特急&新幹線よりも最短・最速・最安・最楽!? 旅行ミステリーに使えそうな「伊勢湾フェリー」とローカル線の実力

三重県の鳥羽港と愛知県の伊良湖港を結ぶ伊勢湾フェリー。風光明媚な伊勢湾を航行し、特別室や売店など見どころ豊富です。この航路、実は鳥羽と豊橋の速達ルートでもあり、観光と実用を兼ね備えています。

場合によっては新幹線利用より早い

 伊勢湾フェリーは、三重県の鳥羽港と愛知県の伊良湖港とを1時間で結ぶフェリーです。航路開設のきっかけは、1959(昭和34)年の伊勢湾台風でした。伊勢湾の沿岸部に大きな被害が出た結果、周辺自治体が国道と連動した鳥羽~伊良湖間の航路開設を望んだのです。
 
 近畿日本鉄道と名古屋鉄道系列の船会社が航路の免許申請を行い、両社が出資する新会社「伊勢湾自動車航送船会社(現・伊勢湾フェリー株式会社)」を設立。1964(昭和39)年に航路が開設されました。つまり、2024年で60周年ということです。

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伊勢湾フェリーの「知多丸」(2024年7月、安藤昌季撮影)。

 しかし2010(平成22)年、燃料価格高騰や高速道路通行料金の大幅値下げで経営が悪化し、航路廃止の危機を迎えます。近鉄と名鉄が伊勢湾フェリーから撤退し、三重県・愛知県・鳥羽市・田原市が支援して現在に至ります。

 現在は1996(平成8)年に就役した「鳥羽丸」と、2004(平成16)から翌年に就役した「知多丸」「伊勢丸」の3隻で運航されています。航海速力は17.75ノット(32.9km/h)と、沿岸航路としては高速です。その理由は鳥羽市~豊橋市間の都市間輸送を担う部分もあるからと思われます。

 伊勢湾フェリーは豊鉄バス、豊橋鉄道と連携した企画乗車券「豊橋・鳥羽割引きっぷ」(2900円)を販売しており、鳥羽~豊橋間を通しで結んでいます。最速ダイヤは鳥羽港13時40分発の伊勢湾フェリーで伊良湖港14時40分着、14時45分発の豊鉄バスに乗り換えて田原駅前15時40分着、三河田原15時47分発の豊橋鉄道で新豊橋16時22分着です。この乗り継ぎは所要2時間42分です。

 同区間を鉄道で移動すると、鳥羽14時5分発の快速「みえ16号」で16時3分名古屋着、16時31分発の新幹線「ひかり656号」に乗り継いで、豊橋16時50分着。で、所要は2時間45分で5740円かかります。在来線なら、名古屋駅でから特別快速に乗り換えて豊橋、17時9分着。所要3時間4分で3600円かかるので、フェリー経由が最安・最速となります。

乗船してみた

 近鉄+名鉄特急と比較しても、鳥羽17時40分発の近鉄特急と、名鉄名古屋20時26分発の名鉄特急を乗り継いで豊橋20時26分着(4680円/2時間46分)。フェリー経由は17時40分発、新豊橋20時22分着ですから、やはりフェリー経由の方が速くて安いことになります。

 なお東海道新幹線の乗り継ぎがスムーズな場合は、近鉄特急+新幹線が最速で所要は2時間24分ですが、先述の通り運賃は5740円と、「豊橋・鳥羽割引きっぷ」よりかなり割高となります。

 このトラベルミステリーのトリックに使えそうな伊勢湾フェリーに、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年7月に乗船しました。

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鳥羽のりば(2024年7月、安藤昌季撮影)。

 伊勢湾フェリーの鳥羽のりばは、JR・近鉄の鳥羽駅から徒歩12分。鳥羽水族館やミキモト真珠島の近くと、観光に便利な場所です。鳥羽のりばは2階のきっぷ売り場が広く取られ、土産物コーナーもあります。

 出港は朝8時10分の伊良湖港行き。船は「知多丸」でした。徒歩乗船は後部、車両甲板から行います。筆者は階段を上がりましたが、エレベーターもあります。

 普通客室に入ると、進行方向の座席とボックス席、カーペット敷き座席があります。同じフロアに船内売店があり、たこ焼き、焼きおにぎり、揚げもち、フランクフルト、焼きそば、ナポリタン、伊勢うどんと、暖かい食事が楽しめます。

 飲料メニューも鳥羽サイダー、ビール、カフェオレ、クリームソーダなど種類は豊富。ソフトクリームやかき氷、シェルレーヌなどスイーツも多く、1時間程度の航路としては充実しています。

 売店の横には特別室券を売る自販機がありました。400円で入室できる有料サービスです。室内にはリクライニングシートやゆったりしたソファ、大型テレビ、空気清浄機があります。女性用のトイレには、化粧鏡と椅子のスペースも用意されています。また甲板も分けられており、「鳥羽丸」以外の船は特別室前方に回り込んで甲板が設置されているため、なんの妨げもない前面展望を楽しめます。

観光と実用を兼ね備えた航路

 出港すると、進行方向右側に坂手島が見えました。坂手布(さかてめ)と呼ばれるワカメが名物で、文豪・江戸川乱歩が「全国で最上級」と讃えたとのこと。さらに進むと、進行方向右手に海女の祭り「しろんご祭り」で知られる菅島、左手には九鬼水軍の本拠地だった答志島と、有人島群が姿を現します。さらに進むと、三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台となった神島が進行方向左側に見えました。

 なお、伊勢湾は船舶の行き交う地域で、時間帯によっては太平洋フェリー(名古屋~仙台~苫小牧)とも離合します。乗船時も、貨物船が進行方向を横切っていきました。変化に富む風景を楽しむうち、9時10分に伊良湖港へ到着。ここのフェリーターミナルでも産物店やレストランが利用できます。

 ターミナルの前には豊鉄バスが停車。船からはすぐ近くで、最短5分の乗り継ぎダイヤに対応しています。

 ターミナルで食事し、9時45分発の豊鉄バスで田原駅前を目指しました。渥美半島を縦貫して走り、防風林や海沿いの景色、田原市の街中など、車窓は変化に富みます。田原駅着は10時40分。豊橋鉄道渥美線の終着駅 三河田原に隣接しており、2013(平成25)年に建てられた駅舎が綺麗です。

 10時47分に出発した豊橋鉄道の電車は元・東急電鉄の7200系で、1800系を名乗ります。各編成に花の名前がついており、ヘッドマークも掲出。100円で自転車を乗せられるサイクルトレインでもあり、自転車を乗せた利用者もいました。単線電化ですが、全16駅のうち8駅が列車交換可能で、15分間隔で利用客も多い鉄道です。車掌が乗務しており、駅ごとに車内を巡回するのは珍しい光景でした。

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豊橋鉄道(2024年7月、安藤昌季撮影)。

 新豊橋駅には11時22分着。JR豊橋駅や豊橋鉄道市内線の接続駅であり、多くの乗客が乗り換えていきました。「豊橋・鳥羽割引きっぷ」の利用客は、ほかにいないようでしたが、上手く組み込めば豊橋から鳥羽まで短絡でき、かつ船旅も楽しめる楽しいルートと感じました。

※半島名を修正しました(7月24日17時20分)。
※島名を修正しました(7月25日11時20分)。

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