“国鉄イチ豪華”実は船だった!? 「青函航路」の栄枯盛衰 所要時間“新幹線並み”の民間船もいた!
青森港と函館港とを結ぶ青函航路。その始まりは江戸時代、まだ開国もしていない時期だったとか。長く鉄道連絡船も就航し、日本の近代史と共に歩み続けた航路は、まだまだ健在です。
江戸時代末期に民間船が就航
青森港と函館港を結ぶ青函航路は、青函トンネル開通以前の鉄道連絡船で知られるほか、いまも民間2社が就航する重要ルートです。実はこの航路、鉄道開通よりも早く誕生しており、すでに170年以上の歴史を持っています。
日本の歴史に北海道への渡航が登場するのは、720年に編纂された『日本書紀』が始まりです。阿倍比羅夫が斉明天皇の命を受けて「渡島(わたりしま。現在の北海道)」へ軍勢を派遣したとされています。
時代は下り江戸時代末期になると、津軽海峡には外国船が多く見られるようになりました。1846年、江戸幕府は奥羽六藩に海峡警備を命じ、青森港~箱館(現在の函館)港間が主要航路となります。そして1854年の開港後、1861年に青森の滝屋喜蔵が箱館奉行所への荷物輸送のため、帆船による定期運航を始めたのが、民間航路の始まりです。
明治時代になると箱館は函館に改名され、北海道開拓使の汽船運航を経て、郵便汽船三菱会社(後の日本郵船)に代替。日本郵船は、1891(明治24)年の日本鉄道による上野~青森間での鉄道運行を受けて、青森~函館~室蘭間に就航します。
そして1908(明治41)年、帝国鉄道庁(現在のJR)が鉄道連絡船「青函航路」の運航を開始。この青函連絡船は、速度とサービスで日本郵船を上回り、ほどなく青函航路を独占します。ちなみに日本初の蒸気タービン機関を搭載した船でした。
青函連絡船は1925(大正14)年に、日本初の鉄道車両航送も開始。途中、太平洋戦争での空襲や戦後の洞爺丸事故での大きな犠牲もあったものの、1972(昭和47)年には1日30往復する最盛期を迎えます。
一方、民間船舶は1910(明治43)年の日本郵船撤退後、1967(昭和42)年になって東日本フェリー(現在の津軽海峡フェリー)が青函航路への進出を果たします。1970(昭和45)年には共栄運輸(現在の青函フェリー)も貨物船「はやぶさ」により、青函航路で自動車航送を始めます。
強敵、航空機とフェリー現る!
その間、青函連絡船は本州と北海道を結ぶメインルートであり続け、青森と函館では、列車から船へ、船から列車へ席を確保しようと走る乗客で「桟橋マラソン」と呼ばれたほどでした。青函連絡船が積み残しを出すほどの盛況だったことから、当時は7日前までだった座席指定券の発売が、青函連絡船関連のみ8日前から発売されたほどです。
しかし、1973(昭和48)年に498万人を記録した年間利用客は、航空機とフェリーに転移し、1976(昭和51)年には400万人を割りました。特にこの年の国鉄が実施した50.4%値上げの影響は大きく、翌1977(昭和52)年は314万人と急落していきます。
青函連絡船はイメージアップのため、1978(昭和53)年に喫茶室「サロン海峡」や麻雀ができる娯楽室を設置。船内には個室寝台や食堂のほか、国鉄一の豪華座席車であるクロ151「パーラーカー」と同じ座席のグリーン席、座席の普通席、カーペット席と多彩な設備を備え、「国鉄で最も豪華な乗りもの」といえるようなサービスを提供しました。
それでも利用減少は止まらず、1986(昭和61)年は200万人台に。青函連絡船は青函トンネル開業によって1988(昭和63)年に廃止されましたが、現在でも函館港に「摩周丸」、青森港に「八甲田丸」が保存されています。どちらも保存船として船内見学でき、グリーン船室では座席に座ることもできます。
一方の民間船舶ですが、東日本フェリーが2008(平成20)年に高速フェリー「ナッチャンWorld」「ナッチャンRera」を投入します。この船は最大速力36ノット(約65km/h)で運航され、青森~函館間を最速1時間45分で結びました。
これは青函連絡船の3時間50分を大きく下回り、現在の北海道新幹線を介した青森~函館間の所要時間とほぼ同じという超高速船でした。しかし燃料代の高騰で運航困難となり、津軽海峡フェリーが引き継いだものの、2012(平成24)年に運航終了しています。
現在のフェリーの設備は?
現在の津軽海峡フェリーの青函航路は、2016(平成28)年から2020年に建造された「ブルードルフィン」「ブルーハピネス」「ブルールミナス」です。接客施設はベッドやシャワールーム、応接スペースを備えた豪華2人用個室の「スイート」と、マットレスに寝転がれる「コンフォート」、カーペット敷きの「スタンダード」、進行方向の景色を楽しめる「ビューシート」と豊富。売店や電子レンジで冷凍食品を温められる「オートショップ」、ペットと過ごせる「ドッグルーム」、共用シャワールームやゲームコーナーなどもあり、中距離航路に近い設備を備えます。
一方の青函フェリーは2000(平成12)年より旅客輸送を開始し、2009(平成21)年に「あさかぜ21」、2014(平成26)年に「はやぶさ」(4代目)、2023年に「はやぶさII」、2024年に「はやぶさIII」を投入。なお「はやぶさ」の名を持つ3隻はほぼ同型船です。
「はやぶさ」型の設備はベッド2台と洗面所、応接スペースを設けた「ステートルーム」(2人用)のほか、ベッドが2段となって4人までに対応した「ステートルーム」、リクライニングシートを備えた「2等椅子席」、カーペット敷きの「2等室」、ドライバーのみ利用できる寝台設備「ドライバールーム」で、一部座席やエレベーターはバリアフリーに対応しています。売店はなく、代わりに自動販売機があります。共用シャワールームが備わるのは津軽海峡フェリーと同じですが、ボディーソープ、シャンプー、タオルはありません。
運賃は青函フェリーの2200~2700円(ステートルーム利用の場合は+1室6500円)に対し、津軽海峡フェリーは2860~7830円。運賃は青函フェリー、設備は津軽海峡フェリーと棲み分けされています。
どちらのフェリーにせよ船内はきれいであり、のんびりとした船旅が楽しめます。乗船した際には、青函航路の伝統に思いを馳せてもよいでしょう。
※誤字を修正しました(7月14日17時00分)。
07/13 18:12
乗りものニュース