試験機でもないのに全然飛ばず引退の「コンコルド」…なぜ? 総飛行時間は「フツーの10分の1」

長きにわたり定期旅客便に就航した世界唯一の超音速旅客機「コンコルド」のなかには、量産機にも関わらず飛行時間が極端に少ない機体が存在します。なぜなのでしょうか。

ガチの量産機の「10分の1」の飛行時間

 イギリス・フランス共同開発の「コンコルド」は、長きにわたり定期旅客便に就航した世界唯一の超音速旅客機です。航空機には試作型と量産型があるもので、それらの設計は大きく違うことが多々あります。しかし、「コンコルド」には量産機にも関わらず飛行時間が極端に少ない機体が存在しました。なぜなのでしょうか。

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「コンコルド」G-BBDG(清水次郎撮影)。

 その機は2024年現在、英国サリー州にあるブルックランズ博物館に展示されています。登録記号は「G-BBDG」で、末尾の2文字にちなみ「デルタゴルフ」の愛称で呼ばれています。

「デルタゴルフ」は量産型ですが、1282時間しか飛んでいません。もともと「コンコルド」の主要な構造部材が4万5000飛行時間を耐用時間として求められていたほか、ほかの量産型が1万~2万台の飛行時間を記録していたのにも関わらずです。

 というのも、「デルタゴルフ」は量産型2号機にあたるものの、実際の商用運航に入ることはなく、ほかの量産機の“縁の下の力持ち”的な役割で使われたからです。

「デルタゴルフ」は、500時間後半から800時間前半の飛行時間にとどまった原型機と量産先行機の4機と比べれば、多くの時間を飛んでいます。ただ、こうした経緯もあってほかの量産型機よりも1桁少ない飛行時間で引退したというわけです。

 航空機は一般的に、試作機で実際に飛んで見つかる改善点を洗い出し、設計変更を行って量産に移り、さらに量産に移っても試験が続きます。そのため、おもに量産型として最初につくられた機体は、さらに改善点を探す試験に使われたり、乗員の訓練に投入されたりします。この「デルタゴルフ」もこうした役割を担った機体なのです。

なんて健気に一生を終えたのだろう……いや、まだ“現役”だ

「デルタゴルフ」は、仏のトゥールーズの博物館に展示されている量産型1号機と共に、最終生産機までの量産型が商用飛行に向けて政府の承認を取ることができるよう、さまざまな試験に用いられていました。機内には、乗降ドアを開く際の注意が手書きで残されています。これを筆者は、量産初期の機体ゆえだと考えています。

 後に「デルタゴルフ」は、イギリスで「コンコルド」を使用していたブリティッシュ・エアウェイズで乗員の訓練に用いられたほか、他の「コンコルド」の部品取りにも使われました。

 こうした仲間への縁の下の力持ちとしての役割を果たし続けた結果、「デルタゴルフ」は1974年2月13日に初飛行したにも関わらず、1981年12月24日にラストフライトを迎えるという8年に満たない現役生活になりました。

 現在、「デルタゴルフ」が展示されているブルックランズ博物館は元々「コンコルド」が生産されていた土地であり、その意味で「デルタゴルフ」は里帰りを果たした機体と言えます。機内は現在公開されて解説ツアーも企画され、毎日多くの見学者が超音速機体へじかに接しています。

 見学者は、現代の大型旅客機と異なる細い胴体に在りし日の音速飛行へ思いをはせたり、丸型計器がたくさん並ぶ操縦室に時代を感じたりしています。こうした風景に思うのは、量産型2号機「デルタゴルフ」は今も“現役”なのだということです。

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