感染が相次ぐ麻疹(はしか)とは? 感染リスクが高い「ワクチン空白世代」は要注意

桜のシーズンに入り、海外からの観光客の姿も目立つようになりました。ところが、このところ海外では麻疹(ましん=はしか)の流行が相次ぎ、日本国内でも外国人訪問者や帰国者からの感染とみられる患者の発生が報告されています。

麻疹同様にウイルス性の感染症である風疹(ふうしん)も、ともに春から初夏にかけて流行のピークとされた時代もあり、政府や公的医療機関が十分な注意を呼びかけています。

麻疹、風疹とはどのような疾病なのか、感染予防対策はどうすればいいのかなどについて、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に解説して頂きました。

海外で大流行中、日本でも感染が広がっている麻疹とは?

まず、麻疹とはどのような特徴・症状をもった疾病なのでしょうか。

「麻疹は、空気、飛沫(ひまつ)、接触によりヒトからヒトへと感染するウイルス性の疾病で、感染力が新型コロナウイルス以上と極めて強く、手洗いやマスクの装着だけでは防ぐことができません。

麻疹ウイルスに感染すると、10日前後の潜伏期を経て38℃前後の発熱や倦怠感、上気道炎症状が2~4日続き、いったん解熱します。ところが再び39℃以上の高熱が出て、体中に赤いぶつぶつの発疹(ほっしん)が現れます。

発疹は3日ほどで収まり回復に向かいますが、ウイルス性脳炎や細菌性肺炎などの合併症を引き起こして死亡に至る例もあります。

麻疹は免疫をもっていない人が感染すると、ほぼ100%発症します。ただし、一度感染・発症すると免疫は一生持続するといわれています。2015年3月に日本はWHO(世界保健機関)から『麻疹の排除が達成された』との認定を受け、その状態を維持しています」(山口先生)

今年は海外で麻疹が流行していると聞きましたが、どんな現状なのでしょうか。

「厚生労働省が2月26日に『麻しんの国内外での増加に伴う注意喚起について(再周知)』という文書を、地方自治体の衛生主管部局に送付しています。

それによると、ヨーロッパ地域での症例報告数は、前年度の30倍以上に急増しているそうです。さらに訪日外国人や日本からの訪問客が多い東南アジアも、世界的に症例報告数が多い地域のひとつとされています。

今年に入り、2月に海外からの帰国者と接触した人を合わせて奈良県で2人、3月にはUAE(アラブ首長国連邦)から関西国際空港へ到着した飛行機の乗客8人に加えて、海外渡航歴がある東京都の男児1人が麻疹に感染したなどの感染報告が相次いでいます。

この春は新型コロナウイルス感染症の第5類移行後、初の花見シーズンで、円安傾向などもあって訪日観光客が増えていますので、より一層の注意が必要です」(山口先生)

風疹とはどんな病気?

一方の風疹はどんな疾病なのでしょうか。

「風疹もウイルス性の急性発疹性感染症で、飛沫によりヒトからヒトへと広がります。初めは軽い風邪に似た症状で、その後37~38℃の発熱と伴に耳の後ろ側から全身に赤いぶつぶつの発疹が現れます。

発疹の形や大きさはさまざまで、かゆみはほとんどありませんが、首や耳の下、わきの下のリンパ腺が腫(は)れることが特徴です。発熱と発疹、腫れが3日前後で治まることから、『三日はしか』とも呼ばれています。

風疹の患者は後で述べるワクチン接種の状況から、特に現在30~50代の男性が多いとされています。また、免疫が不十分な妊娠20週以前の妊婦が感染すると、『先天性風疹症候群』と呼ばれる症状をもった子どもが生まれる可能性があります。国立感染症研究所によると、2012~2013年の流行では、新生児45人の先天性風疹症候群の報告がありました。

近年は流行の季節性が薄れる傾向にありますが、麻疹・風疹ともに春先から初夏にかけての時季に患者が多く発生するとされていますので、特に妊娠中の方は注意が必要です」(山口先生)

妊娠初期の女性は新生児の先天性風疹症候群に注意を

先天性風疹症候群とはどんな疾病ですか。

「妊娠初期の女性が風疹にかかったとき、胎児が風疹ウイルスに感染してしまうことで生じる疾病です。

先天性風疹症候群には『三大症状』と呼ばれる難聴、心疾患、白内障があります。国立感染症研究所によると、三大症状以外にも網膜症、肝脾腫(かんひしゅ)、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐にわたる症状が発生するとされています。

先天性風疹症候群の妊娠月別の発生頻度の内訳は、1ヵ月が50%以上、2ヵ月が35%、3ヵ月が18%、4ヵ月が8%と、妊娠初期ほど高い傾向があります。

先天性風疹症候群をもった赤ちゃんがこれらすべての症状もつとは限りません。一つか二つの症状しか生じない場合もありますから、先天性風疹症候群だと確認されるまで時間がかかってしまったというケースも少なくないのです」(山口先生)

先天性風疹症候群や風疹、麻疹はどのように予防・治療すればいいのでしょうか。

「先天性風疹症候群そのものに対する治療法は存在しません。個別の症状に対処するかたちでの治療がなされます。

また、妊娠中に麻疹にかかると、流産や早産を起こす可能性があります。風疹も麻疹も予防で重要なのは、十分に高い抗体価を保有する。つまり、ワクチンで免疫を付ける必要があるということです。

妊娠前で風疹・麻疹にかかったことがなく、風疹・麻疹ワクチンを接種していない方は、積極的な予防接種を検討してください。

妊娠中は風疹・麻疹ともにワクチン接種を受けることができません。妊娠を望んでいる方は接種後2ヵ月程度の避妊も考慮してください。また、発生している地域では可能な限り外出を避ける、人ごみに近づかないなどの注意が必要です」(山口先生)

感染リスクが高い「ワクチン空白世代」とは?

麻疹・風疹の予防には、どのようなワクチンが有効なのでしょうか。

「日本では『麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)』を接種することで、95%程度の人が麻疹・風疹ウイルスに対する免疫を獲得することができるといわれています。1回の接種で免疫がつかなかった人の多くは、2回の接種で免疫をつけることができます。

MRワクチンは2006年度から、1歳児と小学校入学前1年間の小児に対する2回接種制度が導入されています。予防接種歴が不明な場合は、抗体検査を受けると免疫の有無がわかります」(山口先生)

麻疹・風疹の免疫をもたなかったり、不十分な可能性があるといった、感染リスクが高い世代が存在する理由は。

「麻疹については、2回の定期予防接種が義務化されたのが1990年4月2日以降です。そのため、1990年4月1日より前に生まれた人(おおむね34歳以上)は予防接種が1回未満の世代にあたり、麻疹の免疫をもたないか、十分でない可能性があります。

具体的には1972年9月30日以前生まれの人(同52歳以上)は1回も接種していない可能性が高い世代。1972年10月1日~1990年4月1日生まれの人は定期接種としては1回しか接種していない世代で、免疫を十分持っていない可能性があります。

これまでに感染歴がない方や、合計2回の接種を受けていない方は、2回になるよう接種することをおすすめします。

風疹については、1962年4月1日以前の生まれの人(同62歳以上)は、1回も接種していない可能性が高い世代。1962年4月2日から1971年4月1日生まれ(同62~46歳)の人は、女性のみ風疹ワクチンの集団接種が施行された世代にあたりますので、男性は未接種者がほとんどでした。

そこで厚労省は2019年度から2024年度まで、『風疹の追加的対策』として1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性を対象に、原則無料でMRワクチン接種を行う第5期定期接種を実施しています。対象者には在住する市区町村から、風疹の抗体検査と予防接が原則無料となる『クーポン券』が送付されます。

妊娠を望む女性や、抗体を保有していない妊婦の家族で過去に風疹・麻疹にかかったことのない人は積極的に抗体検査を受け、抗体価が低い場合には早めの接種を検討してください」(山口先生)

数年ぶりとなる花見やゴールデンウィークの旅行を楽しむためにも、いまのうちからMRワクチンの積極的な接種で麻疹、風疹の予防に務めましょう。

参考資料
厚生労働省「麻しんについて」、同「麻しんの国内外での増加に伴う注意喚起について(再周知)」、同「風しんの追加的対策について」、同「麻しん(はしか)に関するQ&A」、国立感染症研究所所「風疹とは」、同「風疹Q&A(2018年1月30日改訂)」、一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会「ワクチンと病気について」

ジャンルで探す