富野由悠季、高畑勲、出﨑統…『君たちはどう生きるか』作画監督・本田雄氏が選ぶ「日本アニメの金字塔」
アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞を受賞した『君たちはどう生きるか』で作画監督を務めた本田雄さん。「宮﨑駿監督作品・ジブリ作品は除く」という前提のもと、自身が太鼓判を押す日本のアニメ作品について語った。
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エネルギーをめぐる悲惨な戦争
好きな映画に共通しているのは、複雑な人間ドラマが描かれていること。それがあるかないかで映画の格が変わると思うんです。
たとえば『機動戦士ガンダム』劇場版3部作(1981〜82年)は、主人公のアムロ・レイをはじめ地球連邦軍の宇宙戦艦「ホワイトベース」に乗り込んだ少年少女が宇宙を旅する過程で最終的に“家族”になっていく。そこがひたすら泣けてくる。僕にとってガンダムは劇場版3部作以上のものはなく、シリーズの続編はもはや蛇足じゃないかとさえ思えてしまう。昨年のインタビューでも触れましたが(本誌2023年10月号)、劇場版ガンダムの安彦良和さんの絵は神業だと思います。
同じ富野喜幸(現・由悠季)監督の『伝説巨神イデオン 接触篇/発動篇』(1982年)では宇宙に進出した地球人と異星人バッフ・クランが、無限エネルギー「イデ」をめぐって戦争を始める。どちらも引くに引けずに泥沼の殺し合いが続き、最後は登場人物全員が次々と悲惨な死を遂げていく。小さなボタンの掛け違いから生まれる悲劇や人間の性(さが)がじっくり描かれていて、「アニメでここまでやるのか」という衝撃がありました。富野作品のなかでも『機動戦士ガンダム』劇場版3部作と『伝説巨神イデオン』の2作は神懸かっていると思います。
打って変わって、高畑勲監督『じゃりン子チエ』(1981年)では小学生の女の子・チエと彼女を取り巻く人たちの暮らしが淡々と進んでいきます。日常的な物語が映画として描かれ、観終えた時に大きな満足感が生まれる。他の作品ではなかなか味わえない体験でした。
映画を観た後に原作漫画を読んだのですが、高畑さんは漫画の設定をすべて生かし切ったうえで、膨らみのあるドラマを作り出していた。そこがすごいと思いました。やっぱり良い原作は極力変えるべきでないと思う今日この頃です。
宮﨑監督でもやらない大変なシーン
監督・出﨑統、作画監督・杉野昭夫のコンビの作品からはやはり漫画原作がある『ゴルゴ13』(1983年)を選びました。
『エースをねらえ!』『あしたのジョー2』『SPACE ADVENTURE コブラ』などにも同じことが言えますが、出﨑統の劇画調の演出力と杉野昭夫の圧倒的な画力(えぢから)、そのハーモニーがこの映画の魅力です。特に、石油王レオナルド・ドーソンが息子を奪われ、なりふり構わず復讐に燃える姿には、主人公のゴルゴよりもむしろドーソンに感情移入してしまいました。この迫力は出﨑・杉野コンビだから成せる業と言えるでしょう。
それからゴルゴが浜辺に停めていた車に乗り込んだ瞬間、マフィアに一斉射撃されるシーン。車のボディにたくさん穴が開いたり窓ガラスが割れたりして、最後に車が炎を上げて燃え出すという一連の仕掛けをすべて描いている。これは原画が膨大な量になったはずです。(本田氏が作画監督を務めた)『君たちはどう生きるか』も全編手描きにこだわり、僕は宮﨑駿監督のもとで膨大な量の絵を描きましたが、宮﨑監督でもやらないような大変なシーンを出﨑監督は平然とやらせているな、と思いました(笑)。
◆本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「アニメ映画 アニメーターである僕の原点」)。全文では、本田氏がはじめて映画館で観たアニメ映画、押井守監督の「あの作品」についての所感、80年代に「若き才能」によって作られた記念碑的作品などについても語られています。
◆「文藝春秋 電子版」では、本田雄氏が『君たちはどう生きるか』を中心に語った、下記の記事もお読みいただけます。
・「宮﨑駿監督との真剣勝負」……「これは冒険活劇です」「僕には時間が無い」巨匠の注文に応え続けた“アニメ職人”の6年
・「宮﨑駿監督と庵野秀明監督」……「電気で絵を描いたって誰も褒めてくれないぞ」凄腕の“アニメ職人”が明かした2人の巨匠の真実
・「アカデミー賞なんて夢みたい」……『君たちはどう生きるか』作画監督が明かす宮﨑駿監督の第一声
◆「文藝春秋 電子版」の特集「あなたに見てほしい映画」では、各界著名人10人がジャンル別でオススメ映画を紹介しています。
ミュージカル映画▼宮澤エマ
韓国映画▼國村隼
アウトロー映画▼伊藤彰彦
クセモノ俳優映画▼芝山幹郎
愛と恐怖の映画▼中野京子
アニメ映画▼本田雄
女優の映画▼石井妙子
戦争映画▼山下裕貴
スパイ映画▼北村滋
サイレント映画▼内藤篤
(本田 雄/文藝春秋 2024年12月号)
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文春オンライン