カスハラ対策、企業側に義務づけ 客らへの罰則想定せず 実効性カギ

厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関で、竹内紀臣撮影

厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関で、竹内紀臣撮影

 厚生労働省は、客や取引先らによる迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対策を企業に義務付ける方針だ。労使の代表者らが議論する厚労相の諮問機関・労働政策審議会(労政審)では企業に対策を求めることでおおむね一致している。ただ、カスハラした側への罰則は想定しておらず、実効性の確保がカギとなる。厚労省は年内に議論をまとめ、来年の通常国会に労働施策総合推進法など関連法案の提出を目指している。

 カスハラの定義について、厚労省の有識者検討会が8月に公表した報告書では、①顧客や取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う②社会通念上相当な範囲を超えた言動③労働者の就業環境が害される――の3要素で構成されるとした。②の具体例として、殴る・蹴るなどの身体的な攻撃▽土下座の強要やインターネット上での従業員の氏名公開などの精神的な攻撃▽大声でオペレーターを責めるなどの威圧的な行動▽頻繁なクレームなどの執拗(しつよう)な言動▽長時間の居座り・電話などの拘束的な言動――を挙げた。

 厚労省はカスハラした客への罰則は科さず、企業側に対策を求める方向だ。企業に求める具体的な対策は法整備後に定める指針で公表する。現時点では、事業主によるカスハラ対策の方針の明確化やその周知、相談窓口やカスハラが起こった時の対応体制の整備などが想定されている。

 論点となっているのが、雇用関係のない取引先などから従業員がカスハラ被害に遭った場合、取引先に調査協力などを義務づけるかだ。労働者側の委員は義務化を求めているが、使用者側の委員は努力義務にとどめるべきだと主張しており、議論はまとまっていない。

 カスハラ対策を巡っては、東京都が10月、全国初の防止条例を制定し、来年度から施行する。条例は「何人もカスタマーハラスメントを行ってはならない」と明記し、顧客や事業者、労働者、都に対し、それぞれの責務を定めた。ただ、正当なクレームは業務改善につながるものだとして、顧客らの権利を不当に侵害しないよう留意しなければならないとした。罰則はない。北海道議会でも今月、超党派で作る検討会がカスハラ防止条例案を提出。26日開会の道議会で可決、成立の見通しとなっている。【塩田彩】

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