美術を鏡に、永遠のなかに生きようとする人間の切なさを見つめる

死ぬまでに知っておきたい日本美術

『死ぬまでに知っておきたい日本美術』(集英社)著者:山口 桂

一冊あればこれは便利! 鑑賞のポイントや、著者が選ぶ一○人のアーティスト、「死ぬまでに見ておきたい日本美術一○○選」まで載っていて、至れり尽くせりである。

本書の特長は、山口桂氏が海外のオークションで美術品を売買するプロであること。日本美術を外から見ている。世界に通用する価値ありと信じている。狭い日本で骨董をいじくる日本美術史とわけが違う。

印象派やピカソに詳しくても、日本美術を知らないあなたは恥を知りなさい。どんな作品も、出来たときはピカピカの現代美術。作家の創作をその時点の新鮮な驚きで受け止めよう。縄文のビーナスも運慶の造形も広重の「大はしあたけの夕立」も、ありえぬ真実をあらしめる荘厳なわざだ。こういう感動には日本も世界もないのだと気づかされる。

作家はなぜ超絶技巧をこらし、ここまで精魂こめて作品を作るのか。その作品が時空を超え、すべての人びとに届くと信じるから。本書は日本美術の本だが、「立派な作品ですね、日本の誇りですね」の安直なナショナリズムのはるか上を行く。美術を鏡に、永遠のなかに生きようとする人間の切なさを見つめる。

【書き手】
橋爪 大三郎
社会学者。1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。

【初出メディア】
毎日新聞 2023年2月4日

【書誌情報】

死ぬまでに知っておきたい日本美術

著者:山口 桂
出版社:集英社
装丁:新書(256ページ)
発売日:2022-11-17
ISBN-10:4087212424
ISBN-13:978-4087212426

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