自衛隊の輸送船部隊「大拡充」なぜ? 民間船も巻き込み4年で一大勢力に “本気度”感じる驚きの計画

2024年現在、自衛隊が保有する輸送船舶は、海上自衛隊の輸送艦3隻と輸送艇1隻の計4隻しかありません。防衛省が優先的に使用可能な民間会社所属のPFI船舶も2隻のみ。しかし、これが2027年度末には大きく変容を遂げている模様です。

一挙に4倍増のPFI船舶

 防衛省はこのたび、PFI(民間資金活用)船舶を2027年までに8隻体制に拡充する方針を固めました。

 自衛隊の部隊輸送や大規模災害時の一時避難先、生活支援などに活用されるPFI船舶は2024年8月現在、大型フェリー「はくおう」と高速フェリー「ナッチャンWorld」の2隻しかありませんが、南西地域での有事などを見据えて隻数が大きく増えることになります。

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2024年8月、北海道の室蘭港に自衛隊車両を運んできた高速フェリー「ナッチャンWorld」(画像:青山 剛室蘭市長のXより)。

 防衛省は2025(令和7)年度概算要求で、車両とコンテナの大量輸送に特化した民間船舶6隻をPFI方式で確保するため509億円を計上しています。これは、南西地域の島嶼部へ部隊などを輸送する海上輸送力を補完するのが目的で、2025年度中に公募と契約を行ったのち、2026年度に船舶の改修などを実施、2027年までに運用を開始することを目指す模様です。

 なお、2024年度予算では「はくおう」(1万7300総トン)と「ナッチャンWorld」(1万700総トン)の代替船2隻(305億円)を導入することも決まっており、これら計画がすべて達成されれば、防衛省のPFI船隊は合わせて8隻まで増える見込みです。

 そもそも防衛省が民間保有のPFI船舶を拡充する背景には、自衛隊の輸送艦不足が大きく影響しています。

PFI船舶に自衛官が乗り込む想定も

 2024年現在、海上自衛隊には基準排水量8900トンのおおすみ型輸送艦が3隻ありますが、本土から離れた南西諸島へ地上部隊を機動展開させようとすると、数が足りません。さらに自前で船舶を調達し、維持・管理する場合、運航や整備などに従事する海上自衛官を増員し、所要の教育訓練を実施するとともに、個別の船舶について整備器材の確保も含めて、維持・管理を行う必要があります。

 一方で大型フェリーが数多く就航している民間の定期航路は、旅客と貨物の輸送がメインであり、船体整備やドック入りも含めて綿密な計画に従って運航しているため、自衛隊が使うには制約があります。

 このため、防衛省では大規模な海上輸送力を持つ民間フェリーを、有事や災害時には自衛隊が優先的に人員・装備品などの輸送に使用する契約を民間事業者と結んでおり、これがPFI船舶になります。

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令和6年能登半島地震に係る災害派遣で、七尾港に派遣された防衛省のチャーター船「はくおう」(画像:防衛省)。

 こうすることで防衛省・自衛隊は、南西地域への機動展開能力の強化を図っているわけです。ちなみに、2025年度概算要求で民間船舶をさらに確保する理由について防衛省は、「島嶼部等へ必要な部隊等を確実に輸送するため」と説明しています。

 なお、PFI船舶は民間船のため、運航するのは民間船員ですが、仮に有事が発生し民間事業者が運航できない状況に陥った場合には、防衛省が船舶そのものを借り受け、自衛官が乗り込んで、自衛隊として独自に船舶を運航できることになっています。

統合輸送部隊の大拡充も

 また、2025年度の概算要求では中型級船舶(LSV)1隻(80億円)、小型級船舶(LCU)1隻(64億円)、機動舟艇1隻(58億円)の取得費用も計上されました。3隻とも2027年度の就役を予定しています。

 これに付随して、防衛省は2024年度予算で南西地域の離島へ車両や人員を輸送する専門の部隊として「自衛隊海上輸送群」(仮称)を2025年3月に新編すると明記しています。なお、部隊は広島県の海上自衛隊呉基地に配置される予定で、2027年度末までにLSV2隻とLCU4隻、そして機動舟艇4隻の計10隻を取得する計画です。

 航空機による輸送に適さない重装備や、一度に大量の物資などを輸送するためには船舶を使用するしかありません。さらに国民保護という観点からも、人や車両を多く乗せ居住性も良好なフェリーは最適でしょう。PFI船舶の拡充と海上輸送群の誕生は、南西有事に備えた自衛隊の本気度の現れなのかもしれません。

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