『豚レバ』コンビが手掛ける新感覚青春ミステリ! 「科学」が日常の謎を鮮やかに解きほぐす

『よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート1-』(電撃文庫/KADOKAWA)

 テレビアニメ化もされた『豚のレバーは加熱しろ』(通称:豚レバ)が人気の逆井卓馬氏。待望の新作『よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート1-』(電撃文庫/KADOKAWA)は、『豚レバ』のイラストレーター・遠坂あさぎ氏と再びタッグを組んだ、科学青春ミステリだ。

 主人公のデルタこと出田樟(いずたしょう)は高校1年生。小学校以来の友人・水崎隆一とともに、理系教育に力を入れる進学校・綱長井高校に入学した。出席番号が一つ違いで後ろに座るのが、クラスの人気者の岩間理桜だった。陰キャを自認する自分と、美人の優等生である岩間では住む世界が違うとデルタは思っている。だが、ふたりは思いがけないかたちで引き合わされた。

 学校の裏山にある2本の夫婦桜は、双方が合わさってハートマークを作ることで知られており、ふたりで見に行くと恋愛が成就するジンクスがあるという。ところが今年はなぜか、ハートマークを目撃した生徒は1人もいなかった。水崎から桜を見に行こうと誘われたデルタと、単に「見ると幸せになる桜」だと嘘を吹き込まれた岩間は、結果的にふたりで裏山を登ることになった。そしてハートが見えないことに気づいた彼女は、桜の謎を“科学的に検証”しようと提案。デルタとともに、周囲を観察して原因を探っていくが――。

「科学」や「化学」と言われると、何やら難しいもののように思えて、苦手意識を抱く人もいるだろう。けれども本作に登場する科学は、決して難解ではない。科学は私たちの身の回りにあふれており、何よりも科学の視点から物事を眺めることで、これまでとは違った気づきを得たり、世界の新たな一面を発見できたりもするのだ。ある場面で岩間は、次のようなセリフを口にする。

「私、科学が大好きなんだ。世界中の人たちが集めた英知を使って、身近な謎と向き合える。巨人の肩に乗って、自分の住む街を見渡せる。こんなに楽しいことってないよね」

 本作の魅力と科学の面白さの本質を突いた、印象的なフレーズである。見えなくなってしまった桜のハートの謎を皮切りに、部活勧誘をめぐる違和感や、巨木の樹齢隠しに潜む真実、そして密室から消失したハムスターなど、物語にはさまざまな日常の謎が登場する。デルタをはじめ科学を愛する高校生たちは、鋭い観察眼と知識を総動員しながら、身の回りの不思議を見事に解き明かす。科学を切り口にした日常系ミステリとしても、満足度が高い1冊だ。

 物語には科学部出身の岩間を筆頭に、さまざまなタイプの「科学ガチ勢」が登場する。とある事情で植物に詳しいデルタや、数学好きのクールビューティー・御影綾、ギャル風の外見ながら化学部部長を務める本郷汀に、保護した生き物が家に溢れている生物部部長の唐戸朗楽。個性的なキャラクターが織りなすにぎやかな学園生活と、科学を下敷きにした知的好奇心をくすぐる会話の数々がなんともユニークで、読んでいると心が躍る。科学の力がいつしか“初恋”までもまぶしく照らし出す、美しい青春物語である。

文=嵯峨景子

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