新米自衛官を襲う「台風」とは? ベッドもロッカーもグッチャグチャ!? 厳しすぎる“伝統” 続く納得の理由
日本から遠く離れた南の海上で発生し、屋外に爪痕を残す台風。しかし自衛隊の「台風」はすぐ近くで発生し、屋内で猛威を振るうそうです。隊員なら必ず1回は経験する自衛隊名物の「台風」とは?
自衛隊名物「台風」とは
新年度に入ると一般企業と同じように、自衛隊にも多くの「自衛官のタマゴ」が入隊してきます。そういった新規入隊者は、まず各地の「教育隊」に配属され、自衛官としての基礎を学ぶのですが、生活面で最初に学ぶのが「整理整頓」の徹底です。
できなければ「台風」と呼ばれる恐い罰が待っています。それほどまでに、自衛隊の教育では整理整頓が重要視されているのです。
一般企業の新人研修と同様、自衛隊においても各地の教育隊において、新入隊員を一人前の自衛官へと育てるべく、寮にあたる隊舎で集団生活をしながら、各種教育を行っています。
ただ、自衛官は定められた場所に住まなければならないという制約もあります。とくに3尉(他国の少尉に相当)以上の幹部を除き、いわゆる曹士と呼ばれる階級の独身自衛官は、原則として駐屯地や基地内に設けられた隊舎に住むことになるため、生活面でも自衛隊ならではの様々なルールを学ぶ必要があるのが、独特な点といえるでしょう。
そこで、まず初めに徹底されるのが居室内における整理整頓の徹底です。寝具をきれいに畳むだけでなく、その他の私物も使っていない余計なものは収納し、出しっぱなしにしないことが求められます。
部屋がきれいになっているかは上官や教官が巡回し、細かくチェックされます。少しでも要求されるレベルに達していない場合、待っているのが「台風」と呼ばれる罰です。これは、ベッドがひっくり返されたり、あらゆるものが部屋中に散乱したりという、文字通り台風が部屋の中で暴れ回ったような惨状から名付けられたものですが、この罰は自衛隊に入って最初の強烈な洗礼といえるでしょう。
自衛艦が整理整頓を躾けられるワケ
一見すると、非常に理不尽に感じる「台風」ですが、実は整理整頓を徹底する理由と密接に結びついています。自衛隊が規律正しい組織であると理解することはもちろんですが、同時に「非常時に対する備え」を普段から身につけるよう、意識づけする目的があると言われています。
自衛隊が出動する非常時は、必ずしも明るい昼間だけとは限りません。夜間、それも停電して照明のない状態でも迅速に身支度をし、体制を整える必要があります。
この時、物を一定の場所に収納して整理整頓を徹底していれば、手探りでも必要なものを探すことができ、身支度を整えることが可能です。海上自衛隊の艦艇では実際に、赤い非常用の照明だけという暗い状況で身支度をし、決められた場所に集合するという訓練が定期的に実施されているそうです。
部屋中のものを散乱させられる「台風」は、整理整頓をしていないグチャグチャの状態で迅速に身支度を整えられるのか、という問いかけを、あえて大袈裟に表現して見せているといえるでしょう。もしかしたら、多少は上官たちによるうっぷん晴らしの側面が含まれていることも否定できませんが……。
災害派遣をはじめ、自衛隊が頼りにされるのは、ほかの組織では対応できない困難な状況がほとんどです。どんな時でも素早く対応できるよう、日頃の生活から非常時を想定しておくことを身につけるのも、自衛官にとって重要だと「台風」は教えてくれているのです。
ちなみに、筆者(咲村珠樹:ライター・カメラマン)の自室は各種の資料が山積みとなっており、とても整理整頓されているとはいえません。もしこれが自衛隊の隊舎であれば、おそらく相当ひどい「台風」が待っていそうです。
05/30 16:12
乗りものニュース