『夜明けのすべて』瀬尾まいこさん初の絵本。100年後に思いをはせながら、「またあした」が当たり前の世界にしたい《インタビュー》

『100ねんごもまたあした』(瀬尾まいこ:著、くりはらたかし:絵/岩崎書店)

 岩崎書店から新たに誕生した絵本シリーズ「100年後えほん」。子どもたちに100年後の未来を夢見てワクワクドキドキしてほしい、という願いから誕生したシリーズだ。その第1弾を飾るのが、『そして、バトンは渡された』『夜明けのすべて』など多数の著作がある、小説家・瀬尾まいこさんの『100ねんごもまたあした』。絵をくりはらたかしさんが担当した1冊で、瀬尾さんにとっては初の絵本となる。

 かつて中学校で教鞭をとっていたという瀬尾さんに、小学校を舞台にした本作に込めた思いをうかがいました。

(取材・文=立花もも)

――はじめての絵本、挑戦されてみていかがでしたか?

瀬尾まいこさん(以下、瀬尾) 自分に絵本が書けるなんて、考えたこともなかったんですよね。でも、依頼のメールをいただいたときから(テーマが)「100年後の世界」というのは決まっていて、それは素敵だなあと。「800字から1000字程度」っていうのも、いいなって思いました。短ければ短いほど嬉しいんですよね(笑)。で、メールをもらってその日に「こういうのだったら書けますけど」とざっくり書いたものを送って。

――その日に!?

瀬尾 はい。あんまり難しいことは考えずに、これじゃだめだと言われたらしかたないなあ、と自分に書けるものをお渡ししました。そうしたら、OKをいただいたので、そのままくりはら(たかし)さんからラフがあがってくるのを待って、絵を見ながら言葉を調整して、完成した感じですね。

――最初に「100年後の世界」と聞いたとき、どんなイメージが湧いたんですか?

瀬尾 2年以上前だから、はっきりとは思い出せないんですけど、「100年後の未来なんて!」と驚くほど遠い存在だとは思いませんでした。未来を想像するって素敵だなあ、ってたぶんそれくらいの軽い気持ちだったんじゃないでしょうか。子どもに限らず、誰にとっても、あしたやあさっての延長線上に100年後があって、これから先が楽しみだなと思ってもらえるようなお話になればいいな、と。

――お話は、主人公が図工の時間に「100年後の世界を描いてみましょう」と言われるところから始まります。小学生たちが宇宙人や空を飛べる靴の絵を描いていたりと、しょっぱなから、読んでいるだけでわくわくします。

瀬尾 くりはらさんの絵がまた素晴らしいんですよね。私、これまで絵本を読むときに、あんまりじっくり絵を見たことがなかったんです。でも今回、くりはらさんが細かいところまで描きこんでくださったのを見て、こんなふうに楽しめるんだと改めて実感して……。どんな職業があるだろう? って想像を膨らませているところでは、娘が見て、某YouTuberがいる! って喜んでいましたし、クラス全員の絵がずらりと掲示されているところでは、一枚一枚、個性があふれていて、こんな未来もいいな、あっちもいいな、ってやっぱりわくわくする。もう、言葉なんていらないんじゃないかなって思っちゃうくらい。

――そんななか、主人公の友達のサクヤくんは、画用紙を真っ黒に塗りつぶしましたね。100年後なんか地球は滅びている、お先真っ暗だと言って。

瀬尾 まあ、クラスに2~3人はこういう斜にかまえた子がいるだろうな、と。でも、みんなと一緒にキラキラした絵を描けない子たちだって、心底未来に絶望しているかといえばそういうわけじゃないと思うんですよ。本当に、希望のない未来が来てほしいとも思っていない。先生の言うとおりにキラキラした絵を描くのはちょっといやだし、そもそも上手に描く自信はない。だから「現実なんてこんなもんだ」という態度をとっちゃう子は、教室に何人かいるはずだと。

――瀬尾さんって、子どもたちの感性を同じ目線で理解されているような感じがありますよね。

瀬尾 いやいや。ただ、子どもが好きなのと、うちの子が小学校に入ったばかりのころに、PTAの生活安全部で通学路の周辺をうろうろする役割を担当していたんですよ。そのとき、子どもたちといろんな話をして、何が好きかいっぱい教えてもらいました。ものすごく些細なことだけど、みんな、休み時間が大好きなんだなあとか、どうしていつの時代も揚げパンにあれほど夢中になるんだろう、とか。

――ああ、だから、主人公も「給食の揚げパンが出る回数が2倍になる」という未来の夢を語るんですね。

瀬尾 そう。揚げパンの日は、おかわりの行列ができて、足りないときはじゃんけんになるんですって。砂糖をまぶしているだけなのに、なぜかみんな、必死になるんですよね。

――ちなみに瀬尾さんは、100年後はどんな世界だと思いますか?

瀬尾 そうですねえ。私、傘がきらいなので、はやくそれに代わるものが発明されてほしいんです。雨が降ったらビュンって膜かなにかに覆われて濡れずに済むようなシステムが、100年後といわず、そろそろ生まれるといいなと思っています。あとは、本文中にもありますけど、海を歩けたらいいですよね。私、まったく泳げないので。もし歩けるようになったら海も飛行機に乗るのも怖くなくなります。ただ、空飛ぶ靴はそんなにほしくないな。陸地を歩くほうが好きだから(笑)。

――そういう未来を想像する主人公のもとに、宇宙人のような未来人のような存在が現れる場面も、よかったですね。絵本ならではっていう感じがします。

瀬尾 そうなんですよ。現れる伏線として、「あれはもしかしてタイムマシンだったのかも」と思える絵が、それ以前に描かれているのもいいですよね。私もあとから気づいて、なるほど! と楽しかったです。そういう楽しみ方も、絵本はできるのだなあ、と。今回の絵本刊行にあわせて、子どもたちに読み聞かせをするイベントを何回かさせてもらったんですけど、その絵に気づいた子が「あれなんだったの?」って食いついていましたね。

――子どもって意外と、大人が見ていないところまでしっかり見て、気づきますよね。

瀬尾 そうなんですよ。子どもって、侮れない。私が教師として中学で働いていたときも、大人が思う中学生と本当の彼らは全然違うって思っていました。小学生も、それ以下の子どもたちも、私たちが想像するよりはるかに物を考えているし、細かいところまで観察している。全然関係ないですけど、このあいだ、娘と一緒に登校している小学生の男の子に、「私18歳やねん」って言ったら「嘘つき。40代後半か50代やろ」とぴったりあてられました。

――え、すごい! 私、大人の年齢って、今でも全然あてられないです。

瀬尾 自分の母親が30代後半だから、それと比べて……ってことだったみたいですけど、あてずっぽうじゃなく本当にわかっているのがすごい。そういう子どもたちが、この絵本をまっすぐ楽しんでくれるのを見るのは、嬉しかったですね。そもそも私、子どもが大好きなので、触れ合える機会をもてるだけで嬉しかったんですけど。4歳くらいの子が、ちょっと読むだけで「ブラボー!」って言ってくれたのもよかったな。

――かわいい。

瀬尾 未来のジャングルジムや宇宙人の絵にも食いついてくれて。ページを開くたびにわくわくしてくれるのがわかって、書いてよかったなと思いました。最初のイベントで登場したとき「私、どこから来たと思う? 100年後だよ」って言ったときは、ものすごくすべりましたけどね。半分くらい、付き添いの大人だったからというのもあるけれど。2回目から普通にやったら、ちゃんと楽しんでくれるようになりました。

――(笑)。瀬尾さんの思う、絵本の魅力を教えていただけますか?

瀬尾 絵本は、読む機会さえあれば、実は子どもだろうと大人だろうと誰でも楽しめるんだな、と。気づいたのは子どもが生まれてから。難しい言葉はひとつもないし、言葉がなくても絵を見ているだけで満足できる。そのおもしろさに、あんまり時代は関係ないのかなって思ったりもします。子どもが好きな「からすのパンやさん」シリーズは、私も子どものころに読んでいましたしね。続編では、カラスのパンやさんに生まれた子ども4羽が、八百屋さんやおそばやさんを営んでいて、みんな独り立ちしたんだなというのがわかって、ちょっと感慨深かった。しかも4羽とも食べ物屋さんになったんだなあ、と。

――それもまた、時を越えて再会できたことのひとつだと思うと、未来ってやっぱりわくわくすることが詰まっているような気がしてきます。

瀬尾 私、ずっと大人になりたかったんですよ。はやく大人になればそのぶん、自分の力で生きることができて、好きなことができるようになるから、って。だからもともと、未来にはそんなにネガティブなイメージがないんだと思います。もちろんこれから先、年をとって体が弱ったらできないことも増えていくかもしれないけど、でもそれはそれで、楽しいことが待っている気がする。未来はきっと、いいことのほうが多いって信じてます。

――その想いがタイトルの「またあした」に詰まっているんでしょうか。

瀬尾 単純に「またあした」って言うのがすごく好きなんですよ。子どもって、100年後も一緒にいられるって、信じて疑わないんですよね。主人公とサクヤも、性格はたぶん全然違うけど、あしたと、そのあしたと、そのまたあしたの積み重ねで、ずっと一緒に遊んでいられると信じている。娘もよく、言っていますよ。大人になったら私はイオンのあの店で、友達はこの店でバイトして、一緒に通うんだって。だから、いつまでも「またあした」ってみんなが言えるような世界であってほしいな、と思います。

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