「車両が足りない?切ってしまえ」 国鉄の名車115系に「食パン顔」のグループがいるワケ いま最後の輝き

本州で広く見られた国鉄の名車115系電車。そのなかに、まるで切り落とした食パンの断面のような顔をしているグループがあります。長らく活躍した“食パン顔”115系、いま最後のときを迎えています。

列車を増やそう→編成を短くしよう→困ったことに

 鉄道の世界では、中間車を先頭車に改造することは珍しくありませんが、JR西日本が近郊形電車に行った先頭車化改造は「平面顔」が特徴でした。なかでも広く改造が行われたのが115系電車で、他地域のそれとは明らかに異なる“食パン顔”の115系が今も走っています。

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岡山地区の「食パン顔115系」クモハ114形1000番台。103系に似た顔だが、3扉の115系だ(遠藤イヅル撮影)。

 中国地方最大の都市・広島市の広島駅では、2024年7月現在、データイムにおける山陽本線の普通列車が、おおよそ15分おきに運転されています。例えば山陽本線下りの10時―14時では、「0分、15分、31分、45分」のパターンダイヤで発車しています。

 しかし1980(昭和55)年の同駅同線の下り時刻表を見ると、10時以降は「10時25分(快速)、10時45分、11時45分、12時21分(快速)、13時5分……」と掲示されており、快速の運転はあるものの、普通列車は約1時間おき、もしくはそれ以上に間隔が空いていたことがわかります。しかも使用していた115系近郊形電車は、6両・8両の長編成が組まれていました。

 そこで1982(昭和57)年のダイヤ改正では、広島エリアにパターンダイヤが実験的に組まれました。この、いわゆる「国電ダイヤ」は結果上々で、2年後の1984(昭和59)年のダイヤ改正では、福岡・岡山・名古屋・静岡・札幌といった都市圏でパターンダイヤ化を実施。こちらも成功を収めたため、翌年には高松・北陸・長野・新潟・仙台エリアでも行われ、輸送改善を果たしました。

 しかし6両編成を3両編成・4両編成に短縮するには、運転台を持つ先頭車が足りなくなってしまいます。そこで115系は、中間車を先頭車化改造する工事を大量に行いました。

 この後も、短編成化が必要となった際には、通勤形電車・急行形電車・特急形電車・ディーゼルカーなどで先頭車化改造された車両が各地で現れました。

 ちなみに、1980年代以降の先頭車化改造工事では、工事の簡略化や工期短縮のため、切り取った車体端部にあらかじめ作っておいた運転台ユニットを結合する「ブロック工法」が採られていました。この際新しく製造された前頭部は、本来の先頭車と同じ形状を保つのが基本でした。

魔改造すぎてファンに愛された「サンパチ君」

 ところが、JR化後の1999(平成11)年、舞鶴線の電化開業で2両編成の115系が必要となり、中間車の先頭車化改造が行われたのですが、このときはブロック工法を用いませんでした。中間車の車体はそのままで、妻面に窓と貫通扉を開け、側面に乗務員扉を設ける簡潔な工法を採用。こうして生まれたのが“食パン顔”の115系です。

 灯火類の配置や運転台、窓の高さはオリジナルの115系を踏襲していますが、平面顔の115系という違和感は大きく、魔改造車と呼べる雰囲気が漂っていました。クモハ114形6000番台・6500番台がこれに該当します。

 こうして先頭車化改造で大幅なコストダウンを成功させたJR西日本は、魔改造車を続々と生み出します。

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食パン顔に貫通扉を配置したクモハ115形1600番台(遠藤イヅル撮影)。

 2001(平成13)年3月から、福知山線北部と山陰本線福知山エリアにおける一部列車のワンマン運転化が決まり、福知山線で使用していた113系800番台の3両編成を2両編成化することに。そこで中間車だったモハ113形が先頭車化改造の対象となり、中間車の車体を生かした改造が行われました。

 しかもこの時は、貫通扉の未設置・115系に準拠しない灯火類配置・前面下部には謎の補強板を設置、という前代未聞の魔改造が実施されました。こうして誕生した113系3800番台(クモハ113形3800番台)は、「サンパチ君」というあだ名もついて人気を博しました。

まさかの「103系類似の食パン顔」で先頭車化改造!

 JR西日本の115系魔改造工事は、まだまだ続きます。

 2001(平成13)年7月のダイヤ改正では、伯備線や山陽本線の電化区間でもワンマン運転がスタート。これに合わせ岡山地区配置の115系3両編成の一部を2両編成化する工事を行い、モハ114形からクモハ114形1000番台が生まれました。

 ブロック工法ではなかったのは当然として、この時の改造では、115系のアイデンティティのひとつだった貫通扉さえ廃止して、さらに工数を省略。平面顔で額にヘッドライト、下部には尾灯というスタイルは、103系通勤形電車を彷彿とさせました。115系なのに103系に似た食パン顔の魔改造車として、これまた話題を呼びました。

 そして2004(平成16)年には、岡山地区の115系4両編成を3両編成化すべくモハ115形が先頭車化改造されましたが、ここではクモハ115形1600番台という車が生まれました。

 貫通扉設置・115系に準拠した灯火類配置、というクモハ114形6000番台・6500番台に準じた食パン顔改造ではあるものの、運転台と窓が低い位置に置かれる新たなデザインで出現。電車ファンが沸き立ったのは言うまでもありません。

 これら115系の「魔改造先頭車」を含む編成は、片側が115系オリジナルの顔、反対側がまったく違う改造顔で短編成ながらも変化に富んでおり、実に興味深い存在です。

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オリジナルの115系のフェイス。違いは一目了前(遠藤イヅル撮影)。

 2024年7月現在、113系3800番台は全廃されていますが、クモハ114形6000番台・6500番台はクモハ114形1000番台・1500番台に編入されて下関総合車両所下関支所に、クモハ114形1000番台・クモハ115形1600番台は下関総合車両所岡山電車支所に配置のうえ、山陽本線を中心に活躍しています。

 しかし山陽本線の115系も新型車両への置き換えが進んでおり、今後の予断を許さない状況です。115系魔改造車を見たい人は、早めの訪問をオススメします。

 なおJR西日本は、近郊形ディーゼルカーのキハ47形を両運転台化してキハ41形を作った際にも、新設運転台を「食パン顔」にしたことがあります。

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