【宇推くりあ×佐々木亮 特別対談】 JAXAのSLIMが世界初のピンポイント月面着陸成功! 宇宙はこれからもっと近くなる!? 未来の探査の可能性を語る

【宇推くりあ×佐々木亮 特別対談】 JAXAのSLIMが世界初のピンポイント月面着陸成功! 宇宙はこれからもっと近くなる!? 未来の探査の可能性を語る

2024年1月20日、「小型月着陸実証機 SLIM」が日本初の月面着陸を達成。しかも、ただの着陸ではなく世界初のピンポイント着陸という快挙です! これまで行くことができなかった月面の場所にダイレクトに到達できるようになれば、探査の可能性が飛躍的に広がるはず。
今回はよみタイで「酒のつまみは、宇宙のはなし」を連載中の佐々木亮さんと、ロケットアイドルVTuberで内閣府宇宙開発利用大賞PRキャラクター、YouTube チャンネルも人気の宇推くりあさんの対談を実施。
専門的な視点から宇宙に関する情報を配信する二人が、今回のSLIMプロジェクトの意義を語ります。

取材・文/よみタイ編集部

世界初となる「ピンポイント着陸成功」の意義

佐々木 ついにSLIMが月面着陸に成功しましたね! よみタイの連載でもこのプロジェクトについて紹介しましたし、自分のポッドキャストでも配信して応援していたので、本当によかったです。僕自身ドイツのテレビ局からもSLIMについての取材を受けたりしたので、やっぱり世界的にも注目度が高いプロジェクトだったと思います。

宇推 ほんとによかった~!!  SLIMだけじゃなくて、これまでの「ひてん」や「かぐや」といった、過去のミッションの成果が今回の着陸実証につながっているんですよね。そのことがJAXAの着陸LIVE配信の導入にもしっかり紹介されていて、目頭が熱くなった宇宙ファンの方もいるんじゃないかなって思います。

佐々木 以前、SLIMに関してJAXAの方たちと一緒に動画配信もしてましたけど、チームの雰囲気で何か印象に残っていることはありますか?
 
宇推 月の特定の場所に着陸させるのは、やっぱりかなり難しいみたいなんですよね。だけどそれに対して深刻になっているというよりも「自分たちの考えたアプローチ方法が果たしてどんな結果をもたらすのかな? ワクワク!」みたいな、そんな印象を受けました。

佐々木 LIVE配信も一時約30万人の視聴者がいて、かなり注目を集めてましたよね。今回は、その配信直後の20日に発表された「着陸成功」の意味と「ソフトランディング」ということからまず触れておきたいです。

宇推 2007年に打ち上げられた「かぐや」は高画質の映像の撮影など、軌道上からの観測が目的だったので、探査が終わった後は意図的にハードランディングで「落とされた」わけですよね。SLIMの前には民間企業のispaceが「HAKUTO-R」というプロジェクトで月面着陸を目指したけど、この時は月面に落ちてその後通信できなくなっちゃったから、着陸成功ではない。

佐々木 プロジェクトの設計と狙い通りに機能したか、それが検証できるように通信が生きてるかなどがポイントになりますね。その点でまず第一段階として「着陸成功」と発表された。そして25日には「ピンポイント着陸」の成功がデータ解析から実証されました。これまでとは段違いの精度で着陸できたことは本当に革新的なことですよね。「降りやすいところに降りる」のではなく「降りたいところに降りる」着陸の成功は、世界に存在感を示すことになるはず。

宇推 今までの着陸ではkm単位でずれることは珍しくなかったんですけど、SLIMが目指していたのは精度100m以内のピンポイント着陸。これって例えば東京駅を目指したときに、うっかり川崎に着いちゃうのか、駅周辺に着けるのかくらいの差があることで。

佐々木 ピンポイント着陸は、当初データ解析して成否がわかるまで1ヶ月くらいかかるとされてましたけど、わずか5日で成功が発表に。その早さにも驚きました!

宇推 1月25日の記者会見で成功が発表されたときは、本当に語彙力失うくらい感動しちゃって……。同時に公開された、SLIMに搭載されたSORA-Q(変形型月面ロボットLEV-2)が捉えた画像もとにかくすごかった!! あまりの美しさにCGじゃなくてリアルなんだ、これ……って! 月面探査機本体を捉えた本当に貴重な写真だと思います。タカラトミーから月に行ったSORA-Qの実物大のラジコンが販売されてるから、みんな買ったほうがいいよ!!(笑) 変形も操縦も楽しめるし!!

佐々木 SORA-Qを共同開発したタカラトミーにも注目が集まりそうですよね(笑)。超小型月面探査ローバ「LEV-1」も搭載されていましたが、このLEV-1、SORA-Q(LEV-2)がしっかり動作したことも重要だと思いました。SLIMはピンポイント着陸を果たしただけでなく、搭載していたLEV1、LEV2がちゃんと作動したことで、運搬機としての役割を果たした点にも注目したいです。 今は着陸成功自体に注目が集まってますが、いずれは機器を搭載して、月面に運ぶためのただの手段になるわけですよね。着陸後の記者会見では、これから月に探査機が続々と送り込まれることや、火星探査というワードもでてきて、ワクワクしました! 

宇推 私も「すごいこと言ってる!」って記者会見を見ていてつい叫んじゃいました(笑)

佐々木 2023年、SpaceXは98回もロケットを打ち上げているし、中国もロケット打ち上げ回数はかなり多い。今、宇宙開発が激動していて、各国がしのぎを削っている現状がありますよね。そもそもこういった探査機や衛星を打ち上げるのに必要不可欠なロケット技術はどの国がリードしていると捉えていますか?

宇推 アメリカ、というかSpaceXがダントツじゃないかな。

佐々木 やっぱり! 打ち上げ回数や成功率からしてもそうですよね。

宇推 それもあるけど、再使用ロケットを実践している点においてもですね。他の国も再使用を目指しているものの、描いているプランがSpaceXの後追いみたいなものだったりするので。そういう意味でもSpaceXが一強!って感じです。

SpaceXのファルコン9ロケットの打ち上げの様子

SpaceXのファルコン9ロケットの打ち上げの様子

佐々木 実は、再使用はコスト面のメリットを得るには時間がかかると言われていますよね。SpaceXも打ち上げコストが抑えられることを売りにしていたけど、どちらかというと頻度を上げるためのメリットの方が大きいんじゃないかと。

宇推 再使用をすること自体にまずコストがかかりますしね。もっというと再使用する場合、1回使って問題がなくても2回目がうまくいくという保証はない。そこをクリアする整備や試験をするのも結構大変。新品を使う場合は1回目の打ち上げ条件にあわせて最初から整備ができるけど、再使用の場合は1回目の打ち上げの影響や、2回目の打ち上げ条件でも整備する内容が変わってくるだろうし……。SpaceXはそういった課題を乗り越えて、今ロケットを打ち上げまくっている、というのがやっぱりすごいですね。

佐々木 月、そして火星探査を視野に研究開発が進んでいて、さらにもっと先の「深宇宙探査」もあるわけですが、深宇宙探査でロケットの役割はどう変わっていくと思いますか? 例えば月面での輸送手段だったり、惑星間の移動手段になる可能性は?

宇推 重力が少ない天体だと、着陸はしやすいはずだし、地球よりはロケットも飛びあがりやすそうですよね。例えば人間が住めそうな天体があったとして、その周りにゲートウェイ(※1)みたいな中継拠点があった場合、拠点や惑星間をつなぐ輸送・移動手段はロケットでしかできないんじゃないかな。とはいえその前に、中継拠点を作るために地球から大量の物資や人を運ばなければならないことが一番大変だし、火星探査の最初のハードルは到達するのに半年くらいかかる、という距離的なものだったりしますけど。

佐々木 ロケットには、いろんな未来の応用が考えられますね。そのためには進化していかないといけないと思うんですが、具体的にはどういうテクノロジーの進化が必要になりますか?

宇推 大型化や地球から打ち上げる頻度といった面ですね。そこを一番打破しそうなのはやっぱりSpaceX。「スターシップ」という大型ロケットの試験を今繰り返していて、搭載できる重量も桁違いなんですよね。多分SpaceXが月からさらに火星へ本格的に向かい始めたら、ロケット技術の進化もぐぐぐ、と一層進んで行く予感はします。あと、中国のロケットもかなり大きいものがあるらしいですよ。頻度の面では、射場の数を増やしたり、ロケット製造ラインの強化も必要になってくると思います。SpaceXはロケットの再使用をすることで、少ない製造機数でも多く打ち上げができているから、この点もかなり大きいのかな。

佐々木 他には例えばエンジンの違いとかも進化につながるんですか?

宇推 エンジンそのものというよりもまず燃料が大きいですね。これまでは固体燃料が使われたこともあったし、液体水素と液体酸素を組み合わせた推進剤だったり、ケロシンという灯油の一種が使われたり……と色々な変遷がありました。今はメタンが注目されてますね。

※1 月周回有人拠点(Gateway)。米国の提案のもと、主にISSに参加する宇宙機関から構成された作業チームで開発が進められている、月面及び火星に向けた中継基地。国際宇宙ステーションの約6~7分の1程度の大きさになるとされ、2024年ごろから組立てフェーズに入ることが計画。将来的には4名の宇宙飛行士による年間30日程度の滞在が想定されている。

佐々木 家畜の糞尿からも作られるっていうあのメタンですね。何が違うんですか? 

宇推 例えばSpaceXが開発した再使用ロケット、ファルコン9はケロシンを燃料に使っているんですけど、灯油系は燃やすと“すす”がでるんですよね。実際、打ち上げ後のファルコン9はすすだらけになってるんですけど、一方でメタンはすすが出ないんです。さらにもう一点、メタン燃料は火星で生産でき、火星探査の際も現地調達の可能性があるから開発を進めていると言われてます。

佐々木 へえ、そうなのか! 面白いな。

宇推 燃料としての扱いやすさや入手のしやすさもありますね。ロケットの推力や燃費としては、他と比べて特段優れているということではないんですが、こういういろんな理由で新しい選択肢としてあがってきてる。二酸化炭素の排出量が少ないので環境面でもアピールしやすくて、時代にあっているのかも。

佐々木 そんな中で、日本のロケット開発の立ち位置ってどうなんでしょうか?

宇推 ロシアは最近打ち上げの回数が減っているから、アメリカ、中国、インド、日本……。という感じかな。EUも、ESA(欧州宇宙機構)とJAXAの共同ミッションがあったりするので注目しておきたいですけど、国単位ではないので別枠と考えると個人的には日本は4番手くらいかな、と思います。 あと韓国も最近頑張って打ち上げようとしている印象ですね。
 
佐々木 開発だけじゃなく月面着陸とロケット打ち上げの実績もロシア、アメリカ、中国、インド、日本の5か国がリードしてますよね。僕が携わってきたX線天文学分野でも同じなので、やはり、という印象です。

宇推 ただ、日本は今回のSLIMのピンポイント着陸もそうですけど、結構ユニークで面白いことに挑戦しているんじゃないかなと思います。着陸方法自体も、これまでは脚を広げて着陸する方法が主に採用されていたけど、SLIMは姿勢制御しつつ斜めにコロン、と倒れながら着陸するという方法でした。安定性があるという点でも独自性を感じますね。

佐々木 着陸時の衝撃を吸収する緩衝材が3Dプリンターで作られた点も面白いな、と。

宇推 SLIMのプロジェクトをまた受け継いで、この先探査機に色々な機能を持たせて月探査をすることも見越されていますし、HAKUTO-Rも頑張ってる! 今回は特に着陸のLIVE配信や、JAXAから着陸に関する細かいデータも提供されていて、情報の配信方法にも素晴らしい取り組みがあったと思います!

佐々木 太陽光発電やエンジンのトラブルがあったものの、SLIMからのデータはJAXAに集まっているみたいなので、今後も色々な情報が出てくるはず。注目したいですね!

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