あばれる君、実は読書家!? 何度も読み返す本には幅広いジャンルが【私の愛読書】

 さまざまな世界で活躍する著名人に好きな本を伺う【私の愛読書】。今回登場するのは、初エッセイ『自分は、家族なしでは生きていけません。』(ポプラ社)を刊行し、本を常に4~5冊は持ち歩いているという読書好き芸人・あばれる君。

 ピックアップされたのは『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ:著、波多野完治:翻訳/新潮社)、『大人養成講座』(石原壮一郎/扶桑社)、『本日は、お日柄もよく』(原田マハ/徳間書店)というジャンルの異なる3冊。これらの本が、自身の人生やお笑いのスタイルに少なからず影響を与えてくれたそうです。

テレビに出始めてからの4~5年が人生最大の荒波

――1冊目の『十五少年漂流記』は、ご自身のXのヘッダーにもなっています。それくらい大切な存在なのでしょうか。

あばれる君:そうですね。本に登場する少年たちのような人生を送りたいというか。ああいう冒険小説って、必ず助かるから好きなんです。お父さん、お母さんのもとにたどり着いたときの安心感がすごいんですよ。子どもながらにそう思った気持ちを、大人になってからも忘れられなくて、今でも好きです。

――普段も冒険小説を持ち歩いているそうですね。

あばれる君:持ち歩いています。移動が多いので、そのときに読みたいんですよ。1冊だと飽きたときに困るので、4~5冊はバッグに必ず入れています。それでもスマホいじっちゃうんですよね。スマホから離れたいがために持ち歩いているのに。

 すみません、今日は持ってないんですよ。ポケモンカードでリュックがパンパンで入らなくて。今度ポケモンカードの大会(6月1日、2日に開催)があるので、いまは仕事の合間にも猛練習しているところなんです…。

――冒険小説っていうのが、あばれるさんっぽいというか。

あばれる君:自己啓発的な本もめちゃくちゃ読みますよ。それで助けられたこともけっこうあるし。本屋が好きなので、新しい本を買っては読んでいます。

――『十五少年漂流記』では少年たちがいろんな荒波を乗り越えますが、ご自身にとって人生最大の荒波とはなんでしょうか。

あばれる君:いや~なんだろうなあ…。テレビに出始めて最初の4~5年ですかね。すごくロケの仕事が多くて、めちゃくちゃ忙しかったんです。けっこう失敗もしてよく自信を失っていました。無駄に自分の10年後のことを考えて、この業界でやっていけんのかって不安になることもありました。

 そういうときによくキヨスクで売っている“ブッダの言葉”みたいな文庫本を読んだりしていましたね。「1日1日を大切にしながら失敗を修正していくと、振り返ったときに道ができている」というようなことを教えてくれたんです。そう思うとラクになりましたね。

――不安になると考えすぎたりしますよね。

あばれる君:そのころは考えすぎて大変だったんですよ。体を張るロケが多くて、家に着くのは夜の12時。その6時間後くらいには次の仕事が始まるし。もちろん、楽しさのほうが強かったから続けられたんですけど、あの頃がいちばんの荒波でしたね、自分の中では。

――世の中の子育て中のパパたちは、奥様との生活が自分の荒波だと考えている人も多そうです。奥様のゆかさんとの生活はどうですか?

あばれる君:それを荒波と思ってしまうのはつらいですよね。奥さんと一緒にいるのは毎日のことだし。でも、ゆかちゃんだって、大シケのときがありますよ。僕が飲み込まれそうなくらいの。基本的には凪ですけども。

どんな時代にも通じる「あるある」がお笑いに生きている

――次の一冊『大人養成講座』は、30年ほど前に発売された本ですね。

あばれる君:石原壮一郎先生の言い回しがすごくおもしろいんですよ。すごく皮肉が利いていて、全部のエッセイが超おもしろい。みんなが言わないようなことを言っているんです。飲みニケーションとか言う上司は自分に自信がないから誘ってくるんだ…みたいなのをうまく言い回すんですよ。それがとにかく笑える。ずっと持ち歩いていた時期があって、何度も読み返しています。

――この本はどんなときに出会ったんですか?

あばれる君:芸人になってからです。その頃はおもしろい本とか、笑える本を探していたので。ほかにもいろいろ、お笑いに生かせそうな本を読みあさりました。

――役にも立つし、笑えるっていうのがいいですね。

あばれる君:大人養成講座と言っていますけど、全部ふざけているんですよ、この本。カラオケのデュエットは大人の基本だからあきらめて身を委ねるべし…とか、やめた職場に顔を出すおじさんを優しく扱え…みたいな。

――どんな時代でも通じそうですね。

あばれる君:そう、ずっと通じる「あるある」。僕のお笑いにも生きていると思いますね。

――読み返すのはどんなときですか?

あばれる君:ネタを書くときとか、笑いってどうやって作るんだっけな…っていうときです。こういう表現や言い回しにするといいんだなって、アイデアの参考にしてます。最近はネタ書いてないんですけど…。石原先生の本は何冊か持っていて、『大人養成講座』がいちばんおもしろいですよ。

「無駄を削ぎ落とす」のがお笑いとスピーチの共通点

――3冊目は作家・原田マハの小説『本日は、お日柄もよく』です。

あばれる君:これを読んだのは最近ですね。スピーチがうまくなるよ、って噂を聞いて。スピーチが上手じゃなかった主人公がスピーチを習って、結婚式なんかで沸くようなスピーチができるようになるっていう場面があるんです。それが芸人の自分の姿とかぶって、良かったです。ネタも人前で見せることでどんどん良くなるじゃないですか。だから主人公や登場人物にすごく共感できました。

――スピーチとお笑いに共通点があるとは。

あばれる君:無駄を削ぎ落とすっていう意味では共通点があると思います。ストレートな言い回しをするとか。

――人から勧められて読むことは多いほうですか?

あばれる君:普段はほとんどないですね。自分で選んで買うことが多いので。この本に関しては人からおすすめされて…。あ!そうだ!おすすめされて買おうと思って、家に帰ったらもう本棚にあったんですよ!ゆかちゃんが買っていたんです。偶然ってすげえなってゆかちゃんと話していました。「あの本おもしろいよ」とか「この本はちょっと読めなかった」みたいにゆかちゃんと本のことを話すときもありますね。

――人前で見せないとネタが育たないと思うと、披露する場が少ない新人さんは本当に苦労しそうですね。

あばれる君:そうなんですよ。ロケで忙しくなると、ますますネタができなくなるんです。で、次の日もまたロケ番組がやってくるっていう。僕も大変でした。忙しくて。今はやっと地に足が着いてきた感じですね。軸が太くなってきたというか。これも、家族のおかげです!

取材・文=吉田あき、撮影=金澤正平

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