《宗田理さんラストインタビュー》『ぼくらの七日間戦争』は「子ども向けに書いたものではなかった」根底にあった戦争体験と国家への不信感

95歳で亡くなった宗田先生

 原作小説が世に出てから40年近くを経ても、今なおアニメ映画や舞台作品などに翻案され続けている『ぼくらの七日間戦争』。実写映画は1988年に公開され、宮沢りえ(51)の女優デビュー作としても知られる。原作は宗田理さんの同名ベストセラー小説で、親や教師といった大人への反発と、自立へと歩き出す中学生の姿が生き生きと描かれている。これほど長く愛されている秘密はどこにあるのか。4月8日に95歳で亡くなった宗田さんに、その約10日前の3月29日、名古屋市内の事務所で話を聞いた。【全3回の第1回】

【写真】『ぼくらの七日間戦争』デビュー時の宮沢りえ(当時15歳)ほか、若かりし頃の宗田先生の写真など

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 宗田さんが文庫書き下ろし小説として、『ぼくらの七日間戦争』(角川文庫)を出版したのは1985年。小中学生の間で爆発的な人気を呼び、シリーズ化され、累計発行部数は 2000万部を突破している。

「もともと、子どもに向けて書いた小説ではありませんでした。主人公の“ぼくら”の仲間の親たちは全共闘世代で、学園闘争に参加した者もいました。彼らは大学生の頃に自由と解放を求めて闘ったはずなのに、社会に出て結婚し子どもをもち、世の中が落ち着いて経済的に発展したら、体制に順応するようになりました。学歴や偏差値にとらわれ、画一的な管理教育などに加担している。それを揶揄するような気持ちがありました。

 こんなことでは、子どもたちがおかしくなってしまう。国家をすべてに優先させる国家主義だった戦前と変わらない。新しい時代は作れない。そういう気持ちで書きました」

 宗田さんは、こう熱く語る。1928年(昭和3年)に生まれ、多感な時期に戦争を経験した宗田さんは、戦後、大人たちが手のひらを返して、戦前と180度違うことを言い始めたことに不信感を抱いたことが根底にある。

「主人公の英治たちは、いつも大人の言うことをすべては信用せず、自分の頭で考え、行動しています。権力を握った者だけが良い目をみて、正直者や弱者が食いものにされる。英治たちはそれを許して、ただ指をくわえて見ているだけではない。彼らの挑戦・行動力、そして友だちや隣人を思いやる気持ちは、シリーズすべてに共通していると思います」

『ぼくらの七日間戦争』に登場する子どもたちが、理不尽で身勝手な大人たちを、知恵を絞り身体を張って懲らしめる様はとくに痛快で、シリーズ共通の魅力だ。

「でも、暴力に訴えるようなやり方ではありません。いたずらで悪い大人をからかって、おもしろおかしくやっつける。これは僕のこだわりです。ときどきやり過ぎることもありますが(笑)」

女優デビュー作飾った宮沢りえとの思い出

 映画『ぼくらの七日間戦争』は3年後に映画化され、映画を楽しく見た、という小説ファンや、映画から小説に手を伸ばした小中高生も多かっただろう。

「『ぼくらの七日間戦争』を出版すると、すぐに複数の映画会社から『映像化したい』と声がかかりました。『そんなに評判がいいのなら、うち(角川映画)でやろう』と、角川書店の当時の社長、角川春樹氏が放った鶴の一声で、角川での映画化が決まった、と聞きました。

『どんな映画になるのだろうか』と思いましたが、できあがった作品を見たら、映像としての華やかさ、インパクトがあって、とてもおもしろいと思いました」

 戦車の登場をはじめ、映画は小説とは異なる部分も多い。中学生たちが廃工場にたてこもり大人と対決する、というメインストーリーは同じだが、映画ではイデオロギー的な部分は描かれていない。それでも、宗田さんは「大変満足しています」と語る。

「基本的に、自分の書いた小説が原作でも、自分の手を離れた映画や漫画は別物だと考えています。ですから、細かい注文をつけることは、ほとんどありません。

 主題歌『SEVEN DAYS WAR』を含めて、TM NETWORKが担当した音楽もすごく気に入りました。映像との相乗効果で、心を揺さぶられる名場面がいくつもありましたから。小説とはまた違う、映像と音楽の表現が魅力的な作品だと思います」

 宗田さんは東京・小平などの撮影現場に何度か見学に行き、若い俳優たちと言葉を交わした。映画の完成後は、キャンペーンのために北海道や九州など全国を一緒に回り、食事を共にしたことも楽しい思い出だという。

 本作で女優デビューした宮沢りえは、日本アカデミー賞新人賞を受賞。宗田さんも強く印象に残っている。

「菅原比呂志(現・浩志)監督 が『すごい女の子を見つけましたよ』と興奮していました。そうか、という程度に思っていたのですが、実際に会ってみると、本当に輝くばかりの魅力的な女の子でびっくりしました。彼女は当時14、15歳。ある日の撮影後に2人で話をしていたとき、『君はこれからどんなことをしたい?』と聞いたら、『この戦車に乗って、家まで帰りたい』と言ったのです。そのときの屈託のない笑顔は、今も覚えています。

 彼女はその後も、映画やドラマで活躍していますね。その姿を見て、艶のある素敵な大人の女性になったなあ、と思っていました。2019年にアニメ映画化された『ぼくらの7日間戦争』で、彼女は昔と同じ役で声の出演をしました。アフレコを見学に行ったときに何十年ぶりかで会って話をしたら、一瞬で昔に戻ったように感じました」

 宗田さんの新作の話などをしたという。もし、『ぼくらの七日間戦争』の現代版を書くとしたら、どんな作品になるだろうか。

「最近は社会の変化が激しく、これまでに大人たちが築き上げてきたやり方が通用しなくなってきています。そうした中で、力を失い、弱ってしまった大人を子どもが助ける話です。子どもは古い常識にとらわれていないから、新しい時代を作れます。主人公は女の子にしてもいいですね。ある日、クラスの女子生徒たちが学校に来なくなる。それぞれが自宅の自室で何かに没頭しているようだが、実は、彼女たちには、彼女たちだけの壮大な計画があった……」

 現代版『ぼくらの七日間戦争』をぜひ読んでみたかった。

第2回に続く

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