定年間際に教員を退職し、服を変えたら人生も変わった。「60代は目立っていい」と、背中を押されて

『着る学校』受講生・ななさん

受講生・ななさん(写真提供:ご本人 以下全て)
ドラマスタイリストの西ゆり子さんが、一般女性に向けて2023年6月に開講した『着る学校』。好きな服を着るための基礎知識を学び、自分らしいおしゃれを楽しめるようになると、人生がどのように変わっていくのか。連載3回目は、長年続けてきた仕事を辞めたことをきっかけに、おしゃれや人生に対する姿勢が劇的に変化した受講生の方の学びを紹介します。(構成◎内山靖子 全5回連載/第3回)

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【写真】ななさんお気に入りアイテム

校長・西ゆり子さんのインタビューはこちら

「着る」ことをもっと楽しみたくて

大学を卒業後、35年間続けてきた教員の仕事を58歳のときに早期退職しました。公立高校の英語科の教師として、定年まであと2年。定年までなぜ我慢しなかったのかと言えば、あるときふと「人生って意外に短いな」と思ったからです。もちろん、仕事にはやりがいを感じていましたし、純粋な心を持った高校生たちと過ごす日々はとても楽しいものでした。でも、この先、残されている時間は限られている。なのに、私は教員の世界しか知らないんだなって。

親の意に沿う形で教員になり、確かにいいこともたくさんありました。でも、これが本当に自分の望んでいた人生だったのか?と言えば、もっと他の道もあったんじゃないかと……。若い頃は、好きな英語を活かして海外で仕事をしてみたいと夢を膨らませたこともありました。だったら、今の自分は60代になるまでにまだ2年ある。新しい可能性に挑む気力のある50代のうちに、これまで知らなかった世界を見てみよう。そう考えて、教師の仕事を辞めることにしたのです。

ところが、ちょうどその時期にコロナ禍が起きたため、新しい仕事を探すどころの状況ではなくなってしまった。で、そのまま何をするでもなく数年間を過ごしていた私に、ファッションの仕事をしている友人が「『着る学校』に参加してみたら?」と勧めてくれたのです。そう言えば、「着ること」についてきちんと学んだことは1度もありません。仕事を辞めて人前に出る機会が減ったことで、服装に関してもすっかり無頓着になっている。そこで、これも自分にとって新たな挑戦のひとつと考えて、『着る学校』のレッスンを受講してみようと決めました。

『着る学校』受講生・ななさん

西先生からのアドバイスをもとに、紫色のシャツをいろいろな着方で試すななさん

「60代は目立っていい」と、背中を押されて

『着る学校』のレッスンに参加してまず感じたのは、「西先生はぶっ飛んでいる!」ということです(笑)。私自身もそうですが、ある程度の年齢になったら「年相応の恰好をしなきゃ」と思っている人が多いでしょう。でも、西先生には「年相応」という考え方がまったくない。年齢なんていっさい気にせず、いつも自分の好きなおしゃれ楽しんでいらっしゃる。こんな70代の女性がいるのかと新鮮でした。さらに印象的だったのは、「60代は目立ちなさい。70代はとんがりなさい」という言葉。「そうか、60代は目立っていいんだ」と、背中を押されたような気持ちになりました。

というのも、教員時代の私は「これは学校に着ていっても大丈夫?」という視点で、常に服を選んでいたのです。生徒たちはきちんと制服を着て授業を受けているわけですから、教える立場の私も学習の邪魔にならないような服を着なければと。生徒たちの気が散らないように色は黒かネイビー、胸元が大きく開いたトップスは着ない、膝丈より短いスカートは履かないというコンサバな装いが習慣に。教員同士の間でも、ジーンズは履かない、ノースリーブは着ないといった暗黙のルールがありました。

プライベートで着る服も、学校に着ていく服を多少カジュアルにアレンジした程度だったので、ワードローブは自ずと「無難な服」や「周囲と調和した目立たない服」ばかり。これは『着る学校』のレッスンを受けてから気づいたことなのですが、「無難」で「周囲と調和して目立たない」というスタイルは、実は私自身の生き方と重なっていたのだと思います。そんな自分を解放したい。西先生や同期のメンバーの方々がそれぞれの個性に合ったおしゃれを楽しんでいる様子を見ているうちに、私ももっと自分の好きな服を着たいと思うようになっていきました。

『着る学校』受講生・ななさん

お気に入りのジャケットを羽織って

赤いワンピースは解放の証

本音を言えば、私はきれいな色の服や柄物の服が好きなんです。特に、ペイズリー柄を見ると必ず買ってしまう。だけど、ふと我に還ると、「これは学校には着て行けない」。そんな「自分が本当に好きな服」の数々が、実はクローゼットの奥底に何枚も眠っていました。手始めに、「眠っていた服」の数々を掘り起こしてみたものの、今までコンサバな装いしかしてこなかったので、主張の強い服は何と組み合わせて、どうやって着たらいいのかわからない。そこで役に立ったのが、色や素材の組み合わせ、コーディネートする際のバランスなどの『着る学校』で学んだおしゃれの基礎知識です。それまでファッションのセンスは感覚的なものだとばかり思っていたのですが、きちんとした考え方があるということがわかり、とても参考になりました。おかげで、大好きだったペイズリー柄のブラウスや、以前は着たことがなかった花柄の服もすんなり着られるようになりました。

そして赤! 実は私は赤い色が大好きなのですが、教員時代は赤い色の服や小物はいっさい身に着けなかったんですよ。それが、近頃は、赤い色のバッグや靴を目にするとつい買っちゃって(笑)。先日の誕生日にも、夫に頼んで真っ赤なワンピースを買ってもらいました。「これ、どこに着て行くの?」と夫に聞かれましたけど、今の私ならどこにでも着て行けそうな気がします。

「服を変えれば、人生が変わる」という西先生の言葉をお借りすれば、私は着る服を変えると同時に、保守的で固定概念の塊だった自分自身を変えたかったのだと思います。教師と言う仕事柄もあったのでしょうが、「そんなことをしてはダメ」「あなたはこうあるべき」と、生徒や周囲の人たちにも無意識のうちに固定概念を押し付けてきた。でも、そんな自分とはもうさよならしたい。私が自由になれば、周囲の人たちに対してももっと寛容になれるはず。これからはそんな人間でありたいし、そのほうが人生がもっと楽しくなるのだということを『着る学校』のレッスンを通じて気づかされたのだと思います。赤いワンピースは、いわばその証。学校には絶対に着ていけませんけどね。(笑)

『着る学校』受講生・ななさん

解放の証、赤いワンピースを着て

ありのままの自分で、おしゃれを楽しむ

新しい仕事につくことはできなかったけれど、目下、私は教員時代に夢見ていた理想の生活を送っています。それは長野県の蓼科にある山荘で、1年の半分を過ごすという暮らしです。自宅のある名古屋市を離れ、4月から11月までこの山荘で暮らしてみる――私にとって、これも初めてのチャレンジです。「僕は80歳まで働く!」と言う夫は仕事のない週末しかやって来られないので、普段は2匹の愛犬と私だけ。豊かな自然に囲まれてガーデンライフを楽しんだり、家庭菜園で野菜を育てたり。ときには、軽井沢や松本までドライブすることも。朝から晩まで仕事ばかりしていた頃と比べたら、まったくストレスがありません。

山の暮らしは、都会のように服装に気を遣う必要もありません。とはいえ、西先生もスッピン&メガネでありながら、いつもとってもおしゃれです。そんな先生の姿勢を見習って、私も素のままの自分でおしゃれを楽しみたい。山では、教員時代に必ずつけていたピアスや指輪もしていません。コンタクトレンズもはずして、毎日メガネです。必要以上に他人の目を意識せず、周囲に忖度したり見栄を張る必要もない――生きていく上で大切な心構えを『着る学校』で学んだことで、50代までの私とは違う新しい自分を発見できたのだと思います。

『着る学校』受講生・ななさん

明るい色のパンツとジャケットを合わせて

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