本郷和人『光る君へ』財前直見さん演じる息子溺愛『蜻蛉日記』の著者。ドラマでは「寧子」だが実際の名は…「政子」も「ねね」も本名は不明?女性の名前について

(写真提供:Photo AC)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第十七話は「うつろい」。藤原道長(柄本佑さん)が夜通し看病してくれたことを乙丸(矢部太郎さん)から知らされたまひろ。その道長は、疫病患者のための小屋を建てようとしていたが――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「続・女性の名前」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…ってそもそも「入内」とは?

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北条政子の名前とは?

今回は前回の記事に続き、日本史に登場する女性たちの名前について考えてみたいと思います。

鎌倉幕府を開いた源頼朝の御台所・北条政子さんの「名前」って、何だと思いますか。

え? 政子さんの名前って、そりゃあ政子に決まっているでしょう。

・・・うん、それはそうなんですけれども、頼朝が知っていた彼女の名前は間違いなく別のものなんです。

政子さん、なんて言われても

というのも「政子」というのは、三代将軍の実朝の時代、彼女が朝廷から従二位という高い位をもらった時、朝廷風の名前が必要になったので付けたもの。

本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)

たぶん北条時政の子どもだから、「政子」。

時子でも良かったのだけれど、これは平清盛の正室が既に使っていた(ちなみに彼女は時信さんの子だから時子)ので政子。

だから既に亡くなっている頼朝は「政子さん」なんて言われても、誰のことか分からないハズ。

「蜻蛉日記」の著者の名は

ということで、あらためて「政子さんの名前は何ですか?」と聞かれれば、やはりさっぱり分からない。資料が残ってないのです。

前回の記事でも書きましたが、平安時代にさかのぼれば、貴族の女性だろうと、その名前はよく分からないのです。

たとえば『光る君へ』に登場中の財前直見さん演じる藤原兼家の妾・寧子。『蜻蛉日記』の作者とされ、一人息子の道綱を溺愛していますが、「右大将道綱の母」なんて呼ばれています。

『更級日記』の作者も「菅原孝標の女」などと呼ばれている。

実際には「*子」という名前があったとは思うのですが……。

豊臣秀吉の正妻のあの方

なお、貴族の家に生まれた女性なら「*子」が多いはず、と推測はできます。しかし武家の女性になると皆目見当もつきません。

たとえば豊臣秀吉の正妻の”あの方”。北政所とか、仏門に入って高台院と称した”あの方”ですね。

彼女は長く「ねね」さんだと思われてきた。でも「ね」じゃないの? と桑田忠親先生が主張した。

すると角田文衛先生(高子を「たかいこ」と読んだ御仁です)が、「いや、ねねで良いんだ」と反論。

大河ドラマでは「ね」説を採って「おねさん」と呼んだりしていましたが…

どちらが正しいのかは、やっぱり分からないのです。

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