赤坂アカ36歳の仕事術「漫画家引退宣言してよかった」【推しの子】が完結した今、40歳までに達成したい目標とは

赤坂アカ「【推しの子】って何だったんだろう?」作者が語る“ひとりじゃ絶対できない作品”だった理由〉から続く

大ヒット作品『【推しの子】』が堂々完結した。原作者の赤坂アカ氏は現在36歳。もはや若手作家ではなく、かといってベテランと呼ぶにはまだ少し早い30代半ば。過酷な週刊連載の中で、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』『【推しの子】』と2つの人気作を完走してきた赤坂氏の仕事術とは。そして、40歳までの目標を聞いた。(全3回の3回目)

【画像】捏造して、誇張して、都合の悪い部分はきれいに隠すアイドルの闇の一面も描かれた【推しの子】

まさかのキャリア転換。「漫画家引退」宣言について

――赤坂先生が『【推しの子】』連載中、そして『かぐや様』連載終了にあたって2022年に発表した「漫画家を引退し、漫画原作者に専念する」宣言は大きな話題を呼びましたが、改めてこの決断について伺えますか?

赤坂アカ(以下同) 「たくさん作品を描きたい」っていう気持ちが強かったんです。僕は作画に時間を取られてる間に「ネームを描きたい!」って思っちゃうタイプなので。

――原作と作画を分けた漫画も少なくありませんが、作画をしないと宣言したのには大きなインパクトがありました。

時間の問題が第一ですが、自分よりも絵がうまい人はたくさんいますからね。本当に自分で描きたいときは描くかもしれませんが、「絵を描くのはもう趣味でいいや」という部分はあります。

――同業者の方から反応はありましたか?

漫画家同士なので「なんで言ったの?」と聞かれ、「作画したくないから」と答えたら、それで終わりです(笑)。

――プロ同士、多くは語らない……(笑)。

ただ、そういう意味では、僕は「自分で絵を描きたい」人の気持ちを分かっていないのかもしれないとも思います。僕の漫画家としての始まりは「お話を作りたい」だったんです。逆に他の漫画家さんたちに聞いてみたいですね。「漫画原作者になれる」と言われたら、なりますか?って。

――確かに、その答えは気になりますね。

僕の宣言が大きく扱われたのは、漫画家全体として「絵を描くのが好き」って人が多いからな気がしますね。たぶんそういう人たちは、お話を作りたい気持ちと、絵を描きたいって気持ちの両方を同時に解消したいタイプなんじゃないかと思うのですが、僕はネームで「このキャラかわいいな」って思えるタイプなんです。

――なるほど。

集英社の担当編集さんへのメッセージだったんですよね。「僕はもう絵を描きませんよ」っていう(笑)。「それでもよければ一緒にお仕事しましょう」って。

ついに実現した、当初思い描いていたキャリア

――宣言から約2年が経ちましたが、宣言してよかったと思いますか?

よかったと思います。僕にとっても、担当編集さんや業界にとっても楽というか。さすがに「イラスト仕事は振らないようにしよう」って思うじゃないですか(笑)。

――そうですね(笑)。

そして、お話だけに専念できるのは非常に楽ですね。絵を描くのって、実は常にアップデートが必要なんですよね。勉強はもちろん、機材も新しくしないといけない。

その中で一番怖いのは、世の中が新しい絵柄の方向に変わっていったり、うまい人がどんどん増えていくことなんです。それに合わせていくのは大きな心労だし、絶対的なコストが多いんです。

――原作者としてもアップデートは必要かと思いますが、赤坂先生は作画よりもそっちのほうが自然と更新していけると考えたわけですね。

そうですね。僕にとってはそっちのほうが楽しくできるし、そうしていたい。僕は「ずっと絵を描き続けても、だんだんアプデしなくなるだろうな」と思っちゃう部分があったので、それなら「絵を100%頑張ってます!」って人と組みたいと思ったんです。

もちろん、絵がうまいだけじゃなく、漫画もうまい人じゃないと、漫画の作画をお願いすることはできないんですけどね。

――ちなみに赤坂先生は当初から原作者志望で、『かぐや様』についても渋々自分で絵を描き始めたとか。

正味な話、「僕には漫画はできないだろう」と思っていたんです。でも、原作者になるには漫画家としてのステップを踏んでおかないといけない。だって、実績も何もない人が「僕は原作者です。すごく絵がうまい人を充ててださい」って言っても、たぶん無理じゃないですか。

――確かにそうですね。

で、何本か連載してみて実績をちょっとは積んだので、「今度こそ」と思って集英社に来て「原作者やらせてください」と言ったら、できなかった。それが『かぐや様』の始まりでした。

――それが大ヒットしたんだからすごい話ですが、やっぱりそこで『かぐや様』を当てたことで原作者になれたわけですよね。

そうです。『かぐや様』がなかったら『【推しの子】』はこうなっていなかっただろうなと思ってます。だから『かぐや様』を自分で描いたことには後悔は何もないし、担当編集さんへの恨みとかもないです(笑)。

やれてよかったなって思っているので。「できるかな……?」って不安が大きかったので、それができたことは僕の中でもすごく大きな経験です。

自分を知って物理的に対処する。赤坂アカが見つけた処世術

――アップデートの話がありましたが、作家にとってインプットはとても重要な要素だと思います。人生のうち最もインプットしたジャンルは何ですか?

インターネットですね。全体としての男性の意見と女性の意見が全然違うことって、すごく多いじゃないですか。だから、僕はどっちの目線も見たくて、女性側の本音がたくさん集まるサイトをよく見てました。

かぐやという女性を主人公とした『かぐや様』を描けたのも、そのインプットが大きかったんじゃないかと思っています。普段、顔を合わせて接してるときには見えない女性の意見が、インターネットによって露出していた。だから描くことができた作品なんじゃないかと。

さっき(参照:【推しの子】インタビュー#2 )「僕は黒川あかねみたいな行動をしたことで生きやすくなった」ってお話ししましたが、その最たる例かもしれないですね。それまでの僕は、他人がどう考えているかを想像できていなかったけど、ネットに書かれた情報から「人間って、こういうものなのかもしれない」という仮説を組み立てていって、それが漫画になった。みたいな。

――最大のインプットが、インターネットやそこでのコミュニケーション、内面吐露というのは、すごく意外でした。

僕はキャラクター作りをするときに、「どうやって人格形成され、こうなったのか」を大事にしているんです。そういう意味では、自分の中にだけあったその秘密を説明できる、過去話エピソードを描くのはすごく好きですね。

――赤坂先生は現在36歳ですが、これで2つの人気連載を終えられました。ヒットを生む具体的な仕事術についても伺いたいと思います。仕事のルーティンはありますか?

ルーティンはなくて、「焦ったらやる」って感じです(笑)。

――「しめきりはインスピレーションである」ってやつですね(笑)。

あと、僕は忘れっぽかったり、集中力が続かなかったりすることがあるんですが、自分の特性をちゃんと調べて、自分と似たような境遇の人たちがどういう対処をしているのかを知ることも重要な作業だったと思います。それによって、「頑張っても無駄なこと=諦めること」と「対処できること」を知ることができました。

――ここにも「分析と仮説」が役立っているんですね。

そうです。とくに僕は物理的な対処をすることが多いですね。「家にいて仕事ができないなら、外に行こう」みたいな。だって、物理的にゲームがないところに行けば、ゲームしないじゃないですか。

僕はよく集英社にお邪魔させていただいてるんですけど、それも対処の1つです。「誰かを頼る」でもいいと思うんですけど、自分の特性をなるべく物理的に解消するようにしています。

――物理的な環境が持つ影響力は強いですからね。

自分の嫌な部分も正面から受け入れ、理解して、対処する。それが僕にとっては「35歳になってできるようになったこと」だと思います。

健康への配慮も、物理的な環境づくりから

――週刊連載の過酷さは漫画を取り巻く環境の中でも大きな問題だと思うのですが、赤坂先生が健康について気をつけていることはありますか?

気をつけているというか、物理的に徹夜ができなくなりました(笑)。夜になると、寝ちゃうんですよね。寝る時間も早くなっていて。でも、水木しげる先生も「寝れば早死にしない」って言っていたので、素直に寝るようにしています。

――20代の頃みたいに徹夜できなくなって、逆によかったということですよね。

そうですね(笑)。あと、エナドリをやめたのも大きな変化だと思います。コーヒーはいまだにちょっと飲んでるんですけど、糖分の摂りすぎはよくないってことに気づいたので、今は水が美味しいですね。

――エナジードリンクと水の差は絶対に大きいですね。

これも物理的な対処で、水や味のついていない炭酸水を箱で買っておいて、家事代行サービスの方に冷蔵庫に入れておいてもらっています。そう、家事代行をお願いしているのも大きいですね。僕は掃除ができないので、もう諦めてやってもらっています。

「その分、自分は頑張って家事代行サービスをお願いするためのお金を稼ごう」って切り替えました。自分が抱えていたいろんな問題が物理的に解消できるようになっていったのは、すごく嬉しい話です。

――「自分の特性を知って、物理的に対処していく」。これは誰にとっても強力な助言となりそうですね。

そうだといいなと思います。僕も昔は「ちゃんとやるから」って言ってたんですけど、今はちゃんと「できません」って言うようにしました。遅刻するときも「あと5分で着きます」と言って10分かかるのではなく、初めに「10分かかります」と言って5分で着くようにしています。
 

――それは重要ですね(笑)。

「できる」と見栄を張らないのは、大人になったってことかなと思います。そのほうが結局みんな不幸にならないですし。ただ、原稿だけは「大丈夫、今夜中にやります」って今でも言っちゃうんですけど……(笑)。

――(笑)。最後に、赤坂先生は現在36歳ですが、40歳までにしたいことはありますか?

筋トレですね。過去に何度か調整してみては、継続できないという失敗を続けてきたので、成功したいんですよね。自分を抑える能力の低さにほとほと自分でも呆れてます。

筋トレに成功できたら、それは僕の特性が変わったと感じられる瞬間なのかなと思うので、そんな自分になりたい。それが憧れですね。

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取材・文/照沼健太

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