最長のひと月超過勤務約378時間。5年未満退職率も10%を超え、学生にまで浸透した<ブラック霞が関>の認識…なぜそれでも変われないのか?

(写真提供:Photo AC)
2023年春の国家公務員採用総合職試験で、減少傾向にあった東大生の合格者がついに200人を割り、話題になりました(数字は人事院発表)。一方、元労働省キャリアで公務員制度改革に関わってきた行政学者・中野雅至さんは「90年代以降の行政改革の結果、官僚は政治を動かすスーパーエリートと、下請け仕事にあくせくするロボットに二極化。その結果が東大生の”官僚離れ”を招いた」と主張します。今回その中野さんの新刊『没落官僚-国家公務員志願者がゼロになる日』より一部を紹介。”嵐”の改革30年間を経た官僚の現状に迫ります。

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【図】採用後10年未満の国家公務員、在職年数別の退職者数を見てみると…

なぜ霞が関は変われないのか?

「ブラック霞が関」「人生の墓場」など、霞が関の中央官庁は悲惨な職場であると指摘されて久しい。

しかしなぜ、ここまで悲惨な状況に陥っているにもかかわらず、霞が関は変われないのか? 今回はその実態に迫ってみたい。

霞が関の本省勤務者の深夜にまでわたる長時間労働については、自虐的に紹介する記事や、人事院などの公的機関による調査結果まで、数多く検証されている。

また、近年は、官民問わず働き方改革が声高に叫ばれる中、長時間労働などの職場環境の悪さを年々、自虐的かつ自慢げに語る雰囲気は消え、「ブラック霞が関」(千正 2020)という言葉が世間に浸透している観さえある。

超過勤務がひと月で約378時間に

ワークライフバランスの重要性、過労死問題の捉え方が大きく転換したこともあるだろうが、実態がわかるにつれて常軌を逸していることが露呈した影響が最も大きい。

例えば、2021年のコロナ禍では、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室(コロナ室)の職員の超過勤務時間の最長がひと月で約378時間に達することが大きな話題となった。

かつても役所に365日寝泊まりしているという話はあちこちで聞かれたが、それはあくまで都市伝説。それに対して378時間は公表された数字だ。実際の残業はもっと多かった可能性さえある。

残業だけで月378時間にも達するのはどういう労働だろうか? 土日休まず7日間出勤して1日15時間働いたとして105時間、残りの273時間を20日で割り戻すと1日約14時間。睡眠時間さえ取れていない状態を想像してしまう。

長時間労働という言葉で割り切れるレベルではなくなっている。仮にこの職員の親がこの労働時間を知った時、「国を背負うエリートなのだから頑張れ」と子どもを励ますのだろうか……?

なぜ、ここまでの長時間労働が発生するのか?

最大の理由は、業務量に人員が追いついていないからだ。

理不尽な国会対応なども大きな理由だが、規制緩和で小さな政府路線を走ってきたにもかかわらず、何かと言えば役所に頼ることから業務量が拡大し続ける一方で、総定員法で人員数に縛りがあるのだ。

例えば、人事院が公表した「超過勤務の縮減に係る各府省アンケートの結果について」(2023年4月)によると、アンケート対象となった44府省等のうち、恒常的な人員不足が生じていた部署のある役所が42あり、そのうち30が「定員が不足していたため」と回答している(複数選択可)。

問題はブラック霞が関の余波だ。

人事院は22年5月25日、総合職の退職状況を初めて公表した。

採用後10年未満の若手が対象で、20年度の退職者数は109人となり、13年度の76人から43・4%の大幅増となっている。

国家公務員I種試験が終了し、総合職の採用が本格化した13年度から17 年度までは、10年未満での退職者が100人以下で推移していたが、18年度116人、19年度139人、20年度109人と3年連続で100人を超えた(図表6-1)。

また、図表6-2をみればわかるように、5年未満の退職率は10%を超えている。

図表6-2 国家公務員総合職の退職率

深刻さを示す指標

深刻さを示す指標は他にもある。公務員試験の受験者数だ。

1996年~2020年度にかけて、22歳人口は40,1%減少しているのに対して、この間の旧I種試験及び総合職試験の申込者数は、96年度の4万5254人から20年度の1万9926人と56,0%の減少となっている。また同期間の旧II種試験及び一般職試験(大卒程度試験)の申込者数は、96年度の7万8320人から20年度の2万8521人と63,6%の減少となっている(「公務員白書」令和(3)年度)。

もちろん、長時間労働がすべての原因だと主張するつもりはない。むしろ、将来性がないところに長時間労働が覆い被さる影響のほうが大きいかもしれない(7)。

その一方で、ブラックという言葉に敏感な学生には大きな影響を与えており、志願者の減少につながっているのは疑いない。

学生にまで認識された「ブラック霞が関」

例えば、人事院が行った「本年度就職活動を終えた学生を対象とする意識調査」(調査期間は2021年9月~12月)によると、職業として国家公務員を選ばなかった理由として、「採用試験の勉強や準備が大変」を挙げる者が最多(76,0%)で、「業務内容をこなすことが大変そう」「出身大学が処遇に影響しそう」「業務内容に魅力を感じなかった」と続くが、第5位は「国会に関係した業務が大変そう」、第6位は「超過勤務や深夜・早朝に及ぶ業務が多そう」となっている。

学生にまでブラック霞が関の認識が浸透していることがよくわかる。

最近、志願者が激減している東大生の場合、身近で霞が関の事情を聞かされることもあってか、警戒感はさらに強いものがある。

「朝日新聞」(2021年6月18日付)では、「東大新聞」で就活に関する記事を担当し、報道分野のベンチャー企業で働く東大修士課程の学生(休学中)の「激務なのに働き方改革が進まない。官僚になるには『戦地に向かう意気込み』が必要であるかのように見えている」という発言を紹介している。

※本稿は、『没落官僚-国家公務員志願者がゼロになる日』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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