本郷和人『光る君へ』「愚痴は日記に書け」と妻からたしなめられたロバート秋山演じる実資…その貴族の日記が今<世界的な学問>の発展に役立っていた

(イラスト提供:イラストAC)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第六話は「おかしきことこそ」。藤原道長(柄本佑さん)への想いを断ち切れないまひろ(吉高由里子さん)。没頭できる何かを模索し始め、散楽の台本を作ろうと思い立つが――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「日記と陰陽道」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…ってそもそも「入内」とは?

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平安貴族と日記

「光る君へ」で、その存在感をいかんなく発揮しているロバート秋山さん。

前話でも秋山さん演じる藤原実資が、花山天皇(本郷奏多さん)や藤原兼家(段田安則さん)らに対する愚痴を言い続け、「くどい! 私に言わないで日記に書きなさいよ、聞き飽きたから」と、妻である桐子(中島亜梨沙さん)からたしなめられるシーンが描かれました。

実際、平安貴族は日記を書いていましたが、そこに記されていることが世界的な学問の役に立っています。いったいそれはどんなことでしょう?

貴族たちは天体の様子を注意深く観察していた

答えは天文学です。

本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)

理論上、この頃に彗星が地球に接近していたはずだ、この頃には超新星の輝きがこちらの方角に観測できたはずだ。そういう仮説を支える記事が、貴族の日記で確かめられる。

彼らは天体の様子を注意深く観察していたのです。

そうした天体の様子、それに加えて暦や時間を考察する学問として陰陽道があり、陰陽道のプロを養成する機関として朝廷は陰陽寮を設置していました。

陰陽寮とは

トップは陰陽頭。

その下には陰陽道に基づく呪術を行う方技(技術系官僚)としての各博士やヒラの陰陽師が所属していました。

博士の内訳は陰陽師を養成する陰陽博士、天文観測に基づく占星術を行使したり教えたりする天文博士、暦を作成する暦博士、漏刻(水時計)を管理して時報を司る漏刻博士です。

定員は各1名。漏刻博士のみ2名。陰陽・天文・暦3博士の下では学生(各10名)、博士を目指す得業生(各2~3名)が学んでいました。あ、ヒラの陰陽師の定員は6名です。

陰陽道は賀茂・安倍(土御門)両家が世襲する学問に

平安時代の初め頃、陰陽道の内容はトップシークレットで、外部に絶対に漏らしてはいけない、という扱いを受けていました。中国大陸や朝鮮半島からやってきた最先端の知識を有する人が任じられることも多かったようです。

陰陽師はまさに専門集団だった。なんかかっこいいですね。

ところが秘密は漏れるもので、やがて貴族層が陰陽道の知識を分有するようになり、天文や暦に詳しくなっていきます。それが『応天の門』に登場する菅原道真の活躍する時代にあたるでしょうか。

それから道真より少し後に賀茂忠行・保憲父子、そして彼らに学んだ有名な安倍晴明が現れます。

「光る君へ」では安倍晴明をユースケ・サンタマリアさんが演じ、花山天皇の寵愛する藤原忯子とその身ごもった子を呪詛するなど、こちらも秋山さんに負けず劣らず、存在感を発揮していますよね。

結果として、陰陽道は賀茂・安倍(土御門)両家が世襲する学問になるのです。

※本稿は、『応天の門』(新潮社)に掲載されたコラムの一部を再編集したものです。

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