世界初の「水素燃料旅客船」ついに旅客輸送に投入! “EV船じゃムリだね”水素ならではの強みとは

世界初の水素燃料旅客船「ハイドロびんご」が、初めて東京で地点間の旅客輸送を行いました。乗船取材を通じ、船舶における水素燃料の“強み”が改めて明らかになりました。

世界初の「水素燃料旅客船」で初の2地点間の旅客輸送

 世界初の水素燃料旅客船「ハイドロびんご(Hydro BINGO)」(19総トン)が2024年5月、東京都が主催した国際イベント「SusHi Tech Tokyo(スシテック東京)2024」に合わせて東京港内を航行しました。同船は東京港や横浜港で遊覧運航に使われたことあるものの、旅客輸送に投入されるのは初。同船を保有するジャパンハイドロの青沼裕社長は「水素エンジン船を使って旅客輸送ができるということが、我々にとって非常に大きな実績になる」と話しています。

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東京で初の旅客輸送を行った世界初の水素燃料旅客船「ハイドロびんご」(深水千翔撮影)。

「ハイドロびんご」は2021年7月に、世界で初めて水素と軽油の混焼エンジンを搭載する小型旅客船として竣工しました。ジャパンハイドロは、ベルギー海運大手CMBと常石グループのツネイシクラフト&ファシリティーズ(ツネイシC&F)、神原汽船が出資している会社で、水素エンジン関連事業を展開しています。

 建造ヤードのツネイシC&FとCMBが共同で開発したシステムが採用されており、これまでのディーゼルエンジンと比較して、CO2(二酸化炭素)の排出を最大50%削減することが可能です。この技術が普及すれば、海運業界で課題となっているGHG(温室効果ガス)の大幅な削減につなげることができます。

「ハイドロびんご」はこれまで、ポートサービス(横浜市)が運航する横浜港の周遊クルーズや、国際会議「G-NETS Leaders Summit」での東京湾視察などで使用されていましたが、いずれも発着地が同じでした。それに対して今年のスシテック東京ショーケースプログラムでは、海の森船着場と有明客船ターミナル、青海客船ターミナルのそれぞれを結ぶ2点間の旅客輸送に初めて使われることになったのです。

「東京港で運航したのは4回目になるが、これまでは遊覧運航といって、ある場所でお客さんが乗ったら全員が同じところで降りていた。それに対してA点からB点まで旅客を輸送する行為は法律上、全く取り扱いが異なる。当然、輸送の方が安全面での敷居が高く、本船がそれだけ安全だという実績を積み重ねていくことになる」(青沼社長)

 筆者が乗ったのは海の森船着場から有明客船ターミナルまでの便です。海の森船着場を出港した「ハイドロびんご」は、しばらくすると軽油の専燃から、水素燃料との混焼モードに切り替わりました。

EV船ついてこれるか? このスピード!

 ジャパンハイドロが水素混焼エンジンの普及を進める背景として、バッテリーや燃料電池に比べて高出力化が容易という点があげられます。青沼社長は「本船の最高速力は23ノット(約43km/h)。スピードを出せるのが、この船の一番の特長だ」と胸を張ります。

「これだけスピード出せる代替燃料の船は多分、本船だけ。バッテリーだとここまでのスピードは出せない。スピードを出そうとすると後ろから前まで全てバッテリーという船になってしまう」(同)

 ただ、環境問題への対応として海運の将来的なゼロエミッション化が叫ばれているものの、水素の供給体制が整っていないという現状があります。実際、「ハイドロびんご」で使われている水素は、九州の福岡市内で充填したものです。

 こうした点から導入のハードルを低くするため従来型の燃料の利用も想定しつつ、既存の船舶と使い勝手が変わらないものを、という考えから、水素と軽油を燃料として使用できる混焼エンジンを選択することになりました。

「この船の一番良いところは水素がなくても動かせるということ。水素供給の方法について、最初の段階にはヒットすると思っている」(青沼社長)

「ハイドロびんご」では、燃料となる水素の貯蔵タンクは可搬式で船体後部に装備。軽油と別のラインを通じてエンジンへ水素を供給して混焼する仕様となっているため、岸壁に水素充填の設備が必要なく、水素を供給するための輸送や積載も容易な構造となっています。

 青沼社長は「水素で120km走り、その後残った軽油で780km走る。実際、運用する時にEV(電気推進)船だとどうしても1日に何度も充電しないといけない。本船はだいたい丸1日分、水素混焼運転を行えるだけの水素を貯蔵できる」と話していました。

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甲板はテラスになっている(深水千翔撮影)。

 ジャパンハイドロでは「ハイドロびんご」に続く水素燃料船として、水素混焼エンジンを搭載したタグボートを計画しています。さらに日本財団の協力を得て2026年度を目標に水素専焼エンジンを搭載したゼロエミッション船としてレストラン船の開発・実証運転を行うほか、水素を供給するインフラ整備(水素ステーション)も行う予定です。

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