テレビは時に本よりも執筆の参考になるというアドバイス

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面白い物語や優れた文章を執筆するためには、フィクション・ノンフィクション問わずたくさん本を読んで、学ぶことが重要です。一方で、作家で文化心理学者でもあるクリスティーン・マ=ケラムズ氏は、「テレビ番組が最高の文学教師になりうる」ということを指摘し、その理由について解説しています。
Why Television Can Be Our Best Writing Teacher ‹ Literary Hub
https://lithub.com/why-television-can-be-our-best-writing-teacher/

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ケラムズ氏は、優れたテレビ番組の一例としてテレビドラマシリーズの「ブレイキング・バッド」を挙げました。「ブレイキング・バッド」は高校の化学教師として真面目に生きてきた優秀な科学者が、家族を養うために麻薬の製造・販売に手を出し、巨万の富を築き上げるが大事なものを見失ってしまうというようなストーリー。「ブレイキング・バッド」の特徴として、優れたプロットに加えて、物語の重要な結末を示さずに各章を終わらせるクリフハンガーという技法を巧みに使っている点があります。非常に曖昧もしくは破滅的な出来事でエピソードが終了するため、視聴者はどうしても続きを見たくなります。
ドラマシリーズのクリフハンガー戦略は、1冊の小説でも生かすことができます。読者が本を置いて読むのをやめてしまう可能性が高いとき、例えば章の終わりに、結末がまったく見えない未解決の出来事を提示することで、プロットの複雑さを予感させます。テレビドラマは1話と2話、シーズン1とシーズン2を一気に続けて見ることができず時間が空くことも多いため、視聴者の興味を捉え続ける工夫に満ちているとケラムズ氏は指摘しました。

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また、物語には動的なアクションシーン、静的な会話シーン、全体の物語の組み合わせが重要であることを、ケラムズ氏は「一流シェフのファミリーレストラン」というコメディドラマを例に挙げて説明しています。このドラマでは、表向きは会話に焦点が当たっているシーンでも、その後ろでは大量の注文書が音を立てて届いていたり、食べ物が燃え上がったりするなど、せわしなく画面が動いています。同じテクニックは文章を書くときにも重要で、日常的なアクションをする時でも物語全体から考えた意味や短い対話にリアルな緊張感があることを意識するほか、会話するだけのシーンでも話者が突っ立って話しているのではなく「騒がしく変化する環境の中で動作を交えながら話している」という前提を考えられると、読者を飽きさせません。
ケラムズ氏の小説「The Band」でも、画面の変化と会話を組み合わせことを意識しているシーンがあります。「The Band」は、人気の男性K-POPアイドルがわずかなキッカケでファンからもバッシングに遭うようになり、セラピストの女性に救われた結果、2人だけではなく音楽業界にも大きな変化がもたらされるストーリーです。2人がセラピストの家で長い会話をしているシーンでも、セラピストの夫がその場に入ってくるだけで、会話の内容は一定の緊張感を生みます。テレビドラマで「焦点の当たっているキャラクターは一定だが、途中で画面上に他のキャラクターや背景を映す」と画面の変化があるようなケースを、執筆の際にも意識できると、会話シーンの質が高まるとケラムズ氏は述べています。


古くから、「本は常に優れた高尚なもので、テレビは低俗な娯楽」というような認識が、特に本好きの間では浸透しているとケラムズ氏は指摘しています。しかし、ケラムズ氏は「優れたテレビには、文学的傑作と同じくらい芸術的な価値があると私は主張します。結局のところ、芸術は芸術です」と語りました。そして、別のメディアで優れた作品は、小説の執筆にも間違いなく生かすことができるため、「テレビ番組は私たちにとって最高の文章の先生になりうるものです」とケラムズ氏は結論付けています。

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