千代田国際中学元校長・日野田直彦 本は<人生のグーグルマップ>。「何になりたいか」「どう生きたいか」は読書していればいずれ見つかる

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9月に入り、「勉強の秋」と言われる季節になりました。でも長期休暇明けの学生や社会人のなかには「なぜ勉強しなければならないのか?」「先行き不透明な時代にどう生きればよいのか?」などと悩む人も多いのでは。そこで『東大よりも世界に近い学校』の著者で千代田国際中学校の元校長・日野田直彦さんが「あなたが勉強するべき理由」「進む道の見つけ方」をお伝えします。

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いまの学校はオワコン?日野田さんの著書『東大よりも世界に近い学校』

なぜ勉強するのか

学生でも、社会人でも、将来に対して不安をもつ人は多いと思います。

その結果、「新しいことを勉強しよう」「資格をとろう」と考える人もいれば、「この先の人生をどう進めばいいのか?」「どう生きればいいのか?」と悩む人も多いのではないでしょうか。

そもそも、人はなぜ勉強するのでしょうか?

私が校長を務めていたころ、生徒や保護者から「学校の勉強は必要ですか?」とよく聞かれました。

もちろん、必要です。それは、学校で学ぶ勉強の内容が良いものだから。

社会の問題を自分で考え、自分なりの関わりかたを考えるうえで最低限の知識は必要です。将棋でいえば駒の動かしかたや基本的な戦法、先人たちが打ってきた「棋譜」を勉強しないと上達できないのと一緒です。

社会の問題といっても、貧困や環境といった大きな問題だけではありません。身のまわりのちょっとした不便や不具合、会社や組織が抱える問題、そうしたものを情熱と創意工夫で解決することも立派な「課題解決」です。

たとえば、ルンバを知っているでしょうか。自動お掃除ロボットです。

これは、MITの研究者が、友人が忙しすぎて部屋の掃除をしている暇がないと嘆いていたのを聞いて思いついたアイデアでした。きっかけは些細なことですが、これも立派な社会の問題を解決する仕事です。

「何をしたいのか」を探しているなら

自分は何をしたいか、何に向いているかを探したり考えたりするときには、「自分はこういう人間だ」と決めつけないことが大切です。

自分が何者かを知るために大切なのは好奇心です。ワクワクすることです。

好奇心がない人などいません。自分は人より好奇心が少ないと感じているとすれば、それはもともと好奇心が少ないのではなく、問題意識が薄いのです。

目的意識や「自分は何者なんだろう」ということを意識していれば、自然と好奇心が刺激されることに出合います。これってなんだろう、なぜだろうと不思議に思う。そこからワクワクがはじまります。

このワクワクがないと学びはありません。

嫌々やるのは作業であり、学びではありません。ワクワクすることを見つけて、自分が何をしたいのかがわかってくれば、その手段として勉強するようになります。

うるさく「勉強しろ」といわれなくても、目的がはっきりすれば、やる気は自然と出てきます。それが学びです。

英会話が上達する最良の方法

たとえば英会話が上達する最良の方法は、「英語しか話せない人に恋すること」だとよく言われます。

『東大よりも世界に近い学校』(著:日野田直彦/TAC出版)

恋をした相手のことをもっと知りたい、楽しく会話したい、好かれたいと願えば、頼まれなくても必死になります。

グローバル社会で生き抜くためとか、就職に有利だからといわれてもやる気になりませんが、「この人と友達になりたい」となれば、俄然、力が入ります。

ちなみに私は小学校の高学年をタイで過ごしたので、少し日本語が苦手でした。でも、なんとかなったのは、ゲームの『信長の野望』にハマったからです。

やたらとむずかしい名前の人が出てきて、読めないとゲームが上手くならないので、必死になって勉強しました。

目標がはっきりしていて、それが自分にとってどうしてもなしとげたいものなら、人は必死になって努力します。

もしお子さんがいらっしゃる方であれば、頭から決めつけずに子どもの可能性を広げる、好奇心の芽を摘まないことが大切です。

あれやこれやと習い事をさせたり、「しつけ」と称してどなり散らしたりしてはいけません。本人の「やりたい」という気持ちが大切なのです。

勉強すると人生をショートカットできる

「勉強」と聞くと、出てくるのが、教養かそれとも実学かという二項対立的な論争です。

でも私の意見を言えば、そんな論争は無意味でしょう。

そもそも、教養とは英語でリベラルアーツといわれるように「自由になるために必要な技術や学問」です。明日から仕事にすぐ使えるヒントでも、世界のビジネスエリートが知っているものでも、それを学んだことで、優越感に浸るためのものでもないはずです。

一方で、人類には「蓄積」があります。そして「勉強」をすれば、その蓄積されてきた基礎・基本を学び、いろいろな場面や段階をショートカットすることが可能になるのです。

たとえば、月と地球はどれだけ離れているでしょうか?

なんの「蓄積」もないままその問いを考え始めたとするならば、一生それに没頭したとしても、おそらく答えを出すことはできないでしょう。

しかし、その答えを既に「蓄積」した人にたずねれば、距離だけでなく、なぜそうなのか、ということも含めて、知ることができます。

つまり「勉強」により、先人たちがとても長い時間をかけて見出し、受け継ぎ、付け足してきた知識を、あなた自身はさほど時間やコストをかけずに得ることができるのです。

本は<人生のグーグルマップ>

私が校長になるきっかけとなり、同志と思っているエンジェル投資家の瀧本哲史(たきもとてつふみ)さん。

2019年にこの世を去った彼は、生前「読書とは、本に書かれていることをそのまま鵜呑みにするのではなく、批判的に読むことで自らの血肉となる。いわば格闘技です」と話していました。

それはその通りだと思います。だからみなさん、本を読みましょう。

しかし、いきなり本を読めといわれても、何を読んだらいいかわからない、と思われた方もいることでしょう。

心配いりません。なんでもいいのです。少しでも興味をもった本、気になる本、そういうものを片っ端から読めばいい。本を読めば読むほど、世界はクリアになり、そしてあなたにとっての「ワクワク」に出合えるチャンスが広がります。

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私の友人はよく「本は人生のグーグルマップ」だと話しています。

大量に読書していると、あるとき突然全体がパッと見えるようになり、自分が望む場所がどこにあるのか、わかるようになるのです。

そうすると、また「ワクワク」するような興味がふくらんでいきます。それでまた新しい「ワクワク」に出会えば、いつしか自分が何者か、自分が何をしたいのかがわかってきます。

だから、とにかく本を読んでください。

読むことで知的体力がついてきます。そして、いつかその本の作者と「対話」できるくらいまで、あなたが成長する日がきっとくるはずです。

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