海自の「新型艦」必要性に疑問符「その仕事、無人機でよくね?」 実は“全然ちがう役割”の可能性も!?

自衛隊の哨戒任務は将来の人手不足に備え、可能な部分を無人機に代行させようとしています。その際、任務が重複する哨戒艦はどうなるのでしょうか。実はこの艦艇には別の用途もありそうなのです。

人手不足を見据えた展開

 防衛省は2024年7月2日、滞空型無人機(UAV)の提案要求書案に対して、提案を検討している企業から意見を求める、意見招請会を開催しました。

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P-1哨戒機(画像:海上自衛隊)。

 滞空型UAVは海上自衛隊の運用するP-3C、P-1両哨戒機を補完して、長時間広域にわたる警戒監視および情報収集任務に従事させることが可能なUAVと定義されています。

 太平洋戦争で連合国の潜水艦に多数の商船を撃沈され、資源が枯渇したことが敗戦の一因となったことから、海上自衛隊は創設以来、対潜水艦戦能力を重視し、その一環として空から潜水艦を捜索して対処する「哨戒機」戦力の整備に力を注いできました。

 海上自衛隊は2022年3月末の時点で、P-3C哨戒機40機、P-1哨戒機33機、合計73機の有人哨戒機を保有しています。74機という保有数はアメリカ海軍(P-8A哨戒機112機とP-3C哨戒機28機を保有)には及びませんが、世界の海軍のなかで2番目に多く、一見する限り盤石にも思えます。

 ただ、1981(昭和56)年から1997(平成9)年にかけて導入されたP-3Cは老朽化により急速に退役が進んでおり、2018(平成30)年から2023年までの5年間で19機が退役しています。

 P-3CとP-1はパイロットに加えて、哨戒飛行パターンの作成や潜水艦を捜索する「ソノブイ」をどこに敷設するかといった戦術的な判断を下す戦術航空士、潜水艦を捜索するソナーの操作や、目視による洋上監視を行うソナー員など、10名から11名の搭乗員を必要とします。少子化が進む日本では、仮にP-1をP-3Cと同程度調達する予算が確保できたとしても、搭乗員の確保が困難になることも予想されるのです。

哨戒機は将来的に無人機が増える?

 防衛省は有人哨戒機の乗員確保が困難になることや、危険な洋上での警戒監視・情報収集にあたる自衛官の生命の安全性を向上させることなどを目的とした、2018年12月に発表した「中期防衛力整備計画」のなかで、太平洋側の広域洋上監視能力を強化するための滞空型UAVを「検討の上、必要な措置を講ずる」と明記。令和4(2022)年度予算に、滞空型UAVの試験的運用を行うための経費を計上しています。

 この試験は海上自衛隊に先立って導入された海上保安庁の滞空型UAV「シーガーディアン」を使って行われました。同庁ならびに運用を担当するジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)の協力を得て実施され、長時間の広域滞空監視や有人機との連携が検証されたと伝えられています。

 海上自衛隊の滞空型UAVは、潜水艦を探知する「ソノブイ」のランチャー(投下装置)などを搭載する計画もあるようです。この機能を持たせる構想もあり、P-1などの有人哨戒機との連携構想があるシーガーディアンを軸に、洋上飛行能力の高い「MALE」(中高度長時間滞空)に分類される無人機が選ばれるものと予想されます。

 MALEで有力な機体にはほかに、アメリカとその同志国であるオーストラリアの両海軍でP-8Aを補完する運用が想定されているMQ-4C「トライトン」、イスラエルのエルビット・システムズが開発した「ヘルメス900マリタイム」などがあります。いずれの機種が選定されたとしても、日本の洋上における情報収集・警戒監視能力は高まるものと思われます。

 ただ、滞空型UAVの洋上における情報収集と警戒監視という役割は、滞空型UAVとお同じく2018年末に策定された中期防で建造が決まった海上自衛隊の新しい艦種「哨戒艦」と重なります。
 哨戒艦は、領海や領土の沿岸、港湾の防衛や警備、救難活動をおもな任務とする軍艦を指します。アメリカはこれらを、日本の海上保安庁に相当する「沿岸警備隊」の任務と位置づけているため、アメリカ海軍は哨戒艦を保有していませんが、その一方でヨーロッパ諸国などでは増加しています。

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海上保安庁が保有する「シーガーディアン」(画像:海上保安庁)。

 哨戒艦は任務の性質上、長期間の洋上展開能力を備えていますが、他国の艦も含めて速度が遅く、武装も貧弱な傾向があります。防衛省は2022(令和4)年6月30日に哨戒艦の主契約社をジャパンマリンユナイテッド(JMU)に選定。同社は哨戒艦の要目を発表していますが、最大速度は20ノット(約37km/h)、主武装は30mm機関砲1門と、正面戦闘任務に投入できるものではありません。

役割が被りそうな哨戒艦の“別の使い道”とは?

 哨戒艦は2018年末に策定された防衛大綱で12隻の建造計画が打ち出され、2023年度予算に4隻分の建造費が計上されていますが、やはり情報収集・警戒監視という主任務が滞空型無UAVと重なるうえ、無人機の方が索敵範囲も広いです。このため一部の識者からは哨戒艦の導入そのものを疑問視する声も上がっていました。

 この件に関しては、哨戒艦が哨戒以外の任務を兼ねる可能性についても考えられています。

 防衛相は2022年5月に「コンテナ式SSM」、つまりコンテナ型に収納された対艦ミサイル発射装置の公募を行っていますが、このコンテナ式SSMは必要に応じて哨戒艦などに搭載できるものと定義されています。

 こうしたコンテナ搭載型のミサイルは既に、アメリカ海軍がコンテナ発射型VLS(垂直発射装置)として実験しており、対空・対艦ミサイルのほか、将来的には敵性勢力の防空網の射程外から発射する「スタンドオフミサイル」の一種である「トマホーク」巡航ミサイルなどの導入も考えられています。

 実用化されれば、艦艇運用の柔軟性も大きく向上し、哨戒艦を実質的にミサイル発射艦艇としても保有することができます。

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哨戒艦の完成イメージ(画像:防衛省)。

 実際にコンテナ式SSMが哨戒艦に搭載されるのかはわかりませんが、仮に搭載されるとすれば、哨戒艦はヨーロッパ諸国などの同種艦とは異なり、情報収集・警戒監視を主任務とする艦から、退役するはやぶさ型ミサイル艇の後継艦という位置づけの艦へ変質していくかもしれません。

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