「誰が悪かったかをハッキリさせねばならない」なぜ森保ジャパンは枠内シュート「0」の豪州にホームで勝てなかったのか?

 2026年の北中米W杯出場をかけたアジア最終予選の第4節が15日に行われ、グループCの日本代表は埼玉スタジアムで豪州代表と1-1で引き分け、開幕からの連勝が「3」で止まった。後半13分にDF谷口彰悟(33、シントトロイデン)のオウンゴールで、最終予選初失点となる先制点を許した日本だったが、同31分にMF中村敬斗(24、スタッド・ランス)のクロスが誘発したオウンゴールで追いついた。首位こそキープしているものの、枠内シュート数が「0」だった豪州からなぜ勝利を奪えなかったのか。

 互いにオウンゴールで追いつくも

 公式記録中のスタッツでは、日本が豪州を圧倒していた。
 ボール支配率は62.5%と、豪州の37.5%をはるかに上回った。シュート数は日本の10本に対して豪州はわずか1本。前半7分にFWミッチェル・デューク(33、FC町田ゼルビア)が放ったヘディングシュートはゴールの枠を大きく外れた。
 日本の守護神・鈴木彩艶(22、パルマ)を、豪州の選手によるシュートで慌てさせた場面は皆無だった。唯一のほころびが生じたのは後半13分。右サイドからのクロスをゴール正面でクリアしようとした谷口がまさかのキックミス。右足のアウトサイドに当たってコースを変えたボールは、自軍のゴール左隅へと吸い込まれた。
 左足でクリアすべき場面だったと、谷口は自らのオウンゴールを悔やんだ。
「決して難しいボールではなかったですし、自分のシンプルなミスからゲームを崩してしまって、チームに申し訳ない気持ちでいっぱいです」
 もっとも、攻勢をさらに強めながらも、日本の選手たちも自問自答を繰り返していた。右ウイングバックの堂安律(26、フライブルク)が試合後に残した言葉に、前半から日本の攻撃が機能不全に陥っていた跡が凝縮されていた。
「誰か枠内シュートを打ったかな、といった雰囲気がずっとありました」
 実際には前半で3度、豪州ゴールの枠内に飛ばしている。しかし、15分に堂安が、23分にはFW上田綺世(26、フェイエノールト)が放ったシュートはいずれもミートできずに相手キーパーがキャッチ。34分にMF三笘薫(27、ブライトン)が放った一撃は、相手DFの頭をかすめてコーナーキックに変わっていた。
 豪州を脅かすにはいたらなかったからこそ、日本も枠内シュートを放っていない、という感覚を抱いていた。堂安が自戒の念を込めながら続ける。
「見てもらったらわかるように、僕たちがやりたいサッカー、やりたい崩し方をさせてもらえなかった。有効な縦パスが入らなくて(上田)綺世が孤立していたようなところもあったし、僕とタケ(久保建英)がポジションを入れ替えながらプレーするのも分析されていたというか、相手に戦術的に守られた感じです」
 右のシャドーで先発し、堂安とのコンビネーションを含めて、敵陣で存在感を放った久保建英(23、レアル・ソシエダ)も同じニュアンスの言葉で続いた。
「クロスをあげさせられているという感覚があった。ひたすら中を固められ、縦へどうぞとされたのも、守り切れるという彼らの自信の表れだったと思う」

 

 

 豪州は引き分けでOKの戦い方で日本に臨んできた。
 初戦でバーレーンに敗れ、第2節でインドネシアと引き分けた直後にグラハム・アーノルド監督(61)を解任。現役時代にJリーグのサンフレッチェ広島で、森保一監督(56)とともにプレーした経験をもつトニー・ポポヴィッチ監督(51)は、システムを日本と同じ[3-4-2-1]に変えて第3節の中国戦で初勝利をあげた。
 しかし、同じ3バックでも、左右のウイングバックにアタッカーを配置する日本に対して、豪州はディフェンダー登録の選手を起用。高さと強さを兼ね備えた実質的な5バックで自軍のゴール前のスペースを消し、クロスならば絶対にはね返せる、という自信のもとで、日本の攻撃を意図的に外へ、縦へと誘った。
 術中にはまった日本は、ビルドアップでも違和感を抱き続けた。
 コンディション不良で14日の公式練習を欠席した、キャプテンのMF遠藤航(31、リバプールは豪州戦に間に合わなかった。代わりにアジア最終予選4試合目にして初先発した、ボランチの田中碧(26、リーズ・ユナイテッド)が言う。
「いまの3バックのシステムに慣れているわけではないので、守田(英正)くんにいろいろと聞きながらプレーしていた。ただ、前半は多少、重かった部分があるというか、自分がもう少し前へ入っていってもよかったと感じている」
 日本ボールになると、豪州は1トップと2人のシャドーの計3人が最終ラインにプレッシャーをかけてくる。ここでボランチの守田英正(29、スポルティング)が意図的に最終ラインに降りて、数的優位を保ちながらビルドアップしていく。
 過去3戦全敗だった敵地でサウジアラビアに2-0で快勝した5日の第3節でも、守田はマイボールになると一列下がって最終ラインからのビルドアップを助けている。豪州戦の前半でも守田が同じ動きをしたが、中央に陣取る田中が遠藤のようなプレーを演じられたのかといえば、疑問符をつけざるをえなかった。
 結果として全体的に重心が下がり気味になった前半の反省から、守田は下がる位置を谷口と右センターバック板倉滉(27、ボルシアMG)の間から、谷口と左センターバック町田浩樹(27、ユニオン・サンジロワーズ)の間へスイッチ。さらに前方に田中をスライドさせて、左サイドでのビルドアップを活性化させた。
 試行錯誤が繰り返された跡は、イコール、遠藤と守田が不動のダブルボランチを長く形成し、あうんの呼吸ができあがっている反動といっていい。遠藤に代わってキャプテンを務め、豪州戦のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出された守田が言う。

 

 

「とらえ方によってはオウンゴールが事故に映るけど、あの形を作られていた時間帯そのものが問題だし、誰が悪かったのかを含めて、いい意味ではっきりさせないといけない。もちろん(谷口)彰悟さんの部分だけではなく、セカンドボールを前向きに拾われたところからクロスをあげられている。攻撃でバランスが取れていないと、ボールを失った後にバランスが悪いなかでの守備を強いられる。相手がオーストラリアだったから1失点で済んだけど、より強い相手だったらもっと失点していてもおかしくなかった。攻守一体が求められるなかで、僕は攻撃時の選手配置をもっと見返す必要があったと反省している。その意味で、試合全体を通して思っていたようなサッカーができなかった」
 まるで敗者の弁に聞こえる守田のコメントだが、試合そのものは1-1で引き分けた。途中出場した中村が後半31分に、縦への仕掛けからさらに中央へえぐって、目が合っていたという上田へ低く速いクロスを供給。これが上田の前方で慌てて足を出した相手ディフェンダーに当たってオウンゴールとなった。
 中国との開幕戦から続いていた最終予選の連勝が「3」で途切れただけでなく、3月の北朝鮮との2次予選から続いていた公式戦の連続無失点も「6」で途切れた。不完全燃焼の思いを募らせながらも、最低限ともいえる勝ち点1を手にした。
 田中がチーム全員の思いを代弁する。
「4連勝したかったけど、特にこの10月シリーズは難しいと思われていたなかで、1勝1分けという結果をポジティブにとらえるしかないかな、と」
 遠藤を欠いた陣容での戦い方。さらに相手に守りを固められた状況で「攻撃的な3バック」をいかにして機能させるのか。課題を突きつけられたなかでも、4試合を終えたグループCは勝ち点を10に伸ばした無敗の日本が、豪州、サウジアラビア、バーレーンの2位グループに5ポイント差をつけて首位を独走する状況が続いている。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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