災害派遣の自衛隊が勝手に私有地へ入っていたのですが… 法律違反では? 彼らに権限はあるのでしょうか

地震や台風などで大規模な災害が発生すると頼りにされる自衛隊の災害救援部隊。ただ、武力事態でもないのに、一般人の土地に無断で入ったり、家屋を撤去したりできるのは、どういった法的根拠からなのでしょうか。

自衛官が警察官の代わりになる?

 大規模な災害が発生すると、県知事などの要請によって自衛隊の部隊が多数出動することがあります。その際、人命救助のために私有地などにも入り込みますが、どのような法的根拠があるのでしょうか。

 そもそも、自衛官には様々な権限が与えられています。たとえば、自衛官は国民の生命と財産を守るという自衛隊の使命を遂行するため、自衛隊法第87条によって「武器の保有」が認められています。この武器には、ライフルやピストルなどの小さな武器から、大砲や戦闘機、護衛艦、各種の誘導弾まで含まれます。

 さらに、これら武器は、公共の秩序を維持する際、国民の生命と財産を守るためであれば、条件の定める範囲内で使うことが認められています。

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2024年7月、大雨被害の災害派遣により山形県内で活動する陸上自衛隊第6師団の隊員(画像:陸上自衛隊)。

 ほかにも、防衛出動時に緊急走行する際には、交通に支障があって迂回する必要がある場合は、道路ではない場所を通行できます。また、海上自衛官は海上警備行動時には海上保安庁法の適用を受け、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律も準用されるため、同法を行使する権限を持ちます。

 こうした様々な権限を持つ自衛官ですが、災害派遣時に大きく影響するのが「警察官職務執行法」の一部です。

 これは、災害派遣を命ぜられた自衛官に準用される法律で、災害が発生したか、もしくは発生しようとしている状況下で、なおかつ市長村長や警察官がその場にいない場合に限って行使できる権限を定めています。

自衛官が交通整理したり他人の土地使ったり

 その具体的な内容は「警戒区域の設定並びにそれに基づく立入制限・禁止及び退去命令」、「他人の土地の一時使用等」「現場の被災工作物等の除去等」、そして「住民等を応急措置の業務に従事させること」となります。

 最初の「警戒区域の設定並びにそれに基づく立入制限・禁止及び退去命令」は、災害派遣部隊が展開している地域などで災害が発生しようとしている、またはまさに発生しているときに、住民や野次馬などが立ち入らないように規制線を張れるほか、残っている人たちを退去させることが可能です。

 また、立ち入り禁止区域に一般人が入らないように、交通整理をするのも役割に含まれます。

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2024年8月、給水支援で出動した陸上自衛隊第12普通科連隊の隊員(画像:陸上自衛隊)。

「他人の土地の一時使用等」は、一般家庭の庭や、企業が保有している土地などの一時的な利用です。捜索や救助などで使用することが想定されるほか、駐車場や資材置き場としても使われるでしょう。なお、事態が収束し、地主から損害を受けたとして損失の補償などを求められた場合には、政令で定めるところによって対応するように規定されています。

「現場の被災工作物等の除去等」は、たとえば道路などを塞ぐ倒壊家屋を始めとした各種障害物の撤去などが含まれます。倒壊家屋であっても所有者がいるため無闇に触れることはできません。しかし、被災地で救援活動などを行うに際し必要であれば、倒壊家屋などの障害物を重機などによって取り除くことが可能です。

自衛官が一般人に支援依頼をすることも

 最後の「住民等を応急措置の業務に従事させること」とは、読んで字のごとく、付近にいた住民に水防作業や人命救助などの支援を依頼することです。もちろん強制はできず、あくまでも本人の承諾が必要となります。

 万一、住民が二次災害などに巻き込まれてしまった場合には、自治体によって損害補償が行われます。その際には現場にいたことを示す現認書、医師の診断書、事故発生時の見取り図、そして当該業務に従事したことによる事故なのかを認定できる資料が必要となります。

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2024年7月、大雨被害の災害派遣により山形県内で活動する陸上自衛隊第6師団の隊員(画像:陸上自衛隊)。

 災害が広範囲に渡るような現場では、その場に警察官がいない状況というのは、実際よくあることです。どうしても絶対数として警察官の数が限られる一方、派遣されて現場に到着した自衛官の方が多いという状況は、さまざまな場面で想定されます。そのため、警察官がいなくとも、自衛官がスムーズに救助活動を行えるよう、法律でカバーされているのです。

 ただ、あくまでも警察官職務執行法を行使できるのは、その場に警察官がいない場合に限られます。警察が対応可能ならば、自衛官が職権を超えて対処することはありません。

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