「廃止してくれないか」と市がJRに提案する路線に乗ってみた ガッツリ朝ラッシュ なのにナゼ?

JR西日本の兵庫駅から1駅だけ運行されている和田岬線は、通勤輸送に特化した路線です。休日は1日2往復しか走らないながら黒字ですが、存廃問題も持ち上がっているとか。どのような路線なのでしょうか。

神戸駅よりも長い歴史

 JR山陽本線(神戸線)の支線である和田岬線は、兵庫駅(神戸市兵庫区)から和田岬駅(同)までわずか1駅、2.7kmの路線です。沿線の工場への通勤輸送に特化した運行形態で、平日は17往復、土曜日は12往復、休日は2往復と、極端なダイヤが特徴です。

 本数が多い平日にしても、和田岬駅発を基準にすると、午前7時台は1時間に3本ありながら、9時25分から16時49分までは列車がありません。休日に至っては午前7時29分発、17時26分発の2本だけです。そうした運行形態ですが、実は営業係数(100円稼ぐのにかかる費用を表す数値)は推定80台ともいわれる黒字路線でもあります。

 どんな路線なのか、2024年5月に乗車してみました。

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和田旋回橋を通過するJR和田岬線の列車(安藤昌季撮影)。

 起点である兵庫駅は、現在の山陽本線の前身である山陽鉄道で最初に開業した駅のひとつで、まだ神戸駅すらなかった1888(明治21)年に開業しました。駅舎は鉄道省時代の1930(昭和5)年に建てられたもので、レトロモダンな建築物です。和田岬線も同時に開業していますので、136年もの歴史があります。

 和田岬線は1990(平成2)年まで旧型客車が運行されていたり、2001(平成13)年まで気動車が運行されていたり、電化後も2023年まで国鉄型103系電車が運行されていたりと、鉄道ファンの話題に事欠かない路線でもありました。

 ホームがある駅は通常、「○番線」という案内がされるものですが、和田岬線には番線案内はなく、兵庫駅の中2階に「和田岬線のりば」という案内があるのみ。ちなみにエレベーターはあります。

沿線には川崎車両の工場も

 そして和田岬線ホームへ向かう途中に中間改札があります。和田岬線の利用者はここを通る必要があり、和田岬駅からの利用者はここで乗車券を買う必要があります(ICカードなら引き去られる)。東武鉄道大師線や名古屋鉄道築港線などで同様の改札方式がありますが、鶴見線の中間改札が廃止されたこともあり、JRでは非常に珍しい改札方式です。

 和田岬線ホームは1面1線で、長いホームには同線専用となる6両編成の207系電車が入線していました。沿線企業で働く工場勤務者が列をなしており、車内は満席。立客でいっぱいでした。首都圏ラッシュ時並みの乗車率です。

 発車すぐはJR神戸線と並走。特急「スーパーはくと」とすれ違いました。JR西日本の保線総合区も並んでおり、貨物コンテナや線路も見えます。

 ほどなく、車窓右側に川崎車両株式会社の兵庫工場が見えてきます。新幹線や在来線、大手私鉄から第3セクター鉄道まで、あらゆる鉄道車両を製造している工場で、海外への輸出車両も手がけています。この工場から、一部車両は和田岬線を通って、各地に移動しているわけです。

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JR和田岬線の沿線風景(安藤昌季撮影)。

 兵庫工場を過ぎると、中間駅がないのが惜しくなるような密度で、工場や住宅が立ち並びます。85km/hで走り抜ける列車にはスピード感があります。

 まもなく兵庫運河を渡りますが、この橋は「和田旋回橋」と呼ばれ、船舶通行のために可動できる構造の橋梁です。昭和初期より固定されていますが、非常に珍しい構造です。和田岬駅からは徒歩12分ほどで到達でき、「浜っ子きらきらビーチ」に隣接していますが、柵があって橋に近づくことはできません。少し離れたところから、列車の通過を見ることもできます。

自治体が廃止を要求!?

 和田旋回橋を過ぎると、車窓右側にサッカーJ1「ヴィッセル神戸」の本拠地である「ノエビアスタジアム神戸」が見えてきます。和田岬駅からは近隣にあるのですが、ダイヤが偏っていることもあり、サッカーの観客輸送としては奨励されていないのが現状です。

「ノエビアスタジアム神戸」を通り過ぎるとすぐに和田岬駅に到着しました。ユニークなのは、改札口などは何もなく、ホームに何か所も設置された階段から、降車客が街中に散らばっていく様子です。かつては三菱重工兵庫工場まで線路が延びていましたが、駅は現在1面1線の行き止まり。大量の乗客を降ろした後はわずかな乗客を乗せて、兵庫駅に折り返してきました。

 なお、和田岬駅では神戸市営地下鉄海岸線と接続しています。同線を運行する神戸市は、なんと和田岬線の廃止を求めています。自治体が黒字線の廃止を求める事例は非常に珍しいですが、理由は「兵庫運河を活用した臨海部まちづくりを進めるうえで、和田岬線が船舶の通行や、歩行者が回遊できるルートを阻害している」というものです。

 和田岬線を廃止すれば、まちづくりだけでなく、赤字の地下鉄海岸線の活性化がなされることもあり、得失が難しい問題ともいえます。JR西日本は「黒字線なので廃止をするつもりはないが、地元の総意が廃止なら検討する」としています。

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和田岬駅(安藤昌季撮影)。

 乗車した実感としては、日中はほぼ運行されていない和田岬線ですから、むしろ和田旋回橋を回転させられるようにして船舶通過を実現すれば、全国的にも珍しい観光資源になるようにも感じられました。

※スタジアム名称を修正しました(6月11日21時00分)。

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