菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相

9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁という首相経験者2人のキングメーカー争いの様相を呈している。岸田文雄首相(自民総裁)と距離を置く「非主流派」の中核の菅氏は反岸田の姿勢を鮮明にし、非主流派の中から誰を推すのか見定めている。「主流派」の要の麻生氏は再選がかかる岸田首相らから支援を期待されている。

「非主流派」「脱派閥」の菅氏

菅、麻生両氏は、総裁候補と目される有力議員と相次ぎ会食している。菅氏は1日夜、石破茂元幹事長(無派閥)の誘いを受け、東京都内のホテルの中華料理店で食事をともにした。麻生氏と敵対している武田良太元総務相(二階派)も同席した。この場で総裁選対応が決まったわけではないが、石破氏について菅氏は6月23日の文芸春秋電子版のオンライン番組で「主張を変えないところがいい」と評価した。

菅氏は、所属派閥が解散を決めた加藤勝信元官房長官(茂木派)についても「仕事をきちんとできる人」、小泉進次郎元環境相(無派閥)に関しては「改革意欲」があると評した。

菅氏は、派閥パーティー収入不記載事件による政治不信は、責任を取っていない岸田首相に一因があると批判している。次期総裁候補として「非主流派(反岸田)」「脱派閥」の条件の下で石破、加藤、小泉の3氏が念頭にあるようだ。

主流派のキーマン・麻生氏

一方、麻生氏は岸田首相の後見人で、岸田政権の「主流派」の要だ。他派閥が解散に踏み切る中、麻生派は唯一「派閥存続」を決め、脱派閥の菅氏とはこの点で相いれない。

麻生氏は総裁選で誰を推すか態度を明らかにしていないが、まず岸田首相が選択肢になる。「防衛費(増額)も反撃能力も岸田がやった」と評価している。

ただ、麻生氏は先の通常国会で、改正政治資金規正法を巡る首相の対応に不満を抱き、すきま風も吹いている。麻生氏との関係修復を図りたい首相の意向で、6月18日と25日に異例の2週連続で会食に応じた。側近の一人は「完全に許してはいないと思うが、最後は『岸田だ』となるかもしれない」と語る。

内閣支持率が低迷している岸田首相が出馬を断念すれば、岸田政権下で3年近く副総裁-幹事長の関係で連携してきた茂木敏充幹事長(茂木派)を推す可能性が高まる。

周囲に出馬意欲を語っている河野太郎デジタル相(麻生派)に関しても、「麻生さんは『麻生派の候補』として河野氏の出馬を認める可能性もあるのでは」(党幹部)との見方も出ている。3年前の前回総裁選で、出馬した河野氏の後ろ盾だったのは菅氏。今回は、河野氏が麻生派に留まっている限り支援する考えはないとみられる。

固まりを持つ2人

麻生派以外の派閥が解散を決め、今回は「派閥なき総裁選」となるため、情勢は読みにくい。その中で「大きな固まりを作って動かせるのは菅さんと麻生さんだけ」(自民ベテラン)との指摘がある。

菅氏には、無派閥議員を中心に菅シンパの中堅・若手がいる。かつては数十人規模の「菅グループ」と呼ばれた。さらに、頭文字を取って「HKT」と呼ばれる萩生田光一前政調会長(安倍派)、加藤氏、武田氏の3氏が菅氏を支えている。萩生田氏は安倍派の一部、武田氏は二階派に対し、一定の規模で議員を動かす影響力がある。

一方の麻生氏も、自身の意向で麻生派(55人)の一定数を動かすことができる。党幹部の一人は、総裁選は菅、麻生両氏の主導権争いになるとの見方を示すと同時に、「国民に『自民党は国会が終わったら政局ばかり』とみられるのでは」と懸念した。(田中一世)

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