今回ホストシップを務めた護衛艦「いずも」は、まさにF-35Bの導入に合わせて本格的な空母への改装が控えています。それが実現して数年後に再び空母「カヴール」が来日した暁には、両国のF-35B「ライトニングII」が飛び交い、洋上で共同訓練が行う日が訪れるのかもしれません。

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