派閥なき前代未聞の総裁選、混迷の号砲 自民党内に戸惑い広がる 票読みも難しく

通常国会が23日に閉会し、9月の自民党総裁選に向けた動きが本格化する。これまで派閥の合従連衡で票読みがある程度可能だったが、派閥は政治資金パーティー収入不記載事件を受けて、ほぼ消滅。前代未聞の総裁選に戸惑いも広がる中で、派閥にとらわれない勉強会を開く有力候補もいれば、「旧派閥」メンバーの会合もあり、混迷の中での号砲となっている。

現総裁の岸田文雄首相は21日の記者会見で総裁選への対応を問われ、明言を避けた。しかし首相周辺は「防衛装備移転政策の転換など実績はある。安倍晋三内閣にも負けていない」と語り、「再選意欲あり」と見る。

会長を務めた岸田派(宏池会)は率先して解散を表明した。事務所も閉鎖し、メンバーの表立った集まりはない。とはいえ派関係者は「基盤は宏池会だ。結束は維持している」と強調する。

「ポスト岸田」候補も総裁選への検討に入った。茂木派(平成研究会)会長の茂木敏充幹事長は23日、「夏の間、よく考えたい」と述べ、対応を熟慮する考えを示した。視察先の北海道北斗市で記者団の質問に答えた。

派閥の存在理由の一つは、領袖が総裁を目指す上で勢力を確保するためだった。首相はその典型で、前回総裁選の決選投票で安倍氏率いる最大派閥・安倍派(清和政策研究会)の多くの支持を得た。麻生太郎副総裁が勝った20年の総裁選も派閥の動きが決め手だった。弱小勢力だった麻生派(現志公会)の麻生氏を安倍派の前身の町村派有力議員らが支援した。

だが、不記載事件の影響で6派閥のうち5派閥が解散を決め、状況は一変した。安倍派は萩生田光一前政調会長ら幹部が役職停止などの処分を受けて軸を失った。若手は「次はバラバラの対応にならざるを得ない」と語るものの、有志による小規模な会合が増えている。「鉄の結束」を誇った二階派(志帥会)では武田良太元総務相を中心に結束する動きがあるが、派重鎮は「自由にやるつもりだ」と漏らす。

唯一存続する麻生派(55人)の「数の力」がモノを言う展開も予想され、党関係者は「麻生会長の発言がインパクトを持つだろう」と述べる。

党幹部は「議員は『個』で動くので自由度が高くなる。票の取りまとめ作業は困難になるのではないか」との見方を示す。そんな中、高市早苗経済安全保障担当相と石破茂元幹事長は19日、同じ時間帯にそれぞれ勉強会を開催。いずれも10~20人程度の参加だったが、今後も派閥にとらわれず定期開催する予定だ。

党重鎮は「カオス(混沌)だが、党が再生する姿は見せられるのではないか」と前例のない総裁選への期待を口にする。ただ、国民の目に消滅したはずの派閥中心の総裁選だと映れば、党の再生がさらに険しくなる可能性もある。(内藤慎二、今仲信博)

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