ホセ・アルトゥーベ〜小さな巨人、彼ならイチローを超えてもいい〜 MLB「この人を見よ」(2)

11/05 15:10 au Webポータル

 私にはコンプレックスがある。身長だ。私は身長が高くない。でも低くはない。いや違う。「下の上」と言った方が正確かもしれない、いや「中の下」の方が…。結局、私は自分の身長が低いということを認められない。コンプレックスとは、そういうものだ。残念なことに。

ワールドシリーズ制覇、アストロズの使命

 さて、今年のワールドシリーズはアストロズが制覇した。これはアストロズ史上初めてのことだ。日本人からすると、マエケンやダルビッシュがいるドジャースに勝ってほしかったという人が多いかもしれないが(私だって、そう思っていた)、終わってみるとアストロズが優勝してよかったと思っている。その証拠に、私はアストロズが勝った瞬間に涙を流した。本当に感動したのだ。まあ、ドジャースが優勝したとしても結局私は泣いていたのだろうけど。
 今年の夏、アストロズがあるヒューストンをハリケーンが襲った。500年に一度とも言われた大型ハリケーン「ハービー」だ。洪水がヒューストンの街を襲い、人々の家は流され、道路が冠水した。報道によると被害額はアメリカ史上最悪とも言われている。アストロズもまたハリケーンの影響を受けた。ホームゲームをヒューストンではなく、フロリダ州のタンパで行うことを余儀なくされたのだ。ハリケーンが街を襲って以来、アストロズの選手は「ストロング」というパッチを左胸に付けながら戦った。そう、アストロズには使命があった。彼らの存在が、勝利がヒューストンの人々に勇気を与えたのだ。

小さな巨人、彼ならイチローを超えてもいい

リーグ優勝決定シリーズ  二塁手アルトゥーベ(27)と言葉を交わすヤンキースのジャッジ=ニューヨーク 写真:共同通信

 ところで私は最近、こんな言葉を目にした。「まさかイチロー以上の打者が現れるなんて」
 それはアストロズのセカンド、ホセ・アルトゥーベに向けられた賛辞だった。
 「イチローを超える?バカ言ってんじゃないよ」
 これが私の最初の感想だった。
 小さな巨人。アルトゥーベは、よくこんな言葉で表される。確かに彼は背が高くない。身長はMLBの公式によると167.6cm。メジャーリーグはおろか、日本のプロ野球でさえ彼より小さな選手はめったにいない。でも、彼はメジャーを代表する選手だ。27歳にして、首位打者を3回、盗塁王を2回、2015年にはゴールドグラブ賞も受賞した。オールスターだって、既に5回も出場している。そして彼は2014年から4年連続でシーズン200安打を達成している。アルトゥーベがイチローを超える存在と言われる所以は、ここにある。
 周りの人間は、常にアルトゥーベの身長のことを話題にする。あるいは汚い言葉を投げかける人間もいるという。「一体、何歳だよ」だとか、「野球をするには小さすぎる」だとか、そんな恥ずべき言葉だ。でも彼は、そういう言葉を逆に力に変えるだけのハートの強さを持っている。「そんなの気にしないよ。僕はただメジャーリーグでもプレーできることを、みんなに見せるだけさ」
 メジャーリーグで最初のヒットを打った日、彼はそう言っていた。まったく、そんなこと言われると私がより小さく思えるではないか。

ワールドシリーズ第5戦  勝ち越し二塁打を放つアストロズのアルトゥーベ=ヒューストン(共同) 写真:共同通信

 ああ、私はアルトゥーベがイチローを超える存在であると聞いたときの感想を訂正したい。彼ならイチローを超えてもいい。日本人としては寂しい気もするが、私はそう思い始めている。本当に彼は魅力的な選手なのだ。野球に対する情熱だけじゃない。彼はクラブハウスでバックストリート・ボーイズを熱唱するくらい明るくて、俳優のマット・デイモンから褒められたことを知ると、目を見開いて喜ぶくらい純粋なのだ。「いまマット・デイモンって言った?ワオ」
 まあ、アルトゥーベのシーズン200安打はまだ4年連続だ。イチローは10年連続。もう少し記録に近づいてきたら、私の気持ちも変わるかもしれないけど。(棗 和貴)

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