《外国人におすすめジブリTOP5》興行収入1位の『千尋』に勝ったのは収入イマイチな作品
海外で躍進を続ける日本アニメ映画。なかでもスタジオジブリへの評価は高く、今年5月には『君たちはどう生きるか』(2023年)が米アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞。7月には仏・カンヌ映画祭で、映画界の発展に貢献した人に贈られる「名誉パルムドール」をスタジオジブリが団体受賞した。
また9月には、動画配信サービス『Netflix』が、世界190か国以上で『火垂るの墓』の配信を開始。同月の「週間グローバルトップ10」の映画・非英語部門で第7位にランクインするなど、注目度が高まっている。
そこで今回編集部では、30代~60代の読者500人を対象に「外国人にすすめたいジブリ映画」のアンケートを実施。「ジブリ作品は名作ぞろいだけど、個人的にはあまりタイプじゃないのよね(笑)」と語る、ちょっぴり辛口の映画ライター、よしひろまさみちさんと結果を見てみよう。
80年代にもかかわらず完成度の高い作品
第5位に選ばれたのは『天空の城ラピュタ』(1986年)。空に浮かぶ伝説の島を目指す少年パズーと、空から降ってきた少女シータが、悪党らと戦いながら深い絆を築いていく、冒険物語だ。
「映像がきれいだし世界観も好き」(兵庫県・34歳・女性)
「悪をくじく、戒めの要素がある部分がいい」(東京都・45歳・女性)と、まさに外国人にも共感を得そうなファンタジー要素満載の作品だ。
「1980年代で、これだけ完成度の高い作品が実現できたのは単純にすごいこと。でも“少年が少女を救う”という、この当時は標準だったジェンダー表現が少し気になっちゃう。今の時代、世界の大人に積極的にすすめたい作品ではないと思うの」と、よしみちさん。
日本では、1990年ごろから大人もアニメを楽しむのが一般的になり、すでに文化として浸透している。ここが世界との違いだ。
「特に欧米ではいまだに、アニメは子どものもの、という意識が強く、ファンを公言する大人は一部の熱狂的支持者です。そんな環境のなか、一般の大人にもジブリ作品をおすすめするとなると、個人的にはランキング外だった『かぐや姫の物語』(2013年)や、『ハウルの動く城』(2004年)あたり。外国人に受けのいい作品だと思いますよ」(よしみちさん、以下同)
4位は『風の谷のナウシカ』(1984年)。宮崎駿監督作品ではあるが、正確にはスタジオジブリではなく、その前身にあたる「トップクラフト」の製作となる。
「地球の未来について、世界の人が考えるきっかけになる作品だと思う」(福島県・56歳・男性)と、今も不変のテーマである、環境問題を軸にした作品だ。
「当時、徳間書店から発売されていた原作本が素晴らしかった。子ども心に感動したのを今でも覚えています」
迫力あるアクションシーンや美しい作画が人気のファンタジーだが、物語の内容はそれまでの日本アニメと異なり、決して子ども向けではない。日本アニメが成熟するきっかけのひとつとなった作品といえるだろう。
「公開から40年たつのに、現実世界の環境問題は何も解決していません。世界共通の問題ですから、今こそ外国の方に見てほしい、というアンケートの意見には納得ですね」
3位は歴代ジブリで興行収入1位の作品
3位にランクインしたのは『千と千尋の神隠し』(2001年)。不思議な異世界に迷い込んだ少女が、八百万の神々やさまざまな人々と出会い、成長していく物語だ。
「日本を感じさせる風景、習慣などを外国の方に見てほしい」(神奈川県・52歳・女性)などの意見が多く寄せられたが……。
「うーん、この作品からは日本らしさはあまり感じられないかな(笑)。油屋は愛媛の道後温泉がモデルになっていますが、全体的にはアジア的な雰囲気が色濃いですよね」
なぜ千尋だけが現実世界に戻ってこられたのか、なぜ千尋は豚の集団に両親がいないと見破ることができたのか、解明されていない謎も多い。
「数々の謎について、宮崎監督はいつもはっきりとした答えを出しませんよね。映画に、必ずしも答えは必要ありません。でも、だったらせめて、見た人次第、と作り手のステートメントがあるとありがたい。そうしたら、それぞれの受け止め方でいいんだ、と観客も納得できるんですけどねぇ」
第2位は『火垂るの墓』(1988年)。太平洋戦争末期の兵庫県を舞台に、親を亡くした兄と妹が懸命に生き抜こうとする姿を描いた物語で、野坂昭如氏の同名小説を原作としている。
「戦争の恐ろしさ、それに巻き込まれた子どもたちの悲惨さを外国の人にも知ってほしい」(三重県・34歳・女性)という声が多く寄せられた。実際に、アメリカの著名な映画評論家、ロジャー・イーバート氏は「戦争映画の傑作リストに必ず加えられるべき作品」と評価もしている。
「高畑勲監督の作品は大好き。こんなふうに、戦争の悲惨さを誰が見てもわかりやすいように描いた映画はなかなかないですよね。子どもが死んでしまう悲しい物語で、高い興行収入が到底見込める作品ではないけれど、戦争体験者である高畑監督はご自分が作りたいものを純粋に形にしたのだと思います」
現に、公開当時の興行収入は約11億円。300億円以上を記録した“千と千尋”のおよそ30分の1だ。
「今ならもっと話題を集めたでしょうが、令和の時代に、こんなハイリスクのプロジェクトにゴーサインは出ないでしょうね。40年前のあの時代だからこそ実現した、名作のひとつだと思います」
謎のふわふわモコモコキャラに癒される
1位に輝いたのは、『火垂るの墓』と同時上映だった『となりのトトロ』(1988年)。
「日本の風景や暮らしが、外国人にもよく伝わる映画だと思う」(東京都・69歳・男性)
「ほのぼのとして夢があって可愛らしい」(神奈川県・60歳・女性)と、子どもから大人まで誰もが楽しめるストーリーで、不変の人気を誇っている。
「本当の日本の原風景は、“千と千尋”ではなく間違いなくこちらよね。今もこの懐かしい景色は、日本中のあちこちにありますから」
トトロそのものがすでにスタジオジブリのアイコン的存在になっているが、そもそもトトロは何者だったのか。映画の中でははっきりと示されておらず、それが物語の神秘性を高めている。
「森の妖精なのか、怪物なのか……。よくわからないけど、先ほど申し上げたとおり宮崎監督は疑問に答えないから(笑)。でも、ふわふわモコモコのキャラって世界共通でみんな大好きでしょ。だから謎のままでいいのかも」
10年ぶりの宮崎駿監督作品として昨年公開された『君たちはどう生きるか』は、実は国内の興行成績はさほどふるわず。『もののけ姫』(1997年)から続く、興行収入100億円超えの達成には至らなかった。ところが、中国、アメリカ、韓国などでは爆発的ヒットとなり、海外興行収入だけで2億ドル超えを達成。世界の注目度の高さが改めて証明された。
景気が落ち込み、「#日本終了」がトレンド入りするなど閉塞感が漂う中、世界での日本アニメ市場は2兆円に達したといわれる。かつて高度経済成長期の日本を支えた自動車産業、家電産業のように、日本アニメが経済を牽引する存在となる日は遠くなさそうだ。
取材・文/植木淳子
11/11 11:00
週刊女性PRIME