明治~昭和のサブカルチャーの流れがわかる教科書、橋本氏の天才に圧倒されっ放し

完本 チャンバラ時代劇講座 1

『完本 チャンバラ時代劇講座 1』(河出書房新社)著者:橋本 治

橋本治氏の才能が縦横無尽に暴れ回る『完本チャンバラ時代劇講座』が文庫2冊で復刊だ。めでたい。初版は一九八六年刊。あとがきによると元は「チャンバラ時代劇講座」、原稿用紙百枚程の原稿が、千四百枚に膨らんだのだという。だから「完本」。

中身は時代劇論で映画論で大衆文化論で近代化論で江戸文学論でテレビ論で…もう大変。東映チャンバラ映画→残酷時代劇→ヤクザ映画→実録ヤクザ映画とか、歌舞伎→新派→新国劇→女剣劇→ストリップとか、講談→講談速記本→新講談→大衆小説→中間小説とか、明治~昭和のサブカルチャーの流れがわかる教科書だ。

作品論では忠臣蔵論や黒澤明の『用心棒』や内田吐夢『宮本武蔵・一乗寺の決闘』や…、そうかと膝を打つ考察が山盛りだ。特に中里介山『大菩薩峠』の机龍之助論(冒頭で老巡礼を斬殺する理由がなぜ説明されない)は出色だ。筆は勢い余って男性女性の本質論を挿画入りで三○頁にわたって展開。

男が女を殺すのは、自分とは異質な論理の存在をそこ=女の中に見つけてしまうからです。

ここを読むだけで元が取れる。橋本氏の天才に圧倒されっ放し。ありがとう、脱帽です!

【書き手】
橋爪 大三郎
社会学者。1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。

【初出メディア】
毎日新聞 2023年5月27日

【書誌情報】

完本 チャンバラ時代劇講座 1

著者:橋本 治
出版社:河出書房新社
装丁:文庫(400ページ)
発売日:2023-01-06
ISBN-10:4309419402
ISBN-13:978-4309419404

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